第9話 黒龍神アルマゲドン
俺が馬車から降りると地面にはレッドカーペットが敷かれていた。レッドカーペットの先には真っ白の屋根の教会のような建物がある。この建物が神判所であり、高さは10m程でマンションの4階建ての高さと同じくらいである。
「今日の主役はあなたですね。さぁ!こちらへどうぞ」
馬車から降りた俺に、純白のドレスを着た背の高い金髪ロングの美しい女性が俺に手を差し伸べる。俺は手を出すか一瞬迷ったが、あまりの女性の美しさに吸い込まれるように手を出してしまった。女性の手はとても柔らかく俺の気持ちをほがらかにしてくれた。女性からは甘いチョコレートのような香りがして、俺は天国に迷い込んだのかと錯覚してしまう。真っ白で清潔感のある神判所は、天国へ通じる聖地のように見え、俺が罪人である事を忘れさせる。
弾力のあるフカフカのレッドカーペットを女神のように美しい女性に手を引かれながら進み、神々しいオーラが漂う神判所の中に俺はいざなわれた。神判所の中は聖堂のように天井が高く、周りの壁は銀箔が貼られ、天井から差し込まれる日差しで、ギラギラと光りを放ち神々しさに拍車をかける。ここは、まさしく天国もしくは楽園である。しかし、神判所の突き当りの祭壇部には真っ黒の三つ首の龍の像があり、神判所の神々しさをかき消すような不気味な雰囲気を漂わしている。三つ首の龍の像は帝都の門、それにジャッジのダブルブレストに付いていた徽章と同じ造形だが、神判所に鎮座するように作られた三つ首の龍には、顔はなく首だけであり、大きく広げられた翼も至る所に剣で斬りつけられた傷が無数にあり右翼がない。そして、二本の分厚い大きな足は崩れ落ちるように地面に倒れ込むように折り曲げられ、胴体の腹部には大きな穴がある。足の2倍程ある赤黒い尻尾は途中で斬り落とされているようだ。
神判所に祀られるように作られたと思われる三つ首の龍の像だが、荘厳さや神々しさはなく、不気味さと禍々しさが際立っていた。
「黒龍神アルマゲドン様に祈りを捧げましょう」
ジャッジは三つ首の龍の像の前に跪き、両手を合わせ目を閉じて祈りをささげる。俺もジャッジと同じように祈りをささげるふりをする。
「アルマゲドン様の前では、すべての人間が平等に裁きを受けることになります。さぁ、アルマゲドン様にあなたの名前をお伝えください」
ジャッジの優しい声が響く。
「・・・」
俺は自分の名前を言おうとした。しかし、何者かによって声をかき消された。
「何をしているのでしょうか?アルマゲドン様に名前を告げてください」
「・・・ ・・・ ・・・」
俺は何度も自分の名前を叫んだが、すべてかき消された。俺はこの時ある事に気づいた。俺の名前はゲームでは『あああ』に設定している。だからこの世界での俺の名前は『あああ』である。俺はこの時、本名を名乗っていた。だから俺の声がかき消されたのである。
「私の名はあああです」
「・・・」
次はジャッジが声を出せずに驚きの表情を見せていた。
「アルマゲドン様の前で冗談はよしください。もう一度言います。アルマゲドン様に名前を告げてください」
「ふざけてなんかいません。俺の名前はあああです。信じてください」
『ブチ』
ジャッジの額から血が滴り落ちてきた。
「ここは黒龍神アルマゲドン様を奉る神聖な場所、お前はこの神聖なる場所であああなどというふざけた名前を自分の名前だと言い張るのだな」
ジャッジの態度が一変した。
「本当なんだ。たしかにふざけた名前に聞こえるかもしれない。でも、本当に俺の名前はあああなんだ」
「お前の名前は【あ・ああ】なのか?それとも【あ・あ・あ】なのか?それとも【ああ・あ】なのか?」
ジャッジは怒りのあまりに額の血管が2つほど切れてしまい、顔は流血に染まっている。
「おそらく【あああ】だと思う・・・」
俺は適当にキーボードを叩いて名前を入力したので詳しく覚えていない。あああが名なのか名前なのかミドルネームがあるのかは定かではない。
「お前の言いたい事は理解した。お前は俺だけでなく黒龍神アルマゲドン様、そして、この帝国を治める皇帝陛下までも侮辱したいのだな」
「違います。違います。俺は誰も侮辱などしていません。本当なんです、信じてください」
「黙れ!俺は皇帝陛下からプリースト(神官)の職務を賜り、罪人の尋問、罪の裁決、刑の執行の三権を全てを任せられている。本来ならお前に尋問をして罪状をあきらかにし、有罪無罪を判断を下し、刑罰を実行するのだが、お前にはその全ての過程を必要としない。今から、お前を拷問部屋に連れて行きそのふざけた根性を叩き直してやる。覚悟しておけ」
ジャッジの怒りは頂点に達していた。
「ピチャーレ、コイツを縄で拘束して地下の3階の拷問部屋に連れて行け」
「承知いたしました」
神判所内の黒い扉が開き黒い仮面を付けた金髪の女性が姿を見せる。おそらく俺を神判所に連れて来た女性と同一人物だと思われる。ピチャーレは先ほどの純白のドレスと違い、真っ赤なレザーのレオタードのようなセクシーな衣装を身に着けて、手には縄と鞭を持っていた。ピチャーレは俺に近寄り優しく手を握る。
「助けてくれ!」
俺はピチャーレの優しいぬくもりに触れて思わず助けを求める。
「この汚らわしい糞野郎が!アルマゲドン様の前で不敬を働くヤツは地獄へ落ちろ」
ピチャーレは手に持っていた鞭で俺の顔を叩きつける。
「ギャー―――」
俺はすぐに悲鳴をあげる。頬には一筋のミミズ腫れができる。俺はすぐに頬を抑えて痛みを凌ぐ。
「手を後ろに出しなさい!」
ピチャーレは俺の背中に鞭を振り下ろす。鞭の威力で服は引き裂かれ背中にもミミズ腫れができる。
「やめてください」
「手を後ろに出しなさい!」
二度目の鞭が俺の背中に振り落とされる。俺は痛みのあまり地面をのたうち回る。
「まだ、鞭が必要みたいね」
ピチャーレは次は地面に鞭を叩いて威嚇する。
「やめてください」
俺は両腕を天に差し出すように上にあげた。ピチャーレは俺の両手を背中にまわして縄で結ぶ。
「こっちに来るのよ」
ピチャーレは、またしても床に鞭を打ちつける。鞭の音を聞いた俺の脳は、皮膚の皮をえぐり取る苦痛を思い出させる。俺はピチャーレの言葉に逆らう事はできない。俺は言われるがままに神判所の地下1階にある拷問部屋に向かった。
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