第17話 神越7巨星

 ついに【7国物語】の発売日が来た。俺はすぐにパソコンにダウンロードしてゲームを始める。まず最初にするのは種族の設定である。種族によってスタート地点が異なり、どのように7つの種族が交わり合うのかはプレイヤーの選択肢によって無限のストーリが用意されている。

 俺は7つの種族の特性をしっかりと時間をかけて確認する。種族選びはこのゲームをスムーズに進めるための重要な要素であると公式サイトで説明があったからである。しばらくすると俺はある事に気付いた。画面の左下にお知らせのアイコンが現れたのである。


 「お知らせだと?ゲームに関係があることなのか」


 俺は気になったのでアイコンをクリックした。すると、画面が切り替わり七色に光るガチャガチャの映像が映し出される。


 『【7国物語】をダウンロードして下さってありがとうございます。【7国物語】の発売を記念して、先着7名様限定の1000万円スーパーガチャを用意いたしました。1000万円を投入するとSSSSランクの【神越7巨星】が当たります。【神越7巨星】とは、【7国物語】の理から外れた神を超越する存在であり、【7国物語】の世界では存在しない装備品を着用し、究極魔法、レアスキルなどを習得できる究極生命体です。【7国物語】の発売記念に作られた【神越7巨星】のスーパーガチャは、本日をもって終了させていただきますので、早めの決断をお勧めします』


 「バカか!誰が1000万のガチャなんてするんだ!」


 俺は思わず画面に向かって叫んでしまった。それほどくだらないガチャだと感じたのである。


 「・・・嘘だろ」


 なんと、スーパーガチャの残り枠が7名から6名に減ったのである。誰かが1000万円のスーパーガチャを回したのだ。俺はその事実に突如焦りを感じてしまった。


 「ありえないだろう。誰がこんな糞ゲーに1000万円を投入するんだ・・・」


 俺は信じられなかった。しかし、ここである考えが俺の頭をよぎる。


 「誰もしない事をすれば・・・再生数が稼げる。もしかして、大物YTuberがネタの為に1000万円を投入したのか」


 大物YTuberが高額商品を買ってYTubeに動画を投稿する事はよくあるネタであり、俺のような底辺YTuberには決してできない芸当だ。


 「この糞ゲーは俺が見つけたんだ。誰がスーパーガチャをしたんだ・・・」


 俺はこの時かなり動揺していた。偶然見つけた【7国物語】は、誰も紹介動画をあげていない未発見のゲームだった。ゲームの内容は重課金をしないと強くなれない糞ゲーだが、俺以外のYTuberが紹介していない強みがあった。しかし、大物YTuberと思わしき人物が1000万円のスーパーガチャを回した恐れがある。もし、【7国物語】に大物YTuberが参戦したら底辺の俺が勝てるはずがない。


 「どうする・・・俺はどうすれば良い・・・」


 俺はこの時どうかしていたのかもしれない。1000万円のスーパーガチャなど金持ちの道楽か、絶対に回収できる自信がある大物YTuberくらいしかしないだろう。俺みたいに収益化されていない底辺YTuberが手を出す案件でない。しかし、この時の俺は冷静に考える思考を失っていたのかもしれない。それとも、【7国物語】に人生を賭けるだけの価値があると幻想を抱いていたのかもしれない。

 俺は10年間、正社員として真面目に働いてきた。そして、将来の為にコツコツと貯蓄もして、銀行の口座には1000万の貯蓄がある。


 「お金ならある。しかし・・・」


 すぐに決断できるものではない。10年間貯めたお金をゲームのガチャに使うなんてありえない。


 「・・・」


 いつもの俺なら考える間もなくガチャをしないだろう。しかし、この時の俺は欲望の沼にハマったかのように、叶うはずもない妄想に憑りつかれていた。


 「人生は一度くらい勝負しなければいけない時があるはずだ。コツコツと貯めた1000万だが、ここで使わずにいつ使うんだ!」


 決して今ではないと誰しも思うはずである。しかし、この時の俺は今しかないと決断したのである。


 「今しかないだろう!俺は【7国物語】というビッグウェーブに乗って夢を掴むんだ!」


 俺は貯蓄を差し出してスーパーガチャを回すことにした。スーパーガチャをしますにクリックを合わせると、画面には警告画面が現れる。


 【1度回したスーパーガチャは返品はできません。本当にスーパーガチャをしますか? はい いいえ】


 俺は【はい】をクリックする。すると、契約画面が現れる。俺は契約事項をきちんと読んでから必要事項を書き込んだ。俺の手はすごく振るえていた。緊張で何度も打ち間違えをした。覚悟を決めたつもりだったが、内心は焦りと不安と緊張で額からはものすごい汗が多量に流れていた。

 



 

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