第11話 魔法


 あれから質問は続いた。俺は1つも質問に答える事が出来ずに右手の全ての爪を剥がされた。右手から血が床に滴り落ちる。床にこびり付いた血は、俺と同じ様に爪を剥がされた罪人の血だと理解するのにはさほど時間はかからなかった。


 俺は指先の苦痛を忘れるために、声を出し続けた。痛みで声を出すのは、痛いからではなく、違う事に意識を飛ばしたいという防衛本能である事に俺は気づく。大声を叫んでいる間は、脳の神経がそちらに集中するので、痛みを感知する脳の役割が少しだけ鈍るのである。しかし、それは気休め程度にしかならない。

 俺を縛る両手両足の縄は、激しく皮に食い込み皮膚をえぐって血が吹き出してた。それほど俺は激しく体を動かしていたのだろう。


 「ジャッジ様、イキルールがお呼びです。またしても盗賊の片棒を担いだ糞が捕まったそうです」


 拷問部屋の扉が開きピチャーレがジャッジに報告をする。


 「またか・・・」


 面倒くさそうにジャッジが返事をする。


 「この糞と同じ様な糞が最近増えているようです。早く溜まった糞達を送り出さないと、神判所が糞まみれになってしまうでしょう」

 「そうだな。鉱山行きの糞達が牢獄に溜まっている。明日にでも一斉に送り出そう」



 糞とは俺の様な犯罪者の事を指すのだろう。そして、俺のように騙されて盗賊の片棒を担がせられた人が他にもいるみたいだ。


 「すぐに手続きを済ませます」

 「ご苦労。しかし、その前に馬車の清掃、レッドカーペットの清掃など、演出を高まるための準備も必要だ。忙しいかもしれんが、これは皇帝陛下の指示である。すぐに準備に取り掛かれ」

 

 「ジャッジ様、少し待ってください。この糞はどうしたらよろしいでしょうか。再びこの拷問部屋も使用する可能性があります。刑期もまだお決めになっていませんので、どの様に対処すれば良いのでしょうか?」

 「コイツは俺の質問にふざけた回答しかしておらん。コイツには最高刑を言い渡したい所だが、デスガライアル鉱山が人不足で困っていると聞いている。最近増えてきた闇バイトの糞達と一緒にこの大糞も送る事にしよう」


 「わかりました。それで刑期はどのくらいに致しましょうか」

 「そうだな。死ぬまでと言いたいところだが、俺の海よりも深い慈悲によって200年にしといてやる。200年間デスガライアル鉱山で働けば、お前を自由にしてやる。ガハハハハ」


 ジャッジの薄気味悪い笑い声が拷問室に響き渡る。俺は爪を剥がされた痛みでジャッジの話しの内容は届いていない。ただ体中に駆け巡る激痛を和らげるために泣き叫んでいた。


 「本当にうるさい奴だな。俺のありがたい話をきちんと聞け」

 「ジャッジ様、この糞はギャーギャーとうるさくて迷惑です。いつものアレを施して黙らせてもらえると幸いです」


 「そうだな。ギャーギャーうるさい糞に俺のとっておきの魔法を使ってやるか」


 ジャッジは俺に近づき手をかざす。


 「世界を統べる7龍神最強のたる黒龍神アルマゲドン様の加護を賜りし私に、神のお力をお貸しください。魔法を司る神オーディン様、全ての破壊は無に帰り復元する事をお許しください。【レザレクション】」


 俺の体が眩い光に包まれた。すると爪を剥がされて流れて落ちていた血は止まり、縄が食い込んで両腕両足から溢れでいた血も止まった。そして、俺を苦しめていた激痛が和らいだ。


 ※リザレクションは低級の回復魔法。


 「どうだ。俺の力を思い知ったか。ガハハハハハ」


 ジャッジは高笑いをする。


 「ありがとうございます」

 

 俺は痛みを消し去ってくれた事に嬉しさが込み上げてきて、神を崇める様にジャッジに頭を下げてお礼を言う。


 「ガハハハハハ、ガハハハハハ。これだ、この快感が忘れられないぜ」


 ジャッジは罪人を拷問して苦痛で悶える姿を見て楽しむサディストではない。ジャッジは痛みで悶絶する罪人に、治癒魔法を使って傷ついた体を治癒する事で、罪人から感謝される事に喜びを感じるマッチポンプ変人である。自分で痛みを与えておきながら、それを治癒して元に戻すこのやり方は、罪人たちにジャッジの治癒魔法の偉大さを思い知らせるには非常に役にたつ。拷問を繰り返して痛めつけ、素直に自供すれば回復してもらえるので効果も絶大だ。これはいくら拷問をしても死ぬ事は無く、永遠に拷問を繰り返す事ができるという逆説的な恐ろしさも兼ね備えている。死に逃げる事が出来ないジャッジの拷問に耐える事が出来る者などいない。嘘でも誠でもジャッジの言う通りに自供するしかないのであった。


 ピチャーレが縄を解いて俺を椅子から解放する。


 「地下2階に降りなさい」


ピチャーレは鞭を床に叩きつけて俺に命令する。


 「はい」


 俺は背筋をピンと伸ばして元気よく返事をする。鞭の音を聞くと鞭を打たれた痛みが脳に再生されて冷や汗が出る。俺は自由に動けるようになったが抵抗することなくおとなしく地下2階に降りる。


 「糞の後始末は私がしておきますのでジャッジ様は帝都の大正門へ向かってください」

 「うむ。後の事は任せたぞ」


 ジャッジは神判所を出て大正門へ向かった。

 帝都ロギアルシアンに入るには、俺が通行した大正門以外にも3つの入り口がある。通常使用するのは大きな鉄の門がある大正門になる。


 地下2階も拷問部屋と同様に石が敷き詰められた冷たい場所であり、鼻が曲がるくらいの汚臭が襲う。俺は吐き気をもよおすがグッとこらえて口だけで息をする。地下2階は鉄の檻で作られた牢屋が5つほど存在した。1つの牢屋の大きさは10畳ほどで、そこに5人の罪人が収容される。ピチャーレがおもむろに床に激しく鞭を打つ。鞭の音に呼応するかのように罪人たちは体をブルブルと震わせ怯えている。ピチャーレは牢屋に近づきカギを外し扉を開く。罪人たちは鞭の音にビビッて逃げるようなことはしない。


 「ここに入るのよ」


 もちろん俺も抵抗することなく自らの足で牢屋に入る。俺が牢屋に入るとカギは閉められる。


 「・・・」


 俺は牢屋に入ると、罪人たちの姿をみて驚愕した。


 

 

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