第7話 薔薇の目
この場所に来た時と同じ様に幌馬車の荷台に乗りコトコトと小さな揺れを感じながら、どこかへ向かっている。先ほどとは違うのは両手を縛られて身動きが取れない事と猿轡をされて声が出せない事ぐらいである。
俺は今からどこに連れて行かれるのだろうか?おそらくこの幌馬車は帝都に緋緋色金を運ぶ途中に襲われたと考えられるから、行き先は帝都の確率が高いだろう。
実はこの緋緋色金は、デスガライアル鉱山で採掘できる鉱石から採取できる貴重な品であり、皇帝陛下の命により帝都に運んでいる最中であった。緋緋色金とはとある儀式に使う貴重なアイテムなので、護衛もしっかりとされていた。現にこの幌馬車を護衛していたのはDランクの冒険者であった。
【七国物語】では、プレイヤーは冒険者と言われる何でも屋に登録して、様々なクエスト(依頼)を受注する事になる。俺が受けた仕事も【七国物語】で発生するクエストの一つであろう。クエストには様々なランクがあり、SSS、SS、SランクというレアクエストからA~Fのノーマルのクエストが存在する。人間族【プレイヤーは除く】の最高位ランクはCランクなので、Dランクは高ランクの冒険者が請け負う仕事になる。そのDランク冒険者を簡単に殺した4人の男の正体は謎であり、その4人の男をさらに簡単に殺した大男の正体はさらに謎である。
※七国物語では、AランクBランクの最高度ランクは人間【プレイヤーは除く】ではないエルフ、ドワーフ、亜人、獣人などが該当し、Sランクは海人と竜人が該当する。
幌馬車に乗せられて1時間後、揺れがおさまり停車した。俺は幌馬車の心地よい揺れで眠りに就く事はなく不安と恐怖でずっと怯えていた。両手を縄でしばられ口には猿轡をされ声を上げることさえゆるされない。俺は盗賊の片棒を担いだ悪党である。このまま帝都に着き解放されて自由に旅ができる事はないだろう。大男に殺される事はなかったが、罪人として処刑される可能性もある。そのような事を考えると眠りに就く事なんて不可能だった。
幌馬車が止まって10分ほどが経過した。いきなり幌馬車の幕が開き、外から燦燦と照り付ける太陽の日差しが舞い込んで来た。
「やっぱりお前は盗賊だったのか!」
どこかで聞き覚えのある声である。
「その服装にこの人相、最近多発している盗賊の仲間だったのだな」
声の主の帝都の門の通行を管理する衛兵だった。俺は数時間前に、コイツに捕まりそうになっていた。
「イキリール、コイツは最近、帝都周辺に出没する盗賊団【ユートピア】とは違うぞ。恐らく【薔薇の目】の仲間だ」
「ポーター、そ・・・れは本当なのか?」
「間違いない。さきほど紹介した戦士様が殺したのは、4人の男と銀髪の青い瞳の青年だ。青年は戦士様に殺される寸前に瞳が赤く変わり、戦士様に襲いかかったが、戦士様の強さの前にあっさりと殺された。あの赤い瞳は【薔薇の目】と呼ばれるギルガメッシュ一族の末裔のはずだ。それに4人の男のうち3人は戦士様の手によって、細切れやミンチにされていて素性を探る事が出来なかったが、1人だけは胴体部分が残っていたので、服を脱がして確認をした。すると男の体は茶色の毛で覆われていた。見た目は人間たが、体には獣のような毛で覆われているということは亜人の狼族だ。俺が雇った冒険者はDランクパーティーの【暗闇の閃光】だった。6人はウォーリアー(戦士)で1人はクラージー(聖職者)。職業持ちの7人の冒険者を簡単に殺した事が狼族だという証明だ」
「【薔薇の目】の末裔に狼族。これは、すぐに皇帝陛下にご連絡をしなければいけない案件だな」
「そうだ。きちんと報告はしておく」
「ところでコイツは何者なのだ?」
イキリールが舐め回すように俺を見る。
「他の5名と違って、コイツは意味不明な事を騒いだあげく、戦士様の威嚇で怯えていた腰抜け野郎だ。仲間というよりも奴隷みたいなものだろう」
「そうだな。しかし、【薔薇の目】の仲間である事には間違いない。後で洗いざらい知っていることをはいてもらう事になるだろう」
「イキリール、俺は例のブツを届かなければいけない。それに戦士様の事、バラの目の事を皇帝陛下にお伝えする必要がある」
「わかった。そいつは俺が預かるから、急いで中は入れ」
ポーターは俺を衛兵の前に置き去りにして幌馬車を走らせて帝都の中に入って行く。残された俺は、帝都の大きな門の前で土下座をさせられた。
「緋緋色金を盗もうと企てるとはいい度胸だな」
イキリールは俺のお腹を蹴りあげる。靴の先が俺のみぞおちに入り激痛が走り、口から茶色い汁がはじけ飛ぶ。俺は地面にゴロゴロと転がり痛みを耐え忍ぶ。
「お前は罪人だ。そして、【薔薇の目】の仲間だ。神判所に連れて行く前に俺が指導をしておこう」
イキリールは俺をサッカーボールのように何度も何度も激しく蹴り飛ばす。俺は両手を縄で縛られているので防御する事は出来ない。俺はなす術もなく蹴られ続けるのであった。
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