第3話
ヤオルと出会って一年が経った頃、シャロシュとヤオルはよく丘に出掛けたり、またある日は花園で遊んだり、御殿で遊んだりして毎日を過ごしていた。シャロシュが外遊びに行く日は更に減った。それをよく思わぬ輩が多くいた。
毎日のようにシャロシュを相手にさせていたのに、子供一人に構いきりになってから相手をしなくなったことに腹を立てる者は少なくなかった。彼らにとって、子供相手に遊んでいるシャロシュの姿は実に馬鹿馬鹿しく映った。彼らは、自分だけ満たされているシャロシュを許せなかった。
ある者はシャロシュに苛立ち、ある者はシャロシュを恋しく思い、ある者はシャロシュを哀れんだ。しかし皆、ヤオルを邪魔に思う気持ちは一緒だった。
ある日、シャロシュが外遊びに出掛けている間に、シャロシュに執心する者たちが御殿に現れ、部屋で本を読んでいたヤオルを襲った。ヤオルを石で打ち、刃物で傷付け、熱した石で痛めつけた。傷つき憔悴したヤオルは御殿から連れ出され、石棺に入れられ地中深くに埋められた。
昼餉の時刻に御殿に戻ったシャロシュは、ヤオルが居ないことに戸惑った。荒れた部屋や残された血に慄き、御殿中を探し回っていると、ヤオルを埋めた者たち御殿を訪れた。「子供を埋めた」と話すと、シャロシュはまず呆然として、次に子供の様に泣き喚いた。
「酷い、酷い! どうして埋めたの! どうしてよ! ヤオルはどこ!」
泣き喚くシャロシュを、彼らは宥めた。「お前が子供なんかに執心するのはおかしい」「お前は享楽の限りを尽くすべきなのだ」と宥めた。
「ヤオルはどこ! 酷い、本当に酷いわ! 返して、ヤオルを返してよ!」
シャロシュが泣き喚き暴れるのを、彼らは慰めた。「あんな子供、このままでもどうせすぐいなくなった」と慰めた。いつものように、シャロシュがそうしてきたように、身体を繋ぎながら慰めた。
「酷い、酷い! 返して、返してよ!」
癇癪を起こしたシャロシュを、彼らは慰めた。ただ只管、交わりながら慰めた。彼女がそうしてきたように、そうあるべき姿で、泣き喚くシャロシュを相手に皆快楽を貪った。
「ええと、それで。何の話だったかしら」
夜が更けた頃、すっかりシャロシュは忘れてしまった。シャロシュはだらしなく床に寝ころびながら、呆けた声で自分を囲む者たちに問うた。誰も何も答えず、皆欲望のままに貪るだけだった。
シャロシュは堕落した女だった為、快楽に支配され何もかも忘れてしまった。実に愚かで、呆れるほどにみっともない姿である。元はと言えば、多くの人々を唆し、享楽に溺れさせた彼女の所業の所為で起こったことであり、仕方ないとしか言いようがない。ただただ、少年ヤオルが不憫でならない。
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<閑話>
ヤオルがシャロシュに欲情することは無かった。
それは彼の「欠陥」であったのかもしれないが、ヤオルはシャロシュを大切に思っていた。
シャロシュがヤオルに欲情することは無かった。
それはこれまでもこの先も起こりえなかったが、シャロシュはヤオルを大切に思っていた。
二人はただ共に居るだけで、満たされていた。
『パミロア記』第46章14節「シャロシュと少年」 須賀雅木 @ichimiya131
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