第25話 セーブポイント

 俺がキャラクリで作った顔は、銀髪のウェーブのかかった長髪、顎には無精ひげ、太い眉に大きな青い瞳、イケメンと言うよりもワイルドな風貌にした。その方がギルガメッシュのキャラに合っていると思ったからである。ここで一つだけ訂正することがある。実は瞳の色だけは強制的に青だったのである。青以外は選択できなかった。


 「これで視線はましになっただろう」


 俺は再度周りを見渡すが見物客はさらに増えていた。


 「あのお姿は黒龍神の生まれ変わりではないのか?」

 「肩の上にお座りになってる少女は天使様かな?」

 「やっと、私たちを救いにきてくれたのだわ」

 「ありがたや、ありがたや」


 ポーターと同様に帝都市民たちも俺を黒龍神の御使いだと勘違いしているようだ。俺はこれ以上に騒ぎが大きくなる前に移動する事にした。俺が目指すのは宿屋だ。なぜ宿屋を探しているのかは簡単だ。それは【七国物語】では、宿屋がセーブポイントの一つであり、リアルモードでは、セーブポイントが現実世界に戻る方法である。俺はすでに【七国物語】を4時間ほどプレイした。一旦現実世界に戻って確かめたい事があった。


 俺は広場から北に進む道を選び速足で駆け抜ける。広場に集まった群衆は俺を羨望の眼差しで見ていたので、少しでもその場を離れたかった。


 広場を抜けるとカラフルな屋根や外壁で作られた家が規則正しく並んでいた。一番最初に目にしたのは黄色の屋根にクリーム色の外壁の2階建ての建物だ。入り口にはベットの絵の看板が掛けられている。おそらく、ここが宿屋だと思われる。俺は扉を開き宿屋に入る。扉を開けると30代くらいの小柄な女性が俺を出迎えてくれる。


 「いらっしゃいませ。ここは帝都で一番安い宿屋です。そのかわりに食事は出ませんので、ご理解のほどお願いします」


 元気な声で30代くらいのふくよかな女性が笑顔で出迎えたくれた。


 「パパ〜お腹空いたの~」


 ノアールが甘えた声で俺に訴える。


 「後でたらふく食べさせてあげるから少しだけ我慢してくれ」

 「たくさん歩いたからお腹空いたの~」


 幼女モードのノアールは純真で素直に自分の気持ちを表現するようだ。俺は違う宿屋にすべきか迷う。


 「お客様、この宿屋では食事のサービスはありませんが、近くの食堂などから出前を頼むことができます。こちらの5つの店舗と出前契約を結んでますのでご覧ください」

 「ノアール、食事を頼む事が出来るからここの宿屋でいいよな」

 「うん」


 ノアールの許可が降りたので俺はこの宿屋に泊まる事にした。俺は2階の部屋を入りすぐにベットで横になってみた。


 「パパ、セーブポイントだよ!このままゲームを続けるの?セーブして現実世界に戻るの?それとも本当に寝るの?」


 ノアールは可愛い笑顔で説明をする。俺は一旦セーブして現実世界に戻る事にした。


 「セーブして現実に戻る」

 「いってらっしゃーい」


 急に目の前が真っ暗になり意識が無くなった。気付くと俺はパソコンチェアーに座っていた。


 「どういう仕組みなんだ」


 俺はモニター画面を見る。モニターには【七国物語】のタイトル画面が映し出されている。俺が確かめたかった事は実際に現実世界に戻る事が出来るかという事だ。仕組みはわからないが無事に現実世界に戻る事が出来て俺はホッとした。


 「明日から盆休みで10日間はゲームに専念できる。盆休み期間は【七国物語】やり込んで動画をアップしないとな」


 俺はすぐにでもプレイした動画をYTubeにアップしたい気持ちだったが、それは出来ない。【七国物語】の利用規約により、プレイ映像及びネタバレになる事はSNSの類で発信する事が禁止されていた。これは7日間という制限ありの禁止事項だ。なので、【七国物語】の発売後、7日間を経過すれば動画をアップする事が出来る。俺は1000万円という大金を課金した。回収可能な金額ではないが、俺のYTubeが収益化になり1円でも回収できるように努力するつもりだ。その為にも俺の盆休みの全てを【七国物語】に捧げるつもりである。


 「よし、戻るとするか」


 俺は再び【七国物語】のプレイを再開した。

 

 「パパ、おかえりなさい。こっちの世界では0.5秒経過したの」


 愛くるしいノアールの笑顔に俺の鼻の下は伸びる。ノアールはゲーム内での時間の経緯を説明してくれた。ゲーム内では俺はベットで横になり瞬きしている間に戻って来たことになる。【七国物語】のリアルモードでは、現実世界に戻っている間にも、世界の情勢は動いている。ゲームの世界と現実世界の時間の経過は同じではないと利用規約に記載されていたが、どれほどの差異があるかはわからない。どのようなゲームでも現実世界と同じ時を刻むゲームは無い。


 「そうか。確かめたい事は出来たし、食事でも頼むか?」

 「うん」


 俺は宿屋の店員から受け取った5つのお店のメニューを手に取る。


 「うんしょ」


 ノアールは可愛らしい声を出しジャンプして、ベットに腰に掛けて、俺の膝の上に乗る。


 「ここがいいの」

 「好きにするが良い」


 膝にちょこんと座るノアールに俺もまんざらでもない。俺はノアールと一緒にメニューを見て遅めの昼食を取る事にした。


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