第22話 馬術

 利用規約にはこのように書かれていた。リアルモードではプレイヤー間の協力を禁止しています。しかし、ある条件を満たす事でプレイヤー同士が会話をして情報提供したり、パーティーを組むこと並びにプレイヤーキルが可能になります。もし、利用規約を破り接触し会話をすれば、キャラクターの舌を切断し二度と喋る事が出来なくなります。この舌の切断はいかなる魔法などでも修復は出来ませんのでご理解してください。もちろん、筆談など喋らない方法で接触した場合は舌の切断だけでなく両手の切断も執行されるでしょう。


 ある条件を満たせばプレイヤー同士の協力やプレイヤー同士のキルも可能だ。情報交換は良い側面もあるが悪い側面もある。例えば、嘘の情報を流す事で相手を貶めるなど危険も多い。その為、プレイヤーを守るために他のプレイヤーとの接触を一切禁じているのであろう。デスペナルティーが全てを失う死なので、過剰に初心者を保護していると考えられる。  


 「ノアール、近くに町はないのか?」


 俺はたくさん素材をゲットしたので換金してお金を手に入れる事にした。


 「近くに帝都ロギアルシアンがあります。しかし、帝都に入るには身分証または通行税が必要になります。ご主人様は身分証もお金も持っていません」

 「そうなのか・・・」


 「はい。課金して所持金を得ていれば、すぐに帝都ロギアルシアンに入る事ができました」


 俺はスーパーガチャに1000万円も課金をしたので、それ以外の課金はしていなかった。


 「身分証も通行税も支払わないで入れる町はあるのか?」

 「わかりません。私が熟知しているのは【7国物語】の利用規約とスタート近辺のごく僅かな情報のみです」


 ノアールは何でも教えてくれる便利なナビゲーターではなかった。後は自分で行動して考えろという事であろう。とりあえず俺は沈黙の森を出る為にノアールに騎乗しようとした。


 「そういえば、俺は馬に騎乗したことがない。どうやって馬に騎乗すれば良いのだ?」


  俺は馬術の経験はない。むしろ、馬術の経験のあるプレイヤーのが少ないはずだ。


 「安心してください、ご主人様。馬術も戦闘と同じです。ギルガメッシュは馬術の腕に長けたキャラです。自然と体が動いて馬を操作する事ができます。それに、私とご主人様は念話をする事ができますので馬の操作は不要です」

 「それはありがたい事だ」


 俺は安心してノアールに騎乗して沈黙の森を駆け抜ける。すぐに鬱蒼とした雰囲気は消え去り、太陽が照りつける青々とした草原に出る事が出来た。すると石畳で舗装された道路が見えた。


 「この道を進めば帝都ロギアルシアンに辿り着くのだろう」


 道は南北に連なっていた。どちらかに進めば帝都ロギアルシアンに辿り着く事ができるのだろう。


 「ご主人様、北に進めば帝都に着くでしょう」

 「よし、それなら南へ進もう」


 ノアールは北に進めば帝都に辿り着くと教えてくれた。しかし、俺には帝都に入る術はない。なので、逆方向へ進み違う町を探す事にした」


 「ご主人様、まだ緊張されているのでしょうか?」


 ノアールは俺が馬の上でガチガチに体が固まっている事にすぐに気付く。


 「おう・・・まだ少し緊張している」


 魔獣が血を吹き出す凄惨な死体を見た時も、気分が悪くなりしばらくは動けなかった。それを克服するために魔獣を倒し続けた事により、今は全く気分が悪くなるようなことはない。ゲームの世界の環境に慣れるのは、通常の世界とは比べ物にならないくらいに早いと思われる。それは、ゲームのキャラの体を利用しているので、ゲームの世界感に馴染み易くなっているのだろう。


 「ノアール、南に進むのは辞めだ。俺は馬術になれるように練習をするぞ」

 「わかりました。では、このあたりの草原を駆け巡りましょう」


 俺はノアールと一緒に草原を心行くまでに走り回った。馬を操作するのは捻話ができるので簡単だが、馬の揺れで気持ち悪くなり、バランスを保ち姿勢を正すのは難しかった。しかし、時間が経つにつれて、姿勢も綺麗になり揺れにも慣れ、華麗に馬に乗りこなす事が出来るようになった。たかが1時間程度で、馬を乗りこなせる事は不可能だ。これもギルガメッシュの能力が影響だ。初めから能力が存分に発揮出来ないのは面倒だが、これもリアリティーを少しでも感じらるようにと製作者側の演出だと思われる。

 数時間後には、自分の手足のように自由に馬を扱い、地面を歩くように自然と馬に乗れるようになった。


 「ギャー――」

 

 突然、この世の終わりを告げるかのような断末魔の叫びが聞こえた。


 「ノアール、あの声はイベントなのか?」


 俺は至って冷静だった。もし、現実世界で断末魔の叫びを聞いたら、ビックリしてあたふたしてしまうだろう。しかし、リアルモードにも慣れてきて、冷静に判断する事が出来た。


 「【七国物語】では、イベントという概念はありません。プレイヤーならびに【七国物語】の住人は自分の意思を持って行動しますので、どのような事件が発生し、どのように解決するかは誰も知る事はないでしょう」

 「AIが自由な意思を持って行動しているのだな」


 【七国物語】の住人はプログラミングによって決められた動きをするのではなく、AIによって自由に行動するのだと俺は解釈した。


 「解釈は自由にしてください。【七国物語】はプレイヤーの選択によって無限の可能性を秘めるMMORPGです。どんな困難が待ち受けているかもしれませんが、自由に行動してください」


 これ以上追求するのは野暮だ。ゲームを楽しむなら細かい設定を問いただす方が間違っている。


 「ノアール、助けに行くぞ」

 「わかりました」

 

 俺は悲鳴がする方へ向かった。

 

 

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