第24話 パパ

 ポーターの帆馬車は遅い。いや帆馬車が遅いのでなくノアールが早すぎるのだ。


 「あまりにも遅いので逆に疲れてしまいます」


 ノアールから俺に話しかける事はないのだが、ゆっくりと歩くのに疲れて思わず愚痴を言ったのである。いつもよりゆっくり歩けと言われれば以外としんどいものである。


 「ノアール、すまない。先に行くわけにもいかないからもう少し我慢してくれ」

 「わかりました」


 ノアールはコトコトとゆっくりゆっくりと歩く。


 1時間後。

 遠くに赤いレンガで作られた大きな塀が見える。塀の向こうには赤や黄色などカラフルな建物、その奥には真っ白な大きなお城が見える。おそらくあれが帝都ロギアルシアンであろう。


 「ノアール、もうすぐ帝都に着くようだ」

 「はい。ご主人様」


 「戦士様、帝都の門が見えてきました。私が先にゲートキーパーに話をつけてきますので、その場でお待ちください」

 「わかった」


 帝都の門まで残り30mくらいのところで俺は待つことになる。そして、5分後ポーターが戻って来た。


 「戦士様、帝都に入る許可をもらってきました」

 「ありがとう」


 「当然の事をしたまでです。ところで戦士様、ぜひとも皇帝陛下にお会いしてほしいのですが、よろしいでしょうか」

 「断る」


 まず、俺は帝都に入って確かめたい事がある。それに、皇帝陛下に会うと面倒な依頼を押し付けられそうなので、是が非でも避けたいところでもある。


 「戦士様、そんなことを言わないで下さい。お願いします!皇帝陛下に会って下さい」


 俺は何度も断ったがポーターはしつこく皇帝陛下に会わせようと懇願する。


 「わかった。しかし、先に帝都を探索させてくれ」


 俺はさけられないメインストーリーだと判断して皇帝陛下に会う事にした。


 「ありがとうございます。私が話を通しておきますので、明日の午前中にお城に来てください」

 「わかった。では、帝都に入らせてもらうぞ」


 「あ!戦士様、これは助けて頂いたお礼です」


 ポーターは1000ルギー入った小袋を俺に手渡した。

 

 「ありがとう」


 俺はポーターにお礼を言って帝都の門に向かう。帝都を守る門の大きさは縦10m横5m、中央には3首の龍が翼を広げている紋章が見える。門の左右にはシルバーのフルプレートアーマーを着た屈強な兵士が各3名合計6名が、俺を出迎えるように片膝をついて頭を下げていた。そして、門の中心にはゲートキーパーのイキリールと名乗る男性が羨望の眼差しで俺に見惚れていた。


 「黒龍神の御使い様・・・いえ戦士様、ようこそ帝都ロギアルシアンへ。すぐに使いの者を用意致しますので、少々お待ちください」

 「いや、使いの者はいらない。詳しくはポーターに聞いてくれ」


 「わかりました。どうぞ、中へお入り下さいませ」


 俺は帝都の門をくぐり中にはいる。門を抜けると大きな噴水のある整備された緑豊かな広場が出迎えてくれた。広場を中心に広い石畳の道路が東西北に連なっていた。幸いにも人気があまりなかったので、ここでノアールから降りる事にした。


 「ご主人様、町に入りましたので姿を変形します」

 「わかった」


 俺がノアールから降りると、ノアールの周りに白い煙が立ち込めて巨大な漆黒の馬の姿が消えた。


 「パパ~疲れたの~。抱っこしてよ」


 俺の目の前に姿を見せたのは、身長が1mほどの6歳児くらいの愛くるしい幼女だった。幼女の姿は、健康的な褐色の肌に、神々しく光る腰まで伸びた金色の髪、ルビーのような大きな瞳、そして、絹で出来た黒のワンピースを着ていた。


 「俺はパパじゃないぞ」

 「じゃぁ、ママにするの」


 屈託のない笑みで答えるノアールに俺は戸惑いを隠せない。さすがに、ママと呼ばれるとまわりの反応が怖い。


 「俺の名前は知っているよな」

 「うん。ヒロヒロだよ」


 「俺の事はヒロヒロと呼んでくれ」

 「ヤダ~。パパかママがいいのぉ~」


 ノアールは地面に座り込みジタバタして駄々をこねる。ノアールが大声で駄々をこねるので広場にいた帝国民が興味本位でこちらの方に目をやる。このままだと目立ってしまう。


 「わかった。パパでいいぞ」

 「わぁ~い。パパ大好き」


 ノアールは満面の笑みを浮かべてウサギのようにぴょんぴょんと飛び跳ねている。


 「目立つからおとなしくしてくれ」

 「抱っこしてくれたらおとなしくするの」


 「・・・」


 俺は恥ずかしくて抱っこなど出来ない。


 「抱っこ!抱っこ!」


 ノアールは地面に座り込み再びジタバタして駄々をこねる。


 「わかった。わかった。抱っこは恥ずかしいから俺の肩に乗せてやろう」

 「わぁ~い。パパ大好き」


 ノアールは蛙のようにピョッンと飛び跳ねて俺の肩に乗る。ノアールには帝都に着くまでたくさんお世話になった。次は俺がノアールにのんびりとしてもらうために、肩に乗せるのも悪くない考えだ。外ではノアールに乗せてもらい、町では俺がノアールを乗せるという協力関係も悪くはない。

 


 「たか~いの」


 ノアールは腹話術の人形のように俺の肩に乗って嬉しそうだ。


 「ひとまず宿屋に行こう」

 「うん」


 俺は宿屋に向かおうとした。しかし、何か鋭い視線を感じる。俺は周りを見渡すと、いつの間にか広場には大勢の人だかりが出来ていて、まるで俺を見世物のように凝視している。俺は気付く。俺の姿があまりにも目立ちすぎるのである。ただでさえ210cmと人並み外れた身長なのに、漆黒のフルプレートアーマーに身を包み、黒龍神の三面顔兜を被っている。あきらかに異質の存在である。


 「兜くらいは外すか」


 装備品はいつでも着脱可能だ。超大剣と同じように自由に異次元ポケットに収納できる。俺は目立つのを避けるために黒龍神の三面顔兜を外した。



 


 

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