第23話 いざ、帝都へ

 悲鳴がした場所では凄惨な事件が起きていた。幌馬車の周りに首が斬り落とされた男性の死体が4つ、胴体から激しく血が噴き出ている男性の死体が3つ、そして、青年の前で土下座をして、命乞いをしている50代くらいの顎鬚を蓄えた太った男性がいた。

 残虐に殺された人間の死体が7体も転がっていて、多量の血が吹きだし、死体からは内臓が飛び散り骨がむき出しになっている。生臭い血の匂いに泣きながら命乞いをする男性の姿、俺はそんな凄惨な光景を見ても心が落ち着いていた。これも多くの魔獣を倒して、ギルガメッシュの体に馴染んできた結果なのかもしれない。沈黙の森での戦闘訓練は無駄ではなかったようだ。


 「ノアール、俺はどうすれば良い」


 俺は命乞いをしている男性を助けるべきか迷っていた。おそらく、ここはストーリーの分岐点だと俺は考えた。


 「幌の側面には三つ首の龍の紋章が描かれていますので、襲われているのは帝国の幌馬車です。助けるか放置するかはご主人様の判断にゆだねます」


 ノアールから教え得てもらえたのは、襲われているの帝国の幌馬車であることだけだったが、この幌馬車を助ければ帝都に入る事が出来るかもしれないと思ったので俺は男性を助ける事にした。

 襲われていた幌馬車の周りには、3人の屈強な男性が目をギラつかせて立っている。そして、男性達は大きな斧を持っていて、その斧からは多量の血が滴り落ちていた。おそらく、この男性達が凄惨な現場を作り出した張本人だと思われる。俺は馬から降りて男性達の側に近づいて行く。


 「邪魔をするな」


 男達が声を張り上げて叫ぶ。


 「なぜ、帝国の幌馬車を襲った」

 「お前には関係ない事だ。誰だか知らないが邪魔をするならお前も殺すぞ」


 男たちは斧を構えて俺に襲ってきた。すると黒龍神の領域のスキルが発動する。俺はゆっくりと超大剣を四次元ポケットから取り出して、男達をハムのようにスライスにした。そして、俺は命乞いをしている男性の元へ向かう。


 「お前の仲間は死んだ。お前はどうする?」


  俺は青年に声をかける。


 「その漆黒の鎧は・・・」


 俺の姿を見た青年は、青い瞳を赤く輝かせて俺に刃を向けて襲い掛かって来た。再び黒龍神の領域のスキルが発動し、青年の動きが亀よりも遅くなる。俺はゆっくりと超大剣を振りかざし、頭から真っ二つに切り裂いく。4人もの人間を切り裂いだが、罪悪感、嫌悪感も感じない。もし、最初の敵が人間だったら、このような冷徹な心で対処する事は出来なかったかもしれない。


 「これで終わりか・・・いや、まだ居るみたいだな」


 襲われていた幌馬車の荷台から2人の男が降りて来た。


 「何事だ!」


 俺が殺した男の仲間だと思われる男が大声で叫ぶ。しかし男は生まれたての小鹿のようにガクガクと大きな体を震わせて完全にビビっていた。


 「お・お・お前が・・これをやったのか?」

 「ハハハハハ・ハハハハハ」


 大きな体をガクガクと震わせている男の後ろで、狂ったかのように笑っている男がいる。俺はその男に見覚えがある。そうだ、沈黙の森で見かけたプレイヤーだ。しかし、無課金の服装なので同じプレイヤーとは限らない。


 「死ねぇーーー」


 震えている男は覚悟を決めて俺に襲いかかる。しかし、俺は超大剣を横に構えなおしハンマーのように男を叩き潰した。盗賊だと思しき男たちは始末した。後は、プレイヤーだと思われる男だけだ。俺はこの男をどうすべきか迷っていた。


 「XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX」


 男が大声でわめきだした。しかし、何を言っているのか俺には理解できない。


 「ご主人様、彼は協力プレイの解放ができていません。本来なら警告メッセージが流れるのですが、あのプレイヤーは精神が不安定になり、会話でなく独り言を言っています。しかし、規則により独り言もご主人様が聞き取る事は出来ません」

 「俺はどうすれば良いのだ」


 「ご自由にしてください」

 「そうか・・・」


 俺は超大剣を振り落として男を殺してみようと試みる。すると超大剣は男の頭の上1㎜のところで自然に止まった。やはりPK(プレイヤーキル)も出来ないようだ。俺は男を放置して、襲われていた商人だと思しき人物のところに向かった


 「ケガはないか」


 俺は地面に這いつくばっている男性に声をかける。

 「そのお姿は・・・」


 男性が俺の姿を見てガクガクと震え出す。男性が怯えるのは当然だ。身長は2m10㎝、漆黒のフルプレートアーマーに身を包み、顔は龍の形をした三面顔の兜、手には2mの巨大な剣。決して正義のヒーローには見えない。


 「黒龍神様、助けて頂いてありがとうございます」


 男性は神様でも拝むかのように両手と頭を地面につけてお礼を言う。


 「おい、俺は黒龍神ではないぞ」

 「もちろん、心得ています。あなた様は黒龍神様がお送りになさった御使い様なのですね。お姿を見てすぐにわかりました。私達の行いは間違いではなかったのだ」


 俺の装備は黒龍神の素材で作られているため、俺が黒龍神の使いだと勘違いしているようだ。しかし、俺は黒龍神の使いではない。


 「俺はただの冒険者だ」


 俺は黒龍神の使いでない事を否定するが男は聞き入れてくれない。   


 「わかりました。戦士様がそのように否定なさるのならば、私も戦士様の言葉に従います」

 「そうしてくれ」


 俺は不愛想に返事をするが男性は幸福の笑みでご満悦だ。


 「もしかして、戦士様は帝都に向かう途中でしょうか?」

 「そうだ。しかし、俺は身分証もお金もない。残念だが帝都に入れそうにはない」


 「私は皇帝陛下から命を受けて、デスガライアル鉱山から黒龍神様に献上する緋緋色金を帝都まで運搬しておりますポーターと言います。私がゲートキーパーに戦士様のことを説明致しますので、帝都までご案内致しましょうか?」

 「それは助かる」


 俺はポーターと共に帝都に向かう事にした。


 「戦士様、あそこで座り込んでいる賊の仲間を帝都まで連行したいと思います。申し訳ありませんが少し手伝っていただけないでしょうか」

 「かまわない」


 ポーターは、プレイヤーの男を縄で両手を縛り口には猿轡をして逃げ出さないようにした。


 「戦士様、賊を帆馬車に荷台に乗せてもらってもよろしいでしょうか」

 「わかった」


 俺は男を子猫を掴むように首根っこをつまんで荷台に投げ入れた。ゲームの進行過程なので、プレイヤーの男に触れる事が出来たのであろう。


 「戦士様、もう少しだけお待ちください。転がっている賊の身元を確認したいと思います」

 「わかった」


 ポーターは俺に殺された男たちの遺体をあさっていた。しばらくして、男性が俺に声をかける。


 「お待たせして申し訳ありませんでした。今から帝都に向かいますので、私の後を付いて来てください」

 「わかった」


 俺はノアールに乗り帆馬車の後を追った。


 

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