ヒロインしか愛せない〜After the story〜 ヒロンインだけを愛してる

「なぁー。いい加減教えてくれよー 亮。前はあんなに彼女天使とか言ってたじゃん。俺も彼女欲しいんだよなぁー」


 やめろ。


「そうだ! 今度彼女に会わせてよ。俺も見てみたいんだよね。あ、もちろん取ったりしないから。ただ気になるんだよ。亮があんなに惹かれていた相手がな」


 やめろ、、、。あいつの話はするな。あいつはヒロインなんかじゃない、、。ヒロインの皮を被った化け物だ。


「なぁ。聞いてるか? 顔色悪いぞ。 体調だいじょぶか?」


「別れた」


「え?」


「別れたよ。あいつとは」


「え?別れた? しかも『あいつ』って......」


「あいつは俺の事を騙してたんだ、、。俺のことを好きだと思わせて俺に期待させて、、最後は俺を裏切った」


「な、、!どんなことされたんだ? そんな子だったのか?」


「ごめん、、。ちょっとあんまり話したくないんだ……」


「そうか……。でも気にすんな!あー、ほら、今回は上手くいかなかったかもしれないけど亮を騙さず尽くして愛してくれる人はいつか見つかるよ!だからあんまり引きずるなよ」


「すまないな。気を遣わせてしまって。ありがとう」


「ああ」


 そうだ、、。そうだよな!たまたま今回は上手くいかなかっただけだ。ヒロインはきっと見つかるさ。俺は……ヒロインしか愛せない。



  *



「あ、、あのっ!少し、、いいですか……」


 学校からの帰り道。突然声をかけられた。誰だと思って振り向くと艶やかな長い黒髪にスラッとしていて、出るとこは出ている美少女が電柱から顔を赤らめ覗いている。 制服が同じ学校のもので学年カラーからして2年生だろう。


「どうした?俺に何か用?」


 そう言うと少し身体をビクつかせ強ばってしまった。いかんいかん。あまりいいことがなかったせいで自然と口調が強くなってしまった。


「話したいことがあるんだね。わかったよ。ここじゃあれだからどっか近くのカフェでも行こうか?買ってあげるから好きなの食べていいよ」


「_コクコク」

 

 そう言うと彼女は小さく頷いた。

 なんだかハムスターみたいで可愛らしいな……。


  *


「はい。どうぞ。ハニーいちごオレ」


「あ、、ありがとうございます//」


 彼女はその白く柔らかそうな小さい手で、買ってあげた飲み物を受け取る。


「甘いもの好きなの?」


「は、はい! 私っ、昔から甘いもの大好きで。コーヒーは砂糖とミルクをたっぷり入れてもどうしても苦くて、、って子供っぽいですよね、!もう高校生なのに」


「そんなことないよ。甘いもの好きなんて女の子らしくて可愛いじゃないか。一人一人好きな物嫌いな物はあるんだから」


 とても初々しくて可愛いよ。


「それで何か話があるんだよね?」


「っ_!はい、!えっーと、その、、」


 彼女は何故か頬を赤面させ視線が泳いでいる。


「ゆっくりでいいよ。ちゃんと聞くし待つから」


 そう言うと彼女は小さく深呼吸をし真っ直ぐにこちらを向いた。


「高校に入った時からずっと好きでした!付き合ってください//!」


 俺は目を見開いた。まだお互いよくわかっていない相手にいきなり告白してくるなんて。


「そうか、、。ありがとう。気持ちはとても嬉しいんだ。でもちょっと最近彼女と別れてな、、、。だから今はちょっと考えようと思って」


 またあんな化け物に騙されるのは二度とごめんだ。それにまだこの子のことはよく知らないしな。


「………………でも私っ!亮さんのためなら何でもします!本当にずっとずっと好きなんです。すぐに告白しようと思ってたけどどうしてもが出来なくて」

「前の彼女さんと何があったか分からないけど私は亮さんをずっと愛してます。私は亮さんを裏切りません。亮さんは最近とても悲しい顔をしていて、、私まで悲しくなります。だから私に出来ることがあったら協力したいんです。亮さんが笑ってくれると、、私も嬉しいんです//」



 そう言う彼女はコップの縁に滴る水のように涙を浮かべ瞳を潤していた。


「・・・・」


 勇気を絞って今日俺に告白をしてくれて、何でもすると言ってくれた。それに俺が苦しかった時だからこそこうやって支えようとしてくれているんだ。その純粋な涙に嘘はないはずだ。それでも、同じ過ちを繰り返さないよう俺は口にする。


「一つ確認したいことがあるんだ。いきなり何を言うのかと思うかもしれないがこれは俺にとって大切な事なんだ」


 俺は真剣な眼差しで彼女を見る。


「はい……。なんですか」


「君は……処女か?」


 彼女は手に持っていた飲み物をテーブルに置いた。そして彼女は林檎のように顔を赤面させ言った。


「……っ……その……私っ初めてで// 亮さんにもらって欲しくて//とっ……とっておいたんです//」

「亮さんにだったら私………嬉しいです。もし信じられないならその、いっ……家!来ますか//」


 目を‪><にして恥ずかしそうにそう口にする。



 その瞬間俺は自然と涙が出た。ああ、これが本当のヒロインなんだと。あいつは偽物だった。

 俺はヒロインしか愛せない。愛し愛される。それがこんなにも嬉しいこととは。


「亮さん? 大丈夫ですか、、? 」


「ああ、すまない。嬉しくてな」


「俺も君が好きだ。君は俺のヒロインだ」


「はい// こちらこそよろしくお願いします……先輩」



 やっと俺のヒロインを見つけた。俺は嬉しくて嬉しくて、この気持ちを噛み締めた。



「じゃあ……。うち来る?」


「ああ。君を抱きたい。心から愛してる」


 俺たちは家に向かった。



  *



「どうぞ……」


 まだ少し現実味がない。色々な意味でドキドキとしている。またあの時みたいに騙されてしまったら。いや、それはもうないだろう。なぜだか彼女にはそう思える。


「お邪魔します」


「こっちだよ// 」


 俺のヒロインだからか妙に色っぽく感じる。


「・・・・」

「・・・・」


 俺たちは無言のまま二階へと上がる。やっと……やっと俺はヒロインを愛することができるんだ。

 お互いに初めてを捧げお互いが一つになる。それこそが俺が求めていた本当の愛だ。



「ここだよ。先輩。入って」



「あ、ああ」


 俺はヒロインの部屋となる扉を開ける。

 きっとこの空間には俺の理想のヒロインの部屋があるのだろう。そう胸を弾ませた。



 ___ガチャ。




 しかし、その扉の向こうの光景に俺は思考が止まった。



 …………何も無かった。薄ピンクて統一された壁も、家具も、ベッドも。俺は訳が分からず混乱していた。



「え、? っと…………。これはどういう……」



 ____ガン!!



 突然俺の視界が歪み、稲妻のようなものが走った。気づくと床に倒れていた。



 (あれ? 俺なんで床に? っ……どうなって……るんだ……)




 薄れゆく意識の中俺が最後に見た光景は不気味な笑みを浮かべる俺のヒロインだった。




  *




 俺は理想のヒロインに巡り会え、愛し愛された。俺はヒロインを愛し続けると誓おう。

 そう……思っていた。

 



「んっ。あれ? ここは……」

「ぐっ!! くそっ!なんだこれ!?」

 


 俺は身体の自由を奪われていた。気がつくと、一面コンクリートでできた壁に、カッターナイフ、スタンガン、目隠しの布、鞭など様々な道具がズラリと掛けられていた。


 



「くそっ。おい! 誰か !誰かいないのか!助けてくれぇ!」


 

 ……ガチャ



 突然扉が開いた。良かった誰かいた。拘束を解いてもらって早くここから出よう。



「あ、起きたんですね! 先輩♡」

「ここは私と先輩の愛の巣よ。家の中にある地下だからどれだけ激しくしても誰も邪魔は入らないんだよ// 」

 


 満面の笑みで言う彼女の姿があった。俺は全身から血の気が引いていく。どうして、、。俺のヒロインが、、。

 いや、冷静になればわかったことだ。そもそもなぜ彼女の家に両親はいなかったんだ。一人暮らしか?高二の女の子一人でか? 彼女が現れるタイミングが良すぎた。


 それになぜあの時『亮さんを裏切らない』なんて言ったんだ。まるで俺とあいつのことを知っていたかのように、、、、。


「なんで、、こんなことしてるんだ! 好きだって言ってくれただろ!」



 それでも俺は意味が分からずパニックになっていた。あんなに可愛かった彼女の面影は今やどこにもない。目の前に立っているのはずっと不気味な笑顔で微笑み興奮気味な彼女だった。



「何でって?なんでですか先輩?私は先輩を愛してます。先輩を裏切らないし、先輩に奉仕するし、先輩の望むことなら何でもします。先輩を愛せるのは世界で私一人でいいんです」



「じゃ、じゃあこの拘束を一旦解いてくれ。そしたらなんでもしてやる」



「別に先輩は何かする必要はありません。先輩は裏切らず、尽くしてくれるヒロインを愛している。だから私は先輩のヒロインになりました。

そんな強欲で自分勝手でわがままななヒーローを私は愛してます ♡」



 言ってることがめちゃくちゃだ。



 「どういうことだ?……」


 

「だーかーら!先輩はヒロインを愛するためにヒロインに愛されなければいけない。私がそのヒロインになって先輩を愛せるってこと」



「ちがう!俺が聞きたいのはそれじゃない!!なんで拘束なんかしてこんなとこに閉じ込めようとしてるんだってことだ! っ……おかしいだろ!こんなの!」



「おかしい?おかしいことは何もありません。私が先輩のヒロインとして愛せば、先輩も愛してくれる// だから先輩が何かする必要はないんです。それにヒロインは一人ですから。先輩に寄ってくるゴミが邪魔ですから。はぁ〜。また始末するのも面倒ですしね」



 ……?今なんて、、言った? また……始末……?



「またって、、始末ってどういうことだ……!」



「ん? ああ、えっとねぇ……あい?愛さんだっけ。前のヒロインは」


「あ、愛が、、なんだ?」

「……………………っ! ま、まさか!」



 俺は気づいてしまった。いや、気づきたくなんてなかった。俺は全身から汗だけでなく様々なものが込み上げそうだった。



「私があいつを拉致してヒロインじゃなくしたのよ。それで先輩のことを諦めるようにしたのにね。だいぶしつこかったわよまったく。脅しても痛めつけても調教しても亮くんを愛してるって。最後には集団で犯されて精子こぼしながら亮くん……って言ってたわw ほんっと腹が立つ」


「___ッ!」


 俺は言葉を失った。あいつ、、愛が処女じゃなくなったのはこいつのせいだったのか、、、。

 愛は完璧だった。スタイルも顔も性格も、俺のヒロインの理想だった。処女だったなら。だけどこいつのせいだったのか。こいつがいなければ俺と愛は今頃、幸せに暮らせていたんだ、、。



 そう思っても全てが遅い。


「だけど、、、愛は小さい頃に監禁されたって、、」


「あれは嘘に決まってるでしょ。私はあいつが邪魔だったから他の男に処女を奪わせた。そうすれば先輩に寄らないと思ってね。 処女を失ったのに先輩に近づくなんてバカね。先輩はヒロインしか愛せないのに。念の為録音機能付きの小型GPSを仕込んでおいてよかったわ」

「でも、まさか殺すなんてねw おかげで手間が省けたけど。よっぽど処女が良かったみたいね先輩は。でも安心して。私が先輩のヒロインよ。も、もちろん処女も先輩に捧げるわ//」



 そう言って彼女は手を頬に添え顔を赤らめる。



「こうして先輩と一緒にいられて、、私今すごい幸せ//」



 俺は間違っていたとそこで初めて気づいた。俺はヒロインという理想の存在を愛していた。だが本当は俺を心から愛してくれる、俺も心から愛し、お互いに幸せになれる。それこそが愛というヒロインだったのだ。



 愛、、、許してくれ、、、。俺のせいだ。俺がもっと早く彼女の存在に気づけていたら、、。何かがまた違ったのだろうか。俺のせいで処女を失ったにも関わらずあの日も俺を愛してくれた。それこそがヒロインである証拠だった。それなのに俺は、、、、。


 



 



「先輩!私はあなたを、、りょ、りょーちゃんを愛してます//」


 ……嘘だ。彼女もまたヒーローという理想の存在を愛しているのだろう。


「だから……。私のことを愛してるって言って!」


 言えるわけない。俺のヒロインを返せよ。


「りょーちゃん? なんで黙ってるんですか?ねぇ」


「俺はもうお前のことをヒロインだと思ってない。俺には何もさせないでお前だけ一方的な愛などふざけるな」



「なんでそんなこと言うんですか……先輩」



「私を愛してくれるって言ったじゃないですか!?どうして!なんでそんなこと言うの!?」




「でも・・・そんな先輩も大好き♡」




「いつかはちゃんと私の名前を呼んでくれるようにするからね!」


『呼んでくれるようにする』……?何をする気だ、、、



「せーんぱい!これ。なーんだ//」


 そう言って手に持っているのはスタンガンだった。


 今まで見たことの無い笑みと楽しそうに話す彼女に俺は震えあがった。


「それで……何を……何をする気だ!!」


「アハッ! 必死になっちゃって。怖がる先輩も可愛い//」


「や、やめろ、やめてくr__」



  ___ビリィ!__ビリィ!!



「___ッグァア゙ア゙!」



「勝手に筋肉が動いてる♡ そんなに気持ちよかったの?先輩♡」


「ハァ……ハァ……っ!」


 

「ね。私のこと名前で呼んで!ほら!」


 彼女は俺の腹にスタンガンを浴びせそのままキスをしてきた。



「___ん”ー!___ン゙ン゙__」



 俺は息もすることが出来ずただ痛みに堪え悶えるだけだった。



「_____ぷ はぁ♡」

 


 ______ビクッ…… ピクッ____



「アハハッ!白目むいてる!先輩はキスしながらビリビリされるのが好きなんだね♡」



「先輩。私のことスキ?」



「…………ッ ……き……キラ……い」



「そう」



 彼女は髪で目が隠れ、見えなくなるほど俯き言った。しかし、すぐに態度を反転させ……



「私っ!先輩が好きになってくれるようもっともっともっ〜と頑張るね//」


 そして彼女は拳を大きく振りかぶり



 _____ド ゴッ___!



「があ゙ッ___」



_____ド スッ___!



「ッッハア゙____が ッあ!」


 何度も何度もスタンガンでやけどし皮膚がとけ真っ赤になった腹に容赦なく拳を叩きつける。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 





  ゴプ……ッ ヴッエ゙ ___


 ビチャ……ビチャァ_____



「ふ、ふふ、アハハハハハ!! 先輩吐いちゃったよ♡ ピクピクしてエビみたいになってるーー!苦しむ先輩はもっと可愛いね♡ でも大丈夫だよ。トイレも食事も性処理も躾も私がぜーんぶお世話してあげる! で、 」



 「先輩。私のことスキ?」



 何度繰り返されるであろうこの地獄の愛情表現を。質問を。考えたくもない。いや……もう考えられない。俺が犯してしまった過ち、決して許されないことをした罪が今、己に降りかかっているんだ。過去に戻りやり直すことなんてできない……。



 だけど俺がこれからできることは…………



「………ァ……ァイ……」


 さっきまで光っていた彼女の目が暗闇に落ちる。


「何てゆった? センパイ……… ねぇ……」



 それでも俺は声を振り絞り言い続ける…………













 






  「俺はヒロインを愛してる」



 ー 完 ー


  ヒロインしか愛せない〜After the story〜


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ヒロインしか愛せない いろは @iroha_0306

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