第20話 戦闘&解体
利用規約の全てに目を通している俺には、ノワールの説明に対して目新しい情報はなかった。利用規約などきちんと目を通さないプレイヤーの為の再確認の為の説明だったのであろう。
「何か質問はありますか?」
「大丈夫だ」
「では、今から戦闘のチュートリアルを始めたいと思います。武器を構えて自由に振りかざしてください。キャラに応じて武器の操作難易度が違いますが、ご主人様は【神外七巨星】ですので、操作方法は簡単に設定されています」
リアルモードでは、コントローラーやキーボードを操作して武器を扱うのとは全く違う。剣の重みや間合いなどリアルな扱いや動きが必要になる。
「俺は剣など握った事はないけど大丈夫なのか?」
「問題ありません。説明をするより実際に剣を振った方がわかると思います」
俺は手には2mの超大剣を握りしめている。たしかこの超大剣の重さは1tを越えていると書かれていた。人間が1tを越える重量物を持ち上げる事は不可能だ。しかし、これがゲームの世界ならそんな常識は通用しないのだろう。俺は試しに超大剣を持ち上げてみた。
「これが1tだと・・・ありえない。爪楊枝をつまんでいるかのように重さなど全く感じない」
俺は超大剣を軽々と持ち上げる事が出来た。そして、試しに超大剣を振りかざす。
『ズビュー―ン』
激しい風切り音が響き、超大剣の風圧で地面にヒビが入る。
「すさまじい剣圧だな。まぁこれが現実ならありえない現象だ」
剣を振りかざして地面にヒビが入るなど現実ではありえない。
『ズドーン』
俺は超大剣が本当に1tの重さがあるのか試すために地面に超大剣を投げてみた。すると、超大剣は激しい音と共に地面にめり込んだ。
「よくできた世界観だな」
周りを見渡すと新緑の香りがする木々が立ち並び、新鮮で心地よい風を感じることが出来る。呼吸をすると新鮮な空気が鼻から肺に入り、口からは二酸化炭素が吐き出て行く。まるで、ゲームの世界に転移した気分だが、実際はそうではないのだろう。どのような技術かは不明だが、脳に何かしらの方法で刺激を与えて、夢を見る方法と同じ原理で、想像上の世界を見せられているのだろうと俺は結論付ける。
「よし、剣を振ってみるか」
俺は適当に超大剣を振りかざす。すると、俺の意志とは無関係に体が勝手に綺麗な太刀筋で超大剣を振りかざした。それは、コントローラー、キーボード操作のように、決まったボタンを押すと、決められた技が繰り出すかのような感じだった。
「ヒロヒロ様、超大剣を自由に使いこなせていますね」
「そうだな」
「では、次は魔獣が出現しますので倒してください。それで、戦闘チュートリアルは終了します」
「わかった」
ノアールが説明を終えると木々の隙間から赤く光る二つの輝きが見えた。その光は徐々に俺に近づいて来る。
「ヒロヒロ様、あの魔獣は沈黙の森の住人ブラックウルフです。体長は2mほどで討伐難易度はEランクになっています。訓練を受けて武器を装備した一般の人間の力が最低ランクのFランクになりますので、課金をされていない方はすぐに逃げる事をおすすめしています」
「俺のランクは確か・・・」
「ヒロヒロ様は、最高ランクSSSを凌駕するSSSSランクです。【7国物語】では勝てない相手はいないでしょう」
「そうか・・・」
俺はノアールの言葉にある疑問を抱くが、ここでは追求しなかった。
俺がノワールと念話をしている間にゲームは停止する事なく時を刻む。ブラックウルフは大きな鋭い牙をむき出しにして俺に襲い掛かる。すると、ギルガメッシュが持つ黒龍神の領域というレアスキルが発動した。
俺の周りの世界のスピードが遅くなる。実際は俺の感覚精度が研ぎ澄まされて、世界の時間が遅く感じるレアスキルだ。なので、世界の時間が遅くなるのではなく俺のスピードが速くなると言った方が正解なのかもしれない。
ブラックウルフがフワフワと宙に浮いてるかのように迫って来る。俺は超大剣を振り上げてブラックウルフに振り落とす。ブラックウルフは綺麗に真っ二つに切り裂かれた。
「うぇっ」
俺は真っ二つに切り裂かれたブラックウルフの死体から噴水のように吹き出る血を見て気分が悪くなった。
「ご主人様、大丈夫でしょうか?」
「すこし、休ませてくれ」
生臭い血の匂い、そして内臓がむき出しになっているブラックウルフの死体、ゲームの世界だとわかっていても、あまりにリアルでグロく、俺は気分が悪くなり吐き気がもようしてきた。俺は地面に座り込み呼吸を整える。剣の操作は体に自然と汲み取られていたが、精神的なモノはリアルな自分のままであった。
俺が休息をとって15分が経過した。
「ご主人様、お体はいかがでしょうか?」
「もう、大丈夫だ」
休息をとり俺の気分は良くなってきた。
「それではご主人様、ブラックウルフの毛皮、牙、肉は高値で換金する事が出来ますので解体をいたしましょう」
「わかった。しかし、どうやって解体をすれば良いのだ?」
目の前には半分に切り裂かれたブラックウルフが転がっている。ゲームなら勝手に素材・お金・経験値を得る事が出来るのだが、リアルモードでは、そのような仕様になっていないらしい。ノアールの話しから推察すると自分で皮を剥いで毛皮、肉、牙に解体をしなければいけないようだ。
「今から解体のチュートリアルに入ります。素材を手に取れば解体すべき部位や解体方法などの知識は自動的に発動しますので安心してください」
「それは助かるな」
剣の扱いと同じで解体もキャラの能力に組み込まれていて、自然と解体が出来るようだ。俺は左半分のブラックウルフを左手で拾い上げて、解体を試みようとすると、自然と超大剣を持っている右腕が動き出した。解体の仕方は想像していたよりも至極簡単だった。次は、右半分のブラックウルフの解体に挑む。俺は左手でブラックウルフを空に向かって投げつける。そして、落下して来るブラックウルフに対して、右手に持っていた超大剣を目にも止まらぬ速さで上下左右に切り裂いた。すると、俺の目の前には綺麗に解体された毛皮、肉、牙が並んでいた。解体された形になれば、肉屋で売っている状態と同じなので気分が悪くなることはない。
「ご主人様、上手に解体する事が出来ました。解体した素材は収納袋に入れるのですが、ご主人様はレアスキルの異次元ポケットをお持ちなので、心で念じれば自然に収納できます」
「わかった」
俺のレアスキル異次元ポケットは、念じれば即収納即取り出しができる便利な収納スキルである。俺は収納と念じる。すると目の前にあった毛皮、肉、牙は消えて俺の異次元ポケットに収納された。
「ご主人様、これでチュートリアルは終わりです。後は自由に【7国物語】の世界を冒険してください」
「わかった」
【7国物語】は必要最低限のチュートリアルしか用意していないようだ。しかし、これだけでは、心もとない感はぬぐえない。俺のキャラが【7国物語】の世界で最強だとしても、ストーリーを進める前に戦闘の練習が必要だと俺は感じた。
「ノアール、俺はしばらく沈黙の森で練習をしていく」
「わかりました。ご主人様」
俺はブラックウルフを相手に戦闘の練習を始める事にした。それは、リアルな死体に慣れる事と、この世界で得たギルガメッシュの肉体と俺の肉体では出来る事が全く違うので、ギルガメッシュの肉体で、どのような動きが出来るのか確かめる必要があると感じたからであった。
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