第21話 低課金、無課金
沈黙の森で出現する魔獣はブラックウルフ、アサルトボア、サイレントベアーの3種類の魔獣がメインであった。ブラックウルフ、アサルトボアはDランク、サイレントベアーはCランクの魔獣だ。
俺はSSSSランク、この世界で最強クラスの強さなので、どんな魔獣が出て来ても問題はない。しかし、スタート地点である沈黙の森の魔獣は、無課金では絶望的なエリアであり、低課金(10万円以下)でも苦戦を強いられるエリアであると痛感した。
人間族なら最低でも基本職(Dランク相当)のウイザード(魔法使い)、ウォーリアー(戦士)、クラージー(聖職者)を選択して、最低限の装備品、魔法、スキルを課金しておかないと、戦闘チュートリアルで死んでしまう可能性は十分あると言えるだろう。
例えばウイザード(魔法使い)なら、職業課金が8万円、魔法を使うのに必要な一番安価な杖マジックウッドが5000円、低級の攻撃魔法ファイヤーバレットが1万円なので、最低でも9万5000円の課金が必要だ。そして、Dランクと言っても範囲は広く細かく言えば、この程度の装備と魔法だとDランクの下程度の実力だろう。ブラックウルフ、アサルトボアはDランクの下の強さなので、9万5千円を費やして、やっと戦闘チュートリアルをクリアー出来る可能性が見えてくる。
「ノアール、沈黙の森の魔獣は強すぎないか?」
「はい、強いです。帝都から近いですが、人間は誰も沈黙の森に入る事はしないでしょう。それほど危険な森と言えます」
「おいおい。そんな危険場所からスタートとはおかしくないか?」
「スタート地点は種族、職業、課金額によって決まる事になっています。沈黙の森からスタートする人間族は、無職(職業課金をしなかったプレイヤー)の方、もしくは【神外七巨星】のギルガメッシュのキャラを当てたプレイヤーのみとなります」
「それって・・・」
俺は敢えて言葉に出さなかった。俺が言いたかったのは、沈黙の森のチュートリアルは戦闘ではなく、魔獣から逃げるチュートリアルだろ!と言いたかったのである。
「公式サイトで言っていた通りだな。最低でも10万の課金をしないとまともにプレイできないのか・・・なんて理不尽なゲームだ」
俺は思わず愚痴をこぼす。
「理不尽ではありません。お金を使わまずに無料でプレイする考えこそが理不尽です」
ノアールはプレイヤーよりも運営の味方だ。
「ノアール、無課金や低課金でプレイしたプレイヤーには成長の要素はあるのか?」
俺は無課金や低課金で始めたプレイヤーの事が心配になってきた。公式サイトや利用規約を見た限りでは、課金以外は成長要素は非常に少なかった。
「ヒロヒロ様、【七国物語】はレベルという概念が存在致しません。しかしそれは全く成長をしない事ではありません。ストーリーを進めていくうえで、プレイヤー様の選んだ選択肢によって無限の可能性は残されています。それが、何かと聞かれても私は知りません」
ゲームの世界に転移するアニメなどではステータスオープンと言えば、自分のステータスを確認できる作品が主流であるが、【七国物語】ではレベルの概念がないので、ステイタスの概念もない。現実世界でも、体力や技術などを数値化して見る事が出来ないのと同じ発想なのかもしれない。なので、レベルやステータスがない事が成長しないという事に繋がらない可能性も秘めていると言えるだろう。
「ノアール、【七国物語】では死んでしまったら、死んだキャラは使えなくなるのだろう。俺が1000万円をつぎ込んで手に入れたギルガメッシュのキャラも失ってしまうのか?」
【七国物語】では蘇生の概念もない。普通のゲームなら何度死んでもセーブ地点からやり直せる事ができるが、【七国物語】は死んでしまったら、キャラを作り直してから再スタートになる。1000万円もつぎ込んだ俺も同様の扱いだとさすがにきつすぎる。
「はい。それがデスペナルティーです。死んだ者が再び生き返る事はできません。もう一度課金をしてやり直す事になります。しかし、ヒロヒロ様が死ぬ可能性は99%ありません」
先ほどもノワールとの会話で感じ取る事が出来た違和感がここで確信に変わった。俺は無敵の存在ではない。俺を殺す事が出来る存在が1%は存在するのである。おそらく、その相手は【神越7巨星】の残りの6巨星だろう。少なくとも俺以外にスーパーガチャをした人物はいる。
「そうか・・・。もう少し感覚を確かめてから近くの町にでも行くか」
俺は戦闘に慣れる為に再び魔獣退治を続ける事にした。
沈黙の森で魔獣を退治して2時間ほどが経過した。俺はギルガメッシュの体の特性をある程度把握する事が出来た。そして、神殺しの超大剣の扱いにも慣れてきた。
縦にすると剣になり横にするとハンマーのような鈍器に変わる神殺しの超大剣は、どんなゲームにも存在しない残虐な大剣である。1tを越える大剣を爪楊枝のように軽く扱えるのは、ギルガメッシュのキャラだからなせる芸当なのであろう。神殺しの超大剣は、ギルガメッシュ以外誰も使いこなすどころか持ち上げることすら不可能だと断言できる。
「これくらいでいいだろう」
目の前を通り過ぎた1匹のブラックウルフを超大剣で叩き潰したところで俺の修練は終了した。
「彼はプレイヤーだったのだろうか?」
沈黙の森から走って逃げるみすぼらしい恰好の男性の後ろ姿が見えた。俺はあの服装に見覚えがある。それは初期装備であるぼろ布の服だ。沈黙の森は無職のスタート地点なので他のプレイヤーと出くわす事もあるだろう。
「武器も持たずに初期装備・・・もしかして無課金でプレイをしているのか?」
俺は【七国物語】の非道な事項を思い出した。【七国物語】を無課金でスタートし尚且つヘルインバイト社のツイスター【SNS】をフォローしていなければ、ゲームの死が本当の死に直結するという事項である。そんなことはありえないと思っていたが、今俺はありえない状況に立たされている。今なら非道な事項が真実である可能性が高いと考えるのが妥当であろう。
俺は彼がツイスターのフォローをしているか確認する必要があると感じて、彼を追いかけようとした。
「ご主人様、お待ちください。利用規約を思い出してください」
ノアールが俺を止めに入る。
「しかし・・・」
「無駄です。きちんと利用規約を読んでいれば問題はないはずです」
「・・・」
「もし、あのプレイヤーが利用規約を読まずにプレイしていたのならそれは自己責任です。ご主人様が力になれる事は何もないでしょう」
俺は追いかけるのを断念せざる得なかった。。
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