第10話 拷問部屋
拷問部屋に入ると急に寒気を感じた。寒さの原因は拷問部屋がたくさんの石を積み合わせて出来た石の牢獄だからである。拷問部屋の中央には石で作られた凸凹の椅子があるだけで他には何もない。床をよく見ると血がびっしりと付着していて、部屋には生臭い獣臭のような歪な匂いが充満していた。俺は石で作られた冷たい椅子に座らせられ、両手は肘掛けに、両足は椅子の脚に、背中は背もたれに、縄で縛られて動けないようにされた。凹凸で作られた石の椅子の座り心地は最悪だ。お尻には尖った石が食い込み、背もたれにも尖った石があるので、背もたれに少しでも当たらないように前傾姿勢を保たなければならない。
「あああなどと言うくだらない名前を名乗った事を後悔させてやる」
ジャッジに言われなくても俺はひどく後悔をしている。きちんと名前を付けていれば、俺は拷問部屋に連れて来られることは無かったのかもしれない。
「イキリールの報告では、お前は皇帝陛下宛の大事な積荷を盗もうとしたようだな」
「知らなかったんだ。俺は・・・」
「黙れ!お前の刑はもう確定している。今さら嘘を言っても罪は変わる事はない」
ジャッジは俺の話しに耳を傾けるつもりはない。
「イキリールはお前を【薔薇の目】の仲間だと言っていたが、ぼろ布を継ぎはぎした服に貧相な顔立ち、少しの痛みでわめき散らす根性の無さ、【薔薇の目】の仲間だとは到底思えない。どうせお前は最近流行りの闇バイトに手を出した貧乏平民だろ。最近は帝都に入る為の身分証もなく通行税も払えない旅人が増えている。そんな奴らを上手い話で騙して盗賊の片棒を担がせる闇バイトが帝都では横行しいている。お前も【薔薇の目】に騙されて幌馬車を襲ったのだろ」
「そうなんだ。そうなんだ。俺は騙されたんだ。だからここから出してくれ」
俺はジャッジは薄気味悪い変な奴だと思っていたが間違っていた。ジャッジは俺の姿や態度を見て全てを見透かす頭の切れる男だった。
「騙されたからと言って罪がなくなるわけではない。しかし、人も殺していないし、積荷も無事だ。情状酌量をしても刑期は1年から3年くらいが妥当だな」
「そ・・・そんな」
俺は唇を噛みしめて自分のしたことを後悔する。たしかに、ジャッジの言う通り俺は幌馬車に乗り込み積荷を盗む手助けをした。あの場で勇気をだして逃げ出してれば、刑期は変わったかもしれない。しかし、その前に男たちに捕まって殺されていただろう。俺はあの時は最善の選択をした。
「お前・・・何か勘違いをしていないか?お前が犯した盗賊行為などどうでも良いのだ。俺が怒りに満ちているのは、お前が黒龍神アルマゲドン様と皇帝陛下を侮辱した事だ。皇帝陛下への侮辱は国家反逆罪になり、最低でも10年の刑期、最高だと全裸で帝都内を馬車で引きずり回した後、帝都の門の前で磔にしてカラスのエサとなる。全身の皮がめくれて肉がむき出しになった所を、カラスに肉を食い散らかせられる苦痛が三日間は続くのだ」
俺は目の前に暗転が降ろされたかのように真っ暗になる。そして、喉がつぶれるくらいに大声で叫ぶ。
「嫌だぁぁぁぁぁぁ~~~」
「まだ、声を出せる元気あるようだな。今から拷問をして、お前の性根を叩き直してやる。まだあああなどというふざけた名前を口に出すようなら最高刑が待っていると思え」
ジャッジは、ダブルブレストのポケットからペンチを取り出した。そして、ペンチの先を舌で舐めて薄気味悪い笑みを浮かべている。
「拷問をする前に俺の事を教えておいてやろう。俺の名はジャッジ・メント・センテンス。俺は神の恩恵を受けクラージー(聖職者)の職業を与えられた聖寵者(せいちょうしゃ)だ。クラージーは生命力を司る魔法を使う事が出来るレアな聖寵者だ」
クラージ?聖寵者?何を言っているかわからない。生命を司る魔法を使う事が出来るのは理解できたが、生命を司る魔法とは一体どういう魔法なのだろう。
「今から尋問を始める。俺の質問に真摯に答えれば、刑期も短くなるだろう」
「はい。わかりました」
俺はジャッジの質問の答えによって刑期が決まる。どのような質問をされるのか不安だが、決して名前だけは聞かないで欲しいと願う。
「我らが崇拝するガイアスティック帝国の皇帝陛下の名前を述べてみろ。ガイアスティック帝国に住む者なら知らないわけがない。俺はなんて優しくて慈悲深い男なのだ。こんな簡単な質問に答えるだけで刑期が軽くなるのだぞ。俺に感謝しろ」
自分が住んでいる国の最高権力者の名前など帝国民なら誰でも知っているだろう。もちろん、赤ん坊や子供は除くが成人した一般男性なら知っていて当然だ。俺も自分が生まれ育った国の首相の名前くらいわかる。しかし、ここはゲームの世界。そもそもガイアスティック帝国すら知らない。ヒロヒロさんのYTubeで世界観や映像、ゲームの内容などの情報は知る事ができた。しかし、ゲームの始まりの国の名前は説明していなかった。俺が知っているのはこの世界には7つの種族がいる事くらいである。
「どうした?こんな簡単な質問にも答える事ができないのか?」
「お願いします。ヒントを下さい」
ヒントなど貰っても名前がわかるとはとうてい思えない。しかし、わらにもすがる気持ちで俺はヒントを望んだ」
「ふ・・・ふざけるな!我らに多大なる寵愛を与えて下さる皇帝陛下の名前をお前は知らないのか?ヒントだと・・・お前は皇帝陛下をバカにしているのか!」
ジャッジは顔を真っ赤にして激昂した。
「やはりお前にはお仕置きが必要だ。ふざけた態度をとると、どうなるか体で覚えるが良い」
ジャッジは手に持っていたペンチで俺の中指の爪を挟む。
「まずは1つ目だ。またふざけた答えや態度をとると爪を剥がすぞ」
ジャッジは覗き込むように俺の顔を見て、じわりじわりといたぶるようにゆっくりとペンチを傾ける。
「うわぁぁぁぁ~~~」
全身が硬直し指先に金槌が落とされたかのような激しい痛みが襲う。俺は痛みを分散させるため大声で悲鳴を上げた。俺の声は拷問部屋の冷たい石の部屋にヒビが入るくらいに響き渡った。
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