第19話 ノアール

 スーパーガチャを終えキャラクター名をヒロヒロにしてゲームを開始する。すると、利用規約画面に移り変わった。利用規約などきちんと読む人は少ないだろう。俺はYTubeで新作のゲームを紹介している関係で、ゲームの利用規約はきちんと目を通すことにしている。特に無名のゲーム会社の作品だと、プレイヤーに不利になる条項があると視聴者に迷惑がかかる恐れがあるので、視聴者を守る為にも確認する必要があった。

 利用規約の内容を把握して、何か詐欺まがいの条項や、プレイヤーにとって不利になる条項がないか、一言一句見落とさずにしっかりと読む。時にはスマホを開いてわからない事を調べながら、全部の文言に目を通した。


 「これが本当ならヤバいゲームだな。プレイする前に警告動画を出した方が良さげだな」


 俺は利用規約を読んで愕然とした。この内容が本当ならば、無課金でプレイをした人の命が危ないと感じた。しかし、本当にこのような事が起こり得るのだろかとも感じていた。それは、あまりにも内容が現実的でなく漫画やアニメのような絵空事であったからである。

 そもそも、利用規約に書いてあるゲームの世界に入り込むリアルモードなど、実現不可能なシステムだ。もし、それが実現可能なら世界中を震撼させる大発明であり、世界が注目する大ヒットゲームになるはずである。そして、ゲームの死が現実での死に繋がるという明記には、一瞬俺は笑いそうになった。リアルモードの内容ですら奇想天外な馬鹿げた内容なのに、ゲームで死ねば現実世界でも死んでしまうなんて、そんな技術があるのならば、ゲームの発売は禁止されてしまうだろう。

 俺は利用規約に書いてある数々の奇想天外、非現実的、とんでもない発想に、真面目に反応するのがバカらしくなったが、万が一に事実であれば、この情報を公開しないといけない義務があると俺は感じた。


 万が一にも起こる可能性はないが、俺は無課金でプレイすると最悪死が訪れる可能性があると、利用規約の映像を載せた動画を作成してYTubeにアップした。ここで余談だが、【七国物語】のプレイ映像をYTubeに投稿するのは発売日後、2週間を経過しないと投稿してはいけないと、利用規約に書いてあった。もし、利用規約を違反してプレイ動画を投稿すれば、即座に法的処置を行うと明記されていた。なので、俺はプレイ動画でなく、【七国物語】をプレイする時の注意点として、5分ほどの動画を投稿したのである。


 俺はYTuberとしての義務を果たしてゲームを再開する。【七国物語】では、種族によってスタート地点が違う。また、人間族は5つの国が存在するので、どの国からのスタートになるのかは課金の額や、職業なので決まるらしい。なので、人間族でもみんな同じ場所からスタートすることはない。


 「リアルモードとゲームモード・・・。本当にリアルモードなんてあるのか?利用規約ではゲームの世界に入ってプレイするのがリアルモードと記載されていたが、どのような技術でリアルモードを再現するんだ?」


 俺にはパソコンとモニター以外の器具はない。仮にリアルモードをアニメや漫画のように再現する事ができるのなら、3Dゴーグルのような特殊な器具が必要だと思われる。パソコンとモニターだけでゲームの世界に入り込むなんて絶対に不可能だ。おそらくゲームに入っているようなリアリティ感が増す演出が施されてるのだと俺は考える。かなりパソコンに負荷がかかりそうな気がしたが、利用規約に記載されていたリアルモードをするのに必要なパソコンのスペックには対応しているので問題はないと判断した。


 YTuberとしてリアルモードはどのようなモノなのか紹介する必要があるので、俺はリアルモードを選択した。すると、モニターが激しく光り出し俺は思わず目を閉じてしまった。数秒後、俺は目を開けると、大きな木々が聳え立っている森の中に居た。


 「ヒロヒロ様、【七国物語】の世界へようこそ。まずは私の名前を決めてください」


 静けさが広がる薄暗い森の中が俺のスタート地点であった。目の前には大きな木々が聳え立ち、その中心に巨大な漆黒の馬が俺を見ていた。俺はまず自分の姿を確認した。

 体には龍の鱗で出来た漆黒のフルプレートアーマー、右手には赤黒い2mの超大剣を持っていた。左手で顔を触ってみると、兜をかぶっているようだ。


 「間違いない・・・ここはゲームの世界だ。どうやったらこんな事が起こりうるのだ?いや、考えても無駄だろう。とりあえず、ゲームを進めてみるか」


 俺はギルガメッシュの姿でゲームの中に居た。それは紛れもない事実である。どのような技術を駆使してゲームの世界に入る事が出来たのか詮索しても仕方がないので俺はゲームを進める。まずは、目の前にいる黒龍馬の名前を決めてあげよう。


 「ノワールにするか」


 ノワールとはフランス語で黒と言う意味である。黒龍馬は雌馬であり、町に入る時には女の子に変身するので、響も可愛いので問題ないだろう。


 「ノワール・・・とても良い名前です。気に入りました!」


 先ほどまで機械的な音声だったが、名前を決めた途端に可愛らしい女の子の声に変わった。おそらく、名前を与えたことにより命が吹き込まれたという演出なのであろう。しかし、念話と言えども巨大なイカつい馬から可愛らしい女の子の声が聞こえてくるのは違和感を感じる。


 「ご主人様、今からゲームの説明をします」


 俺は利用規約でゲームの内容はある程度は把握しているが、答え合わせをするために、ノワールの話しに真剣に耳を傾けた。

 

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