vol.4
次の日は終業式で、ちらちら見てくる播磨を無視し、花田と一緒に講堂から教室に戻った。今日はクリスマスイブ。そして明日から冬休み。ほとんど店のバイトで潰れるけど、初詣は高宮くんと賀茂先輩、そして播磨と一緒に行く約束をしていた。
「きよら」
七組の中沢さんが教室に入ってきて、
「明日のパーティに来れないって本当? 最近マジで付き合い悪いよ。みんな待ってんだから、たまには顔だしなよ」
「うん。悪いけど、しばらくコスプレは封印するよ」
昨日の出来事をざっくり話すと、中沢さんは顔色を変えた。
「そういうことなら仕方ないね。わかった。みんなにも話しとく」
慌ただしく出て行く彼女をぼんやり見ながら、自分の体を軽く抱く。昨夜は目を閉じるとあの男の顔が浮かんできて、全然眠れなかったのだ。
「大丈夫か?」
播磨がやって来ておでこに手を当てた。軽く払いのけて、顔をそむける。
「昨日は本当にごめん」
机に腕を乗せて、播磨はしゃがみこんだ。
「魔がさしたんだ。もうあんなことしないから許してよ」
「今でも怖くて体が震えてるんだよ」
播磨に腕を触らせて、
「だからしばらくコスプレはしない。するとしても男子のコスにするよ。なんかもう怖い」
「そっか。そんなに怖かったんだ」
チャイムが鳴って、播磨は席に戻った。憂鬱な気分を振り払おうと、初詣には何を着て行こうか考える。和服にしようか、それならカバンは靴はと考えてたら少しづつ気分が晴れてきた。
店に帰ってお昼ごはんを食べた後、三階の自分の部屋に上がった。横になってすぐ夕方まで眠り、店に降りると播磨がいて僕に片手を上げた。
「イブなのに一人?」
嫌味かなと思いつつ聞いてみる。
「そういや、三池さんとは結局どうなったんだっけ」
「今頃かよ。みつるに相談した時から、全員断ることにしたんだよ。相手に悪いし、きよらに対しても不誠実だと思って」
播磨は顔を横に背け、今日は森川に告白されたと小声を出した。
「仲のいい友達だから、胸が痛かったよ。実は前から気づいてたんだけどな」
「相変わらずモテるんだな」
そしてなんで僕は、こんなにモテないのか。
「いいよ、もう。なんか諦めた」
わざと適当を装って、播磨をまっすぐ見つめる。
「まだ50パーセントぐらいしか気持ちはないけど、播磨がそれでもいいって言うなら付き合うよ」
「えっ。マジで?」
勢いよく立ち上がり、播磨は目をウルウルさせた。
「嘘じゃないよな? 今のは冗談とか言われたら、俺もう立ち直れない」
「ホントホント」
僕はにっこり笑う。こんなに人に愛されることが、今後もあるとはなかなか思えないし。
「ただし、やっぱり無理ってなったら、さっさと別れるからな」
「わかった。そんなの全然構わない。その後また、友達に戻れるなら何でも」
別れた後で友達、はどうなんだろう。
そう思いつつ播磨と握手した。
「じゃ、これからもよろしく」
軽く言って立ち上がる。ようやく出した夏休みの宿題って感じで、肩の荷が下りた気分。想いって重い。特に播磨のは、漬物石ぐらいの重さだ。想われるのは嬉しい反面、目に見えない圧力なのだと改めて気づく。
関係の言葉が変わっても、中身はそう変わらない気がしてた。そう思ってた僕は浅はかだった。
次の日、店のクリスマスツリーの前で、播磨からプレゼントを渡された。シルバーにターコイズ色の石が付いた、シンプルで格好いいネックレス。
「言っとくけど、ペアだから」
シャツの襟を少し開けてネックレスを見せる。少しデザインが違うけど、パッと見てペアだとすぐわかる。
「恥ずかしい……」
照れて俯く僕と対照的に、彼は満面の笑みを浮かべている。
「これくらいで照れてどうすんだよ。俺の夢リストが、あといくつあると思ってんだ」
やっぱり僕との温度差が激しいな。播磨のことだから、ひとつひとつチェックしてそうだ。
ネックレスを付けようとする播磨の手を振り切り、スタッフルームへ逃げ込んだ。エプロンを付け、恥ずかし過ぎるプレゼントは箱のままポケットに突っ込む。
店に戻って、母と楽しそうに話してる播磨を横目で見た。こいつ絶対バラしてるよな。両親に冷やかされるのが嫌だなと思ってたら、ガシャンと何かが割れた音がした。
カウンターに行くと、父と賀茂先輩がうずくまっている。どうやら彼女がグラスを落としたらしい。出てきた賀茂先輩に声を掛けると、ごめんなさいと泣きそうな顔をしていた。客足が落ち着いた時間に、スタッフルームへ連れていったら、入った途端彼女は泣きだした。
「どうしよう。みつるくんを泣かせちゃった」
涙が止まった後で話を聞く。
「昨夜きよらのアドバイスを思い出して、激しくなってきた時に腰を少し引いてみたの。そしたら動きが止まって、ごめん。大丈夫って聞いてくれて。でも何も言えなくて黙ってたら、わかった。ゆっくりするよってそれからはずっとソフトモード。いく前だけ少し激しかったけど、今までよりずっと気持ち良かったの」
僕は唾をごくっと飲み込む。具体的な描写が頭の中で広がって、いかんいかんと首を横に振る。
「それで、何が原因で高宮くんは泣いたの?」
「今までのことを反省しだしたの。ずっと痛いのを我慢してたんだよな、ごめんなって。もっと気をつけるよって急に泣きだしちゃった。プライドを傷つけたのかもしれなくて、その後は何でもないって言ってたけど、結局気まずいまま別れたの。次に初詣で会う時、どんな顔すればいいのかわかんなくて」
「大丈夫だよ。高宮くん、いい奴だから。沙優里ちゃんを気遣えなかったことに、落ち込んだだけじゃないかな」
「そうかな」
少し笑顔の戻った賀茂先輩は、僕を見て顔を赤くした。
「ごめんね、きよら。いつも生々しい相談ばっかりして。不思議なんだけど、きよらには何でも話せるの。最近は女子の親友よりも近くに感じる」
「そう? 有難いけど、刺激は強いかも」
うふふと笑って、賀茂先輩はスタッフルームを出ていった。勃ってしまった息子くんを諌めようと、そばにあった漫画を開く。
播磨と付き合うって決めたけど、やっぱり女子と一度は寝てみたいな。出来れば、賀茂先輩みたいな可愛い人と……。
アホか。
一瞬浮かんだ妄想に、頭をブンブン振る。それやっちゃいけない奴。しかも息子くんが全く治まらない。
しばらくして店に戻り、播磨と仲良く話をしている賀茂先輩を見た。彼女が気になるのは、あんな話を聞いたせいだ。わかってるけど、目が離せなかった。
「きよら」
父に呼ばれて、買い出しを頼まれた。ドアを開けた時に後ろから播磨の声がして、俺も手伝うと近づいて来た。
店を出てそわそわしてたら、
「なんかさっきから様子が変だよな」と気づかれる。ある程度は正直に話そうと思って、
「実はこないだから、沙優里ちゃんに相談受けてるんだよね。それがほら、高宮くんと同じ悩みだからさ。詳しく言えないけど、彼より具体的で刺激強過ぎて……」
「ああ、そういうこと」
「僕、未経験なのにさ」
「じゃあ、経験してみる?」
照れながら僕の手を繋いで、
「今日は俺の家、誰もいないんだ。みんな親戚の家に行ってて、明日まで俺一人」
「え……」
「こんな機会早々ないから、チャンスだと思うんだけど……」
恥ずかしそうに笑う播磨を見て、エッチするのも時間とか場所の確保が必要なのだと改めて気づくのだった。
バイトを終えて、播磨と一緒に彼の家に向かった。コンビニで少し買い出しをして、家にお邪魔する。
「大きな家だね」
まだ新しい一戸建て。広い玄関は吹き抜けで、置いてる小物もオシャレな感じ。
「綺麗なのはここだけだよ。うちはまだ小さい弟が二人いて、リビングは散らかってるから」
「播磨って兄弟、何人いるの?」
「兄貴が一人、弟二人で四人。弟たちとは母親が違って、十歳近く離れてるんだ」
「……そうなんだ」
友達になってもうすぐ二年になるけど、僕は播磨のことをあまり知らない。
「男ばっかりいるから、余裕で養子に行けるよ」
そう言って顔を近づけた。軽くキスされて、胸がキュッと締めつけられる。
「それにしても広いリビングだね」
散らかってるとか言ってたのに、全然綺麗で驚いた。壁のようなデカさのテレビに興味を引かれてたら、こっちにおいでと手招きされた。
播磨の隣にちょこんと座る。それにしても大きなソファ。子供なら二人ぐらいは余裕で眠れそうだ。
「こっち向けよ」
顔を両手で挟まれてキスされる。恥ずかしいと思いつつ口を開けて、播磨の舌に自分のを絡ませる。少しして口を離し、
「……ヤバい。家できよらとキスとか。なんか非現実過ぎて夢みたい」
そう言って立ち上がり、お湯張ってくるとリビングを出て行った。テンパり過ぎの播磨を見てると、逆に落ち着いてきて、改めてリビングを観察する。
「ゆっくりテレビでも見てて。俺、部屋を片づけるから」
戻ってきたかと思ったら、播磨はまたリビングを出て行った。階段を上がる音が聞こえて、奴の部屋は二階なのだと知る。急にドキドキが伝染して、僕も立ち上がった。ホントにいいのか、この状況。女の子と寝る前に男と……って何する? 今からもしかして、すごいことする?
とりあえずテレビをつけてみた。この画面で映画とか観たら、すごく迫力がありそうだ。
「きよら」
播磨の声に飛び上がる。その様子を見て、彼も少し笑った。
「お風呂、用意出来たから。先に入っておいで」
そう言われてバスルームに行く。お風呂から上がって用意してたスウェット姿でリビングに戻り、播磨に部屋を案内されて中に入る。
播磨の部屋は彼の匂いがした。
それだけで、僕のほんの少し残ってた余裕はゼロになった。足音が聞こえて、まだ乾ききってない髪の播磨が現れた途端、口から心臓が飛び出そうなくらいドキドキした。
名前を呼ばれて軽く抱きしめられ、大丈夫だと何度も背中を撫でられる。
「無理強いはしないから、嫌だったら正直に拒否して」
「うん。ありがと、播磨」
そのまま優しくキスして、僕のスウェットを脱がす。下着の中に播磨の手が入ってきて、恥ずかしさのあまり彼にしがみついた。
「俺のも触って」
促されて播磨の下着に手を当てる。すごく元気になってて、僕も興奮してきた。そしてお互いを触りながらキスをする。播磨は器用に僕の乳首まで触ってて、恥ずかしいけど変な声が出る。
「やっば……。気持ち良すぎて、もういきそう」
播磨が可愛い声を出した。顔を見ると、切なそうに眉をきゅっと寄せている。エロいなあと思ったら僕もいきそうになって、ほぼ同時に射精した。
起き上がった播磨は、体に付いた精液を綺麗に拭いてくれた。ぼうっとしてる僕を見て、可愛いなと囁く。
「きよら、ホントに可愛い」
「ん……」
照れくさくて横を向くと、まだ仰向けと腰を持った。
「え、何?」
「早く続きしよう」
そう言って僕のを口に咥えた。
「ちょっと、嘘、やあっ……」
播磨の口が吸いついて、不覚にもまた元気になってしまう。ぺろぺろと舐められ、気持ち良くて体が震える。
播磨と名前を呼んで悶えてたら、エロすぎだろと言って、お尻を探るように触ってきた。
「……は、播磨はやっぱ、そっち?」
曖昧な僕の言葉を察して、どうだろうと首をひねる。
「まあ、入れられるのもアリかもな。すっごく気持ちいいって聞いたから」
「……誰から?」
内緒と言ってまた僕を咥え、お尻の方にも指を入れてきた。変な気分になって、これはなんか違うって思う。なので体の向きを変え、僕も播磨を咥えた。精液の匂いが強くて、何だか頭がクラクラした。
さっき出したばかりなのに、またすぐにいってしまった。僕の後に播磨も出して、とりあえず全部口で受け止める。まずかったけど我慢して、大量の精液をティッシュに吐く。
「きよら、気持ち良かった?」
嬉しそうな顔で僕を見た播磨に、すごく気持ち良かったと素直に伝える。
「良かった」
「播磨は?」
「俺? そりゃあもう、最高だよ」
ガバッと僕に抱きついて、播磨はありがとうとお礼を言った。緊張の方が大きくて、僕はそこまで楽しめなかったけど。
その夜はそのまま眠り、朝シャワーを借りて僕は家に戻った。自分の部屋で二度寝してたら母がやって来て、
「もう帰ってきたの? 今日は夕方からでいいからね」と訳のわからない優しさをくれた。また夕方までぐっすり眠って店に行くと、既に播磨がカウンターに座ってお茶を飲んでいた。
「きよら」
明るい笑顔で僕を見る。昨夜のことを思い出して顔が赤くなり、慌ててスタッフルームに逃げ込んだ。
ああ、播磨と一線越えちゃったよ。
高宮くんたちみたいなことは多分してないけど、相当すごいことをしたのでは。
店に戻ると播磨は父と談笑していた。なるべく近寄らないようにテーブルを回り、空いたグラスに水を入れてる時に、高宮くんがドアを開けて入ってきた。
「きよら。あ、俊作も」
せわしなくカウンターに向かうので、僕も彼に近づく。
「どうしよう。あいつから会いたいってメールが来たんだけど」
思わず播磨を見る。彼は真面目な顔して高宮くんの腕をつかみ、
「みつるはどうしたいの? もし会いたいのを我慢してるなら、いつかきっと後悔するよ」
「俺は……」
高宮くんは俯いて、でもすぐに顔を上げた。
「会いたいよ。でもそんなことしたら、沙優里に悪い」
「他の人を好きなまま付き合う方が、もっと悪いよ」
播磨は畳み掛ける。もちろん僕も、高宮くんの気持ちに沿うべきだと思うけど……。出来れば賀茂先輩の傷つく顔は見たくない。
「……そうだよな。もうこんなチャンス、あるかどうかもわからない」
高宮くんの答は決まったようだ。明るい声でありがとうと言って、彼は店を出て行った。
「青春だね」
父がやって来て、訳知り顔であごを撫でて去っていく。
「これで良かったのかな。沙優里ちゃんが可哀想だ」
僕の言葉に、播磨は首を横に振る。
「俺たちに相談した時点で、みつるにはもう答えが出てたんだよ。行く気がなければ悩むこともないし、メールを無視すればいいんだ。あいつはただ、肯定されたかっただけ」
何だかモヤモヤする。そうだったとしても、賀茂先輩が傷つくことに変わりはない。あんなに一生懸命、高宮くんを想ってるのに気の毒で、とても心配になった。
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