第一章 5

「おい、もういこぜ」

 焦りながらショウに声をかけたが、ショウはまだその場に立ちつくしていた。

「あれちょっと様子がへんじゃないか?」

 そういとショウは勝手にまえへと進みだした。しかたなくコウヤもあとをついていく。

 ショウの視線の先に目をやると、ひときわ目立つ女のレイヤーがふたり、バッチリとポーズをきめていた。

 ひとりは背の高い細身の女。やたらと肌の色が白く、モデルみたに手足が長い。どこかで見たことがあるアニメのコスプレ姿。これでもかと丈を短くしたセーラー服のスカートから、白く光る太ももが伸びている。髪はピンク色のロング。右手には白い柄のバカでかい大鎌が握られていた。もちろん偽物だか、精巧なつくりだった。美しき死神女子高生(よく知らないが、そんな感じだと思う)。

 痩せているのに、胸のサイズだけは制服のうえからでもはっきりと強調されている。

 もうひとりは、人気格闘ゲームのキャラクター。こっちはコウヤも知っていた。虎をモチーフにした獣族設定。やたらと肌の露出が多いコスチュームが特徴的だ。背丈はそれほど高くはないが、キャラクターの雰囲気をよく再現していた。なにかスポーツでもやっているのだろうか。引き締まったふくらはぎと、きれいに割れた腹筋に思わず目がいってしまう。さっきの女ヴィランとはえらい違い。頭につけた獣の耳が、くりっとした猫目とよく合っていた。

「へえ、たいしたもんだな」

 コウヤが感心していると、ショウがいった。

「ヤバい、もろタイプだ」

 どっちが?と聞くまでもなかった。ショウの視線は、大鎌を持ったピンクの髪の女に釘づけ。そのときだった。


「ふたりトモ、サイコーデス。アメイジング!」

 カタコトの日本語とネイティブな英語が混じったハイテンションな声援。ふたりのすぐ近くで男が騒ぎ始めた。うしろ姿で髪がブロンドということくらいしかわからないが、歳は若そうだ。やつは地面に膝をつき、手にもったスマホで、写真を撮りだした。

「モットわらっテクダサイ。ポーズもカエテネ」

 そういって、アングルを変えながら、写真をバシャバシャと撮り続ける。

 あまりの勢いに周りにいるレイヤーたちが完全に引いていた。当の本人たちも、なんとか表情を保ってはいるが、口の端が引きつっている。日本のサブカルチャー好きな外国人が、イベント目当てで観光にでも来たのだろう。周りが見えなくなるくらい興奮している。

 いや、もともと外国人のテンションはこんなものなのなのだろうか?

「コンドハ、ムービーもイイデスカ?ボクノチャンネルにアップシマス」

 ふたりの返答を待たず、やつはふたりにスマホを向けた。膝をついたまま、地面すれすれのアングルで舐めるように動画を撮影し始める。

 無許可でそれは流石にまずいのではないだろうか?徐々に周囲の空気が固くなっていく。

 いつの間にか、さっきの女ヴィランがコウヤの背後に立っていた。濃いアイシャドーの目のなかで、黒い炎が燃えている。いまにも外国人の頭部に噛みつきそうな勢い。おっかない。

 だが、怒れる女ヴィランを手で制し、我先に飛びだしたやつがいた。

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