第15話 魔獣

 まずは、キャラバンのキャリッジ(人が乗る場所)の中の紹介をしよう。このキャラバンは20人乗りだが、キャリッジには4人しか乗っていないので広々としている。短刑期囚が乗るキャラバンは17人乗っているので、少し窮屈かもしれない。キャリッジには2つの樽が用意されている。1つは水、もう1つにはフランスパンのような長くて堅いパンが入っている。おそらく牢屋内で投げ入れられたパンと同じ物であろう。これは俺達の食料であり飲み水になる。キャリッジの出入り口付近の床には直径5㎝ほどの穴があり、普段は蓋がされている。これはトイレであり垂れ流し状態になっている。牢屋の中のように貯めるタイプではないのはありがたい。キャリッジは快適とは言えないが、牢屋の中に比べたら天上の隙間から新鮮な空気、心地よい風、微かな太陽光が差し込むので気持ちが良い。床は木の板なので長旅には苦痛ではあるが、冷たくゴツゴツした石の床に比べたらマシである。


 「クライナー、デスガライアル鉱山にはどれくらいで着くのだ」


 立場が逆転した俺は上座に座り上から目線でクライナーに尋ねる。


 ※この世界ではキャリッジでは御者席(馬車を運転する席)側を上座、キャリッジに乗り込む入り口を下座と呼んでいる。最初はクライナーが一番偉いと思っていたので上座に座っていたが、俺が上座に座ることになった。


 「おそらく3日間ほどで着くと思われます」


 キャリッジの出入り口付近にはトイレもあるので、一番力のない者が下座の出入り口付近に座る。クライナーはキャリッジの中央付近に座っていた。


 「そんなにかかるのかよ!」


 馬車は1日で50㎞走る事が出来るので、帝都から150㎞離れたところにデスガライアル鉱山があると思われる。150㎞の場所など車で行けば2時間30分もあれば着くだろう。


 「申し訳ありません。ですが、馬車で3日の移動など普通だと思います」


 このゲームの世界は馬車がメインの交通手段である。離れた場所に行くには時間がかかるのは当然であった。俺はゲームの世界である事を忘れていた。それは現実世界と全く変わらない感覚に陥っているからである。俺は無意識のうちにここはゲームではなく現実世界だと認識してしまっていた。


 「あ・・・そうだな」


 俺は我に返る。ここはゲームの世界だと。しかし、ゲームの世界でも車や飛行機など最先端の技術があってもおかしくない。いや、今はそんな事よりも重大な事がある。それはこの世界での俺の現状だ。


 「ところでクライナー、俺達はデスガライアル鉱山で何をすれば良いのだ」


 聞かなくてもある程度は想像は着く。鉱山なのだから坑道内で鉱石を掘り出す仕事なのであろう。発破・掘削・採鉱、搬出といった過酷な労働が待ち受けているはずだ。


 「私達長刑期囚は、坑道内の発破及び掘削をやらされます。ロックゴーレムなど魔獣が出現する可能性がありますので、とても危険な現場です」


 発破とは火薬を仕掛けて爆破させる事であり、掘削とは土砂や岩石を掘り取る事である。仕事の内容は想定通りであった。しかし、魔獣の事は想定外だ。


 「ロックゴーレムが出現するとはどういうことだ」


 俺は声を荒げる。


 「ボス・・・知らないのでしょうか?」


 ここはゲームの世界、魔獣が出現するのは当然だ。しかし、ダンジョンや迷宮などなら魔獣が出るのは理解できる。しかし、鉱石を採掘中に魔獣が出るとはどういう環境なのか俺は理解できなかった。しかし、俺は200年の刑期を喰らった大悪党だ。ここで知らないとは言えなかった。


 「確認だ。お前達が俺と同じ認識をもっているか確かめてみたい」

 「そういうことでしたか。疑って申し訳ありません」


 すこし、強引だったが理解してくれた。


 「デスガライアル山には多くの魔石が埋没しています。ボスもご存じだと思いますが、魔獣は魔石と物体、植物、動物などと融合する事によって生まれます」

 「そうだな」


 もちろんそんな事は知らない。


 「発破作業や掘削作業の際に偶然魔石と岩石が融合すればロックゴーレムが生まれます。ボスもご存じだと思いますが、融合して魔獣が動き出すまでには20秒程時間がかかりますので、その間に逃げる事が出来れば命は助かりますが、少しでも判断が遅れるとロックゴーレムに殺されてしまいます。しかし、ボスには心配無用ですね」

 「そうだな。ロックゴーレムごとき俺の敵でない」


 俺は虚勢をはる。


 「頼りにしています」


 クライナーは嬉しそうに返事をしたが、俺はロックゴーレムに遭遇しない事を願うばかりである。

 デスガライアル鉱山まで馬車で3日間、強制労働の内容は坑道内での発破作業、掘削作業。作業内ではロックゴーレムが出現する可能性がある。これが俺がクライナーから得る事が情報だ。このまま、クライナー達からこの世界の事の情報を聞きだすのも一つの手だと思うが、俺は200年刑期を受けた大悪党と思われている。変にボロを出すと俺の強制労働生活に支障をきたす可能性もあるので、いっぺんに聞き出すのでなく、少しずつ様子を伺いながら情報を集める事にした。


 

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