第16話 ヒロヒロチャンネル

 俺の【ヒロヒロチャンネル】は、登録者300人の最底辺のYtubeチャンネルだ。ゲームの紹介動画をメインに投稿していて、収益化される1000人までにはほど遠い。様々なジャンルのゲームを見境なく紹介してきたが散々たる結果だ。しかし、そんな俺にも好機が舞い降りて来た。それは1週間前に投稿した【7国物語】の紹介動画が3万回再生を記録して、俺のチャンネル史上一番の再生数を叩きだした。


 【7国物語】は、聞いたことのないヘルインバイトという会社であり、情報も非常に少なく公式サイトも最近立ち上げられたばかりだ。なので、【7国物語】に目を付けているYtuber は誰もいなかった。俺は偶然目にした【7国物語】の公式サイトにすぐにアクセスして、【7国物語】の糞ゲーっぷりに度肝を抜かされた。【7国物語】は基本プレイの無料のMMORPGだが、無料でプレイを始めると、最弱の種族である人間でプレイする事になり、職業は無職で装備品もぼろ布を継ぎはぎして作られたみすぼらしい服とズボン、武器、魔法、スキルもない。戦う術も力もないので魔獣も倒せない本当の意味での死にゲーである。運営は、課金をすれば無限の可能性と選択肢がある未来型MMORPGと紹介しているが、一方課金をしない方には壮絶な地獄と死が待っていると堂々と宣言していた。


 【7国物語】は、課金をすればするほど強くなる重課金ゲームだった。種族、職業、魔法、スキル、装備品、アイテム、所持金など全て課金で手に入れる事ができるが、一方レベルという概念はないので、経験値を貯めて強くなるというよりも、課金しないと強くなれないという糞ゲーだ。

 公式サイトに載せられているトレーラー映像を見ると、ゲームのグラフィックのクオリティーは、今までのどのゲームよりレベルが高く、まるで、現実と遜色ない映像美であり見る者を魅了する。本当にこの映像がプレイ映像であったなら、その点だけは神ゲーとして紹介しても良いだろうと思った。

 俺は隈なく公式サイトに目を通した。感想としてはネタとして紹介できるゲームだと思った。だが、最低でも10万円の課金をしないとゲームを進めるのは困難な点はきちんと説明すべきだと判断する。そして、実写のような美しいグラフィックは、あくまで(仮)と説明しておく。トレーラー映像がプレイ映像だと断言できる情報がなかったからである。

 俺は、視聴者様にお勧めできるゲームではないが、ネタにはなるので一度はプレイして見るのは良いと説明した。すると、【7国物語】の紹介動画の反響は俺の想像をはるかに超えていた。俺の動画の最高再生数は1000回程度である。それに対して【7国物語】の動画は投稿して1週間で3万回再生を記録し、チャンネル登録者数は一気に400人も増えて700人となった。しかし、俺はこの状況を素直に喜ぶ事は出来なかった。それはコメント欄が荒れに荒れたからである。


 「成長要素がほとんどなく、課金しないと強くなれないゲームなんて誰がするんだ?」

 「金持ちマウントの糞ゲー」

 「グラ詐欺だな。プレイ映像はしょぼそう」

 「これどこのメーカーのゲーム?全く聞いたことない」

 「お前が責任をもってプレイしろ」

 「俺はやらん。代わりにお前がプレイしろ。もちろん見てやるよ!」

 「ヒロヒロさん。プレイ動画楽しみにしています」

 

 コメント数は1000を超えたが、誰一人としてゲームをしてみたいというコメントを残していない。それどころか【7国物語】を紹介した俺に対しての誹謗中傷が多かった。だから、俺は素直に喜ぶ事はできなかった。だがしかし、俺はこれは好機だとも感じていた。それは、俺が【7国物語】をプレイして動画を上げれば再生数、登録者数を増やす事が出来るのではないのかと思った。コメント欄から読み取る事が出来たことは、自分自身はプレイをしたくはないが、どんな糞ゲーなのか興味があるのだと感じ取れる。今の時代、自分自身はゲームをしないがYtuberがゲームをプレイしている動画を見て楽しむ層もいる。俺のチャンネルはゲームの紹介がメインでゲーム実況の動画はほとんど投稿していない。


 【ヒロヒロチャンネル】を開設して2年目、そろそろ限界を感じていた。目標のチャンネル登録者数1000人までにはほど遠く、趣味の一環として続けていたがモチベーションが保てなくなっていた。そんな時に偶然出会ったゲームが【7国物語】だった。ネタとして投稿したら思った以上の反響があった。マイナスの反響だったが、挫けそうだった俺の心を鼓舞してくれる興奮剤となり、俺は【7国物語】でYtubeドリームを掴むと決意した。


 

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