第一章 8

 出会ってから三カ月、コウヤたちは、池袋中を遊びまわった。

 カラオケにゲーセンに映画館。ファミレスで食事をして、たまに夜の公園で酒を飲んだ。コウヤは生まれて初めてコスプレのイベントにも参加した。アカネとユイは、SNSでは割と名の知られたコスプレイヤーだった。とくにアカネの人気は凄く、フォロワーの数も大勢いた。アカネとユイが衣装を作ってくれて、コウヤとショウはそれを着て、ふざけながらポーズをとり合い、ケンゾーがその姿をスマホのカメラにおさめていった。そして今日はサンサシャイン水族館だ。


 ショウとアカネにこれといった進展はなかったが、コウヤとユイの距離には変化があった。

「ねえ、コウちゃん。このあとふたりでバックレてどっかいかない?」

 ユイがコウヤの腕に手をまわし、耳元でささやく。小ぶりで柔らかいユイの胸の感触か腕に伝わる。

「どっかってどこだよ。ショウはいいとして、アカネはだいじょぶなのか」

「ダイジョーブだよ。ショウなんかアカネに相手にされるわけないんだから。ナイト様もついてるしね」

 たしかに、ケンゾーを撒いてショウがアカネとふたりきりになるのは、なかなか至難の技だろう。

 もしなったところで、どうこうなる可能性もないのだが、このあたりでしっかりと振られておくのもショウのためだろうと、コウヤは思っていた。

 結果が見えているのなら、傷は浅いほうがいい。だから、今日はケンゾーに話をして、ショウとアカネをふたりきりにしてやるつもりだったのだが……。

「それにさ、ちょとコウちゃんに話しておきたいことがあるんだよね」

「話って?」

「それは今夜のお楽しみ」

 そういうとユイはいたずらに笑って、さらにコウヤの腕に身体を密着させた。

 そのとき、アカネがこちらの様子に気づいて視線を向けた。なんだかいつもより冷たく刺さるような目の色に見えたが、それはアカネが美人すぎるせいだろう。

 アカネは天使の笑みを浮かべていった。

「ねえ、そろそろいこうか。楽しみだね、水族館。私もここの水族館は初めてなんだ」

 ユイはコウヤの腕から手を離して、アカネといっしょに歩きだした。

「なんだよ、おまえら。イチャイチャしやがって。いつのまにつきあってたんだよ」

 ショウがコウヤの肩をこづいてふて腐れる。

「べつにつきあってないよ。なにか話があるって」

 だが、その今夜は二度と来なかった。すべては池袋の空に、ユイといっしょに消えてしまった。

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