vol.6
播磨の家を出てすぐ、僕は電話を掛けた。沙優里ちゃんの声が聞こえて、播磨との別れを告げるとある駅の名前を告げられ、
「その駅の改札で待ってるから。とりあえず話を聞かせて」と電話は切られた。
電車に乗って車窓を眺める。雨で煙った街は白くぼやけている。僕は沙優里ちゃんに会って何を話せばいいんだろう。この空虚な気持ちは言葉に出来ない。播磨のことも実感なんてなくて、ただ呆然とするだけだ。
改札の前に彼女は立っていて、雨の中を二人で並んで歩く。お気に入りのスニーカーは汚れてしまうし、ツイてないなと思う。
マンションに入ってエレベーターに乗り、沙優里ちゃんの家に上がる。リビングへ続く扉を開けて思わず、何これと呟いた。
「何もなくて驚いた? ここ、うちで貸してる部屋なの。最近引越されて、綺麗に補修してそのままなのよ」
リビングには何の家具も無く、ただ白い空間が広がっていた。隣り合った和室に折りたたまれた布団と段ボール箱、服を掛けたハンガーラックがあって少しホッとする。
「ちょっと早いけど、向こうに持っていく荷物をまとめてたのよ。私の家、ここの一階上だからちょうどいい場所だと思って」
コンビニで買ったお茶を僕に渡して、そこに座ってと指示する。言われたままお茶を持ち、畳の上に座った。
「俊作くんと何があったの? 私に関係、あったりする?」
「うん……。沙優里ちゃんとキスしたって話した。そしたら一旦別れようって言われた」
彼女はおでこに手を当てて、そうなんだと呟いた。
「取り返しつかないこと、しちゃったね。ごめんね、きよら」
「いや、僕が悪いんだ。播磨への気持ちが、まだよくわからなくてさ。好きかどうか、あいつと寝ていいのかも全然。播磨が僕をすごく想ってくれてることが嬉しくて、それだけで付き合ったようなものだから」
畳に寝転んで目を閉じる。話してるうちに、これで良かったのかもと改めて思った。もしまた始めるにしろ、このまま終わらせるにせよ、自分がどうしたいかをちゃんと考えてからにしないと、いつか後悔しそうだった。
とりあえず試したくて、近くにあった彼女の手を触る。指先でソフトになぞってから軽く引っ張り、
「沙優里ちゃんと寝てみたいな」とストレートに告げた。彼女は顔を赤くして、
「やだ。私、今日は全然オシャレな下着履いてない。きよら、初めてだよね? ちょっと待ってて。着替えてくるから」
「そんなのいいよ。こっちに来て」
近づいた彼女にキスをせがみ、下から胸を触った。んんっと言って僕に覆いかぶさり、長い髪を片手で持ちながら沙優里ちゃんはキスしてきた。しばらくそのままキスを交わし、セーターをめくってブラを外す。あらわになった胸を触って、下から乳首を軽く吸う。
「……あっ。それダメ」
肌の柔らかさに感動して、しつこいくらい胸周辺を触りまくった。ジーンズを脱いでもらって下着越しに触ると、かなり湿っていて驚く。
隙間から指を入れたら、ああっと色っぽい声を出した。
「ねえ沙優里ちゃん。もっと声出して。あと、してほしいことを言葉にしてよ。僕も遠慮なく言うから」
「……やだ。恥ずかしい」
「とりあえず、僕のも触って」
寝ながらジーンズと下着を下ろし、彼女に触ってもらう。冷たい手に鳥肌が立って、でも彼女の指が僕のに巻きついてるのを見ると、ものすごく興奮してきた。
先っぽを舐めてもらい、僕は沙優里ちゃんの中で指を小刻みに動かす。二本に増やして回すように動かしてると、
「ああん、いっちゃう」と沙優里ちゃんは喘ぎだした。その後膣内がキュッと締まって、腰を中心に痙攣しだした。エロ過ぎて我慢できず、出すよと言って沙優里ちゃんの口の中に射精する。
近くにティッシュが無かったみたいで、彼女は洗面所に駆け込んだ。しばらくして戻ってきた沙優里ちゃんは、笑いながらトイレットペーパーを持ってきた。
「困ったな。ゴムもないんだ」
まだ治らない僕のを見て、沙優里ちゃんはヤバいねとまた笑う。
「安全日だし、中に出してもいいよ。このまま上に乗る?」
「待って。畳が地味に痛い」
起き上がって横にあった布団を広げ、僕はトレーナーを脱いだ。沙由里ちゃんの服も脱がせて、上に覆い被さる。正常位で彼女を抱き、そろそろいきそうってタイミングで上に乗ってもらう。
「僕、もうすぐいくから沙優里ちゃんの好きなように動いて。まだいってないでしょ?」
「うん。でももうすぐ私もいきそう」
乳首を軽くつまむと、んんっと言って腰を振り出した。この角度はやっぱりエロい。顔も見れるし胸はゆさゆさ揺れてるし、繋がってる部分も丸見え。
「ダメだ。我慢出来ない」
下から突き上げてるうちに彼女はいったみたいで、痙攣している体の中に射精する。荒くなった息を抑えてキスし、体を離す。
「やだ。トイレットペーパーって破けるんだ」
僕の精液が彼女の体から出ていて、それを見てるとまた催してきた。
「きよら、ストップ。ちょっと休憩しよ」
「沙優里ちゃんは寝てていいよ。僕が勝手にするから」
精液を舌で掻き出しながら、彼女の敏感な部分をしつこく舐める。またいっちゃうと言って彼女は脚をガクガク震わせて、
「……ヤバいよ、きよら。こんなにいったの初めて」と恥ずかしそうに笑った。
その日はそれから三回くらい彼女を抱いて、始発電車に乗って家に帰った。夕方まで泥のように眠り、起きてから店へ降りるともう沙優里ちゃんがいて、元気に働いていた。
「沙優里ちゃんはタフだね」
ちょっとイヤラシイかなと思いつつ言ってみる。ふふっと色っぽく笑って、でも腰はだるいよと耳打ちする。
「聞いてよ沙優里ちゃん」
母がやって来て僕にサンドイッチを渡し、
「この子、朝帰りなのよ。多分、播磨くん家に泊まったんだよ、ヤラシー」とあけすけに話した。
「違うって」
「違いますよ、ママさん。きよらは私の家に泊まったんです」
えっ。僕と母が同時に発する。沙優里ちゃんは笑顔で、
「私たち、付き合い始めたんです」とあっさり言った。
「そうなの?」
父もやって来て、じゃあ播磨くんはと尋ねる。
「……別れたよ」
僕が打ち明けると、うちの親たちはええーっと声を合わせた。
「じゃあ沙優里ちゃんときよらが? こんなに美人なのに、きよらと付き合うの?」
母、いいかげん失礼だな。
「母さん。播磨くんだってイケメンだよ。きよらにしては、なかなかやるじゃないか」
父が口を出したけど無視して、
「僕たち、付き合ってるの?」
一応彼女に聞いてみる。そういう話は今まで全く出てなかったよね。
「そうじゃないの? うそ。ひょっとして私、セフ……」
慌てて沙優里ちゃんの口を塞ぎ、合ってると何度も頷く。
「合ってるよ。そう。付き合ってんの」
両親の前で高らかに宣言した。すると今までのモヤモヤが一掃し、何だかスッキリした。
「でも、春休みには終わっちゃうんだよね。きよら、それまでよろしくお願いします」
僕たちに頭を下げて、沙優里ちゃんは笑顔になった。テーブルの方に歩き出した背中を見送り、
「なんだ。慌てて損しちゃった」
「短い青春だなあ」
口々に言って二人は僕から離れる。つくづく変わった親たちだ。
次の日の休み時間、教室で前の席の佐原さんと話してたら、廊下側の女子から声を掛けられた。
「きよらちゃん。賀茂先輩が呼んでるよ」
ドアには彼女が立っていて、僕に軽く手を振った。教室の中でざわめきが広がり、慌てて廊下に出る。
「どうしたの? 沙優里ちゃんが来ると色々面倒なんだけど」
「ごめん。どうしても、渡したい物があって」
彼女は可愛く舌を出した。こんな顔されたら普通の男は怒れない。天然っぽく見えて、実は色々計算してるんだろうか。妄想に浸りかけてた僕に、沙優里ちゃんは小さなポーチを渡して、
「後で開けてね。すごく大事な物が入ってるから」
そう言って綺麗な笑顔を残して去っていった。ポーチ越しに硬い物が触れ、僕の心臓がドクンと跳ねる。これはもしかして、鍵? 誘惑に負けて中を覗き、思わずうおっと叫んでしまった。
ヤバい。本当に鍵だった。おそらくあの部屋の物だろう。
席に戻る途中で播磨と目が合う。すぐに目を背けたけど、かなり動揺してそうだ。こんなの嫌だなと思いつつ、何も言わずに席につく。
「ちょっと。賀茂先輩から何もらったの?」
佐原さんが興味しんしんといった顔をしたけど、適当に濁して鞄を開けた。ほら、やっぱり沙優里ちゃんが来ると面倒くさい。
「知ってるよ。付き合ってるんだよね」
森川さんもやって来て、
「あの写真のきよら、かっこよかったし。いつもより男っぽかった」
「だよね。あれはなかなかいいよ」
「賀茂先輩効果ってのは有るけどね」
何言ってんだと思いながら教科書を開く。
授業が終わって教室から出てすぐ、きよらちゃんと名前を呼ばれて振り返った。
去年同じクラスだった女の子が数人立っていて、廊下の端っこに連れていかれた。
「ストレートに聞くけどさ、きよらちゃんは今、賀茂先輩と付き合ってるの?」
丸い目をしたその子の名前を思い出そうとしたけど、全く出てこなくて断念する。
「ねえ、聞いてる?」
「あ、うん。賀茂先輩と付き合ってるよ」
やっぱりそうなんだと言って、三人共肩を落として去っていく。あれ? なんだこれ。いわゆるモテ期って奴なんだろうか。
放課後、久しぶりに高宮くんに呼び出されて駅前のファストフード店で会う。爽やかな笑顔で、兄弟って呼んでいいと聞かれた後、
「まさかきよらと沙優里が付き合うとはな。あの裏サイトの写真は初詣の時だから、全然信用してなかったけどさ」
「そうだよね。ぼくも未だに信じられないけど」
ポテトをつまんで口に入れる。期間限定とはいえ、あんなに綺麗な人と付き合えるのはラッキーとしか思えない。
「今朝、沙優里から聞いて驚いたんだ。その前に俊作から、きよらと別れたって連絡あったから」
「うん。あいつと別れた日に沙優里ちゃんとそうなって……。前から女の子と寝てみたかったし、相手は出来れば沙優里ちゃんがいいと思ってたんだ」
「ん? てことは前から好きだったの?」
好きかどうかは今でもわからない。でもそう言うのはあまりに失礼なので、うんとだけ言っておく。
「ただ高宮くんみたいに熱い想いっていうのはなくて。好きは好きだけど、僕の場合もっとあっさりしてる感じ」
「ふうん。つまり沙優里も俊作も、きよらにとってはものすごく好きな人って感情まで至ってないんだな?」
「そう……。僕って冷めてるのかな」
コーラのストローを回しながらため息をつく。
「いや、焦んなくていいと思うよ。いずれはそういう人に出会えるだろうし。もしくは今後、沙優里に対してそういう想いが育つかもしれないしね」
「だといいけど」
ふうっとため息をついてたら、高宮くんは肩に手を置いて、
「沙優里、幸せそうに見えたよ。俺と違ってきよらには何でも話せるってさ」
「ああ、うん。沙優里ちゃんとは相性もいいみたい」
「そっか。それ聞いて安心したよ」
笑顔の高宮くんを見て、少しイラッとする。恋人の元カレは、ジェラシーの素になるのだと気がついた。
次の日の夜、僕は早速合鍵を使って沙優里ちゃんを呼び出した。お湯が使えると言うので一緒にお風呂に入り、バスルームで一戦交える。
「あのさ。昨日高宮くんに会ったんだよ」
終わって裸のまま和室に行き、布団の上で話をする。
「そうなの? 私も昨日、きよらのこと話したよ。すっごい驚いてた」
「まあ、僕も驚いてるよ」
彼女の胸を触って口に含む。赤ちゃんのように吸ってたら、きよらってやっぱり可愛いねと頭を撫でられた。
「私も驚いてる。みつるくんのこと忘れちゃうくらい、今はきよらに夢中だよ」
ホントかな。ただ体の相性がいいだけじゃないの?
「高宮くん、前に沙優里ちゃんが喜んでくれないって悩んでたんだよね」
「あはは。お互いにそれで悩んでたんだ」
彼女は明るく笑って、
「今思うと、みつるくんには気を遣い過ぎてたかも。きよらみたいに、わがままとか言えなかったし」
「それはすごく好きだからだよ。嫌われたくない人には、気を遣っちゃうもんだから」
切なくて彼女の股間に手を伸ばす。指でなぞるように入り口を触ってたら、もう少し話そうよと笑って僕の手を止めた。
「きよらのこともちゃんと好きだよ。こんなに人に本音を話せる相手は、きよらぐらいしかいないの。私って昔から目につくタイプっていうか、ちょっとでもキツイ言い方すると友達がすぐ離れていくんだよね。だから本音を抑える癖がついてて」
「ふうん。僕には遠慮しないって事か」
彼女の手を払って、また入り口をソフトに撫でた。中はもう充分濡れていて、わざと奥には入れずに手前の部分を揉んだり撫でたりしてみる。
「いや……そこも好き」
「奥にも入れてほしい?」
「ううん……やだ、いきそう」
キスした途端、沙優里ちゃんの体が大きく震えた。指を抜いて彼女の足を大きく広げ、ぐいっと中に入る。
「ああ、きよら」
僕の背中に腕を回して、沙優里ちゃんは嬉しそうな声で喘ぐ。何だか悔しくて少し激しく突いてたら、
「奥、すごい。いや、またいっちゃう」と大きな声を出した。高宮くんに勝った気がして、僕は彼女の唇を吸って一緒にいこうと囁いた。
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