第12話 鉱山送り

 「こいつらも無課金でゲームを始めたプレイヤー達なのか・・・」


 俺が入った牢屋には、俺以外の罪人が3名いた。3人はお互いに距離をとり牢屋の角に俯いて座っている。その3人の服装は俺と全く同じでありぼろ布を継ぎはして作られた服を着ていた。それどろか髪の色、髪型を同じである。顔は俯いているので確認はとれないが、何処にも売っていない継ぎはぎの服を着ている事がプレイヤーである事を証明している。

 

 俺は右奥に座っている男に声をかけようと近寄る。男達は俺に対して無関心のようで、全く顔を上げる気配がない。


 「・・・・」


 俺は「お前達は七国物語のプレイヤーなのか?」と声を掛けようとしたが、言葉を発する事が出来ない。そして、俺の脳内にこの世界に来た時と同じ声のアナウンスが聞こえて来た。


 『利用規約違反です。次同じように利用規約を違反しますと罰則として舌を切り取り一生喋る事が出来なくなります』


 利用規約違反って何のことだ。俺は何を違反したのだ。俺は頭の中で考える。下手に口に出してしまうと罰則がある可能性があるので慎重に行動する。それに、アナウンスに話しかけても返答がないのは立証済みだ。

 俺が顔を抑えながら考えていると俺の背中を叩く者がいた。俺はすぐに振り返る。すると、見覚えのある顔が俺の目に映し出される。俺が思わず声をあげようとしたとき男は口を開いた。


 「あぁぁぁああぁぁぁ」


 男はきちんと喋る事が出来ないが、俺は男が何を言いたいのかすぐに理解した。「余計なことはしゃべるな。俺みたいになるぞ」と言いたいのだろう。男はあえて口を大きく開けて舌がない事をアピールしていた。これでさきほどのアナウンスは嘘でなく事実であることは証明された。

 俺は男に聞きたい事が山ほどある。しかし、利用規約に違反するので、迂闊に声を出す事はできない。他の2人の男が死んだようにおとなしく座っている理由を俺は理解した。ここに居る俺を含めた4人は無課金でゲームを始めたプレイヤーだ。自分と同じ境遇の人間を見つけたが、情報を共有する事が出来ずに自暴自棄に陥りやる気をなくしたのだろう。しかし、俺は違う。この状況を見て一筋の光が見えた。

 ここはゲームの世界だ。様々な選択肢が用意されいて無限の可能性がある。俺はどこかで選択肢を間違ったのかもしれない。いや、もしかして間違っていないのかもしれない。最初は不遇な環境に陥るが徐々に成り上がっていく、成り上がり系ファンタジー作品も流行っている。これは、成り上がりの選択肢なのかもしれない。と俺は前向きに考える。他の男達みたいに自暴自棄になったところで何も得る事はない。それなら前向きに考えた方が得策である。俺はこんな所で死にたくない。ぜったいに成り上がってゲームをクリアーする。絶望が俺に希望を与え俺は強い意志を持つことが出来た。


 俺は舌を切られた男に会釈をしてお礼の気持ちを伝えた。男も会釈をして牢屋の角に戻る。俺は運営のアナウンスの利用規約の違反について考える。MMORPGとはゲーム内で他のプレイヤーと協力して旅をする事が醍醐味である。しかし、協力プレイがないMMORPGもある。もし、【7国物語】に協力プレイがなければ、俺以外のプレイヤーがいる事はおかしい。そこで俺はある結論にいきつくことになる。解放条件をクリアーしないといけないという考えだ。ゲームによっては、序盤は協力プレイは出来ないが、ゲームを進めていくに連れて協力プレイができるようになるゲームがある。今はゲームを始めたばかりである。最初はソロプレイしか出来ないと考えるのが妥当だ。そして、ソロプレイをしている間は他のプレイヤーとの接触、情報収集などが禁止されているのかもしれない。アナウンスが言っていた利用規約とはそのことなのであろうと俺は前向きに考えた。俺は自暴自棄でやる気をなくした他の無課金プレイヤーとは違う。

 俺は牢屋のドア付近に立ち他の牢屋を見渡してみる。地下2階には5つの牢屋が用意されていて、1つの牢屋には最大5人の罪人が収容される。トイレは牢屋の中央に穴が空いているのでそこで用を足す事になる。鼻が曲げるような異臭の原因はこのトイレが原因だ。牢屋の角でなく中央にトイレがあるのは見せしめの意味もあるのだろう。牢屋内は松明のような照明があり、照明の近くは明るく照明から離れると薄暗くなる。俺の牢屋からは他の牢屋の中は見る事が出来ず、他にもプレイヤーがいるのかわからなかった。


 俺が周りを見渡しているとカツーン・カツーンと階段を降りる音が聞こえた。


 「お前が新しい罪人か」


  緑色のダブルブレストに黒のタイトパンツを履いた背の高い男が俺の前に姿をみせる。ガイアスティック帝国の役人である衛兵は服の色で階級が分けらている。一般職の下位の衛兵は緑色のダブルブレストを着ている。ゲートキーパーのイキリールは緑のダブルブレストを着ていたが、プリーストであるジャッジは赤のダブルブレスト着ていたので上級衛兵になる。


 「はい」

 「これで20人確保する事ができたな。罪人たちよ聞くがよい」


 男は大声を上げて喋り出す。


「お前たちは帝国に仇をなす罪人だ。しかし、慈悲深い皇帝陛下はお前達みたいな糞にも大いなる寵愛を与える寛大なお方だ。糞たちよ、喜ぶが良い。明日お前達をデスガライアル鉱山に送り込む事が決定した。慈悲深い皇帝陛下のお役に立てる事に感謝しろ」


 男はその事を告げると階段を上がり姿を消した。

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