第28話 裏を知りたい
―@kageno やっほー。これ、メインアカウントだよね? 友達なんだからこっち教えてよー。 ―
当たり障りのない文面ではあるが核心を突かれて心臓をギュッと掴まれた気分だ。どうやってここに辿り着いたのか聞いたところで何の解決にもならない。
―@kirara0402 バレた。 ―
紛れもない本心だ。どこにも噓偽りはない。俺の本アカウントを知って一条はどう動く? 重要なのはそこだ。
―@kageno もう逃げられないよ。 ―
教室とZ、どちらでも俺を監視する。ここまで特定しているのに直接攻撃はしてこない。じわじわと精神的に追い詰めるつもるだな。
―@kaggenou なんかおもしろいハッシュタグ使ってるよね。こっちのアカウントはフォロワーも多いし。てかフォロー返してよ。リプじゃなくてメッセ送りたい ―
@を付けた返信はどちらのアカウントもフォローしていなければ基本的には閲覧できない。しかし、個人ページから投稿したポストを全て表示すれば様々なリプライも見ることができる。
同志の中にわざわざそんなことをする人はいないとは思うが、スパイとやり取りしているのを見られたくはない。
しぶしぶフォローボタンをタップしてダイレクトメッセージを送り合える状態になった。
―これで二人だけの空間だね! ―
―学校で話せばよくない? ―
―またまたー。影野くんわたしのこと避けるじゃん。友達なのに。 ―
こんなことなら学校でもう少し相手をしておけばよかった……なんて考えるのは難しい。家までついてきて監視するようなやつだ。普通はそんなやつと関わりたくはない。
―この前のことだけど。 ―
―なんのこと? ―
俺に言わせる気か。一条から触れてこないのならとぼけておけばよかった。自ら墓穴を掘ってしまったことを後悔する。
この前のこと。俺がエクスバーンの修行をしていた以外に一条との接点は……思い出せ。一条は何度も仕掛けてきている。それを回避し続けたということは、蒸し返すこともできるはずだ。
背に腹は代えられない。エクスバーンの件を誤魔化せるのなら何でもする。
―映画 ―
たった一言。まずはジャブを打った。頑なに断り続けたのでもう一条は諦めているかもしれない。スパイと一対一の状況になるのは危険だが、教室でクラスメイト全員を相手取るよりかはマシだ。
―もしかして、一緒に行ってくれるの!? ―
―予定が変わった。 ―
法事の予定が変わったわけじゃない。一条に本アカウントを知られて予定が変わったという意味なのでウソでないが完全な真実でもないあいまいな答えだ。
―やった! 今週末で平気? ―
―あとでちゃんと確認する。 ―
―うんうん。よろしくね。 ―
―あと、できればなんだけど。遠くの映画館がいい。クラスメイトに見られないような場所。 ―
―おっけー! ―
周りに仲間がいない状況を一条はすんなり受け入れた。俺ごとき一人で消せるという自信の表れか、他に策があるのか微妙なところだ。
数日でエクスバーンを体得するのは難しい。あの日以来、まったく修行ができていないし、よほど気持ちの昂りがないと炎を操る自分をイメージできない。
「待てよ」
スパイが本名と誕生日を晒したようなアカウントを堂々と使うだろうか。俺と同じようにアカウントを使い分けていると考えるのが自然だ。
今使っているkirara0402はクラスメイトを籠絡するのに使う表アカウント。俺でいうところのダミーに違いない。
きっと宇宙評議会の素晴らしさを伝える胡散臭い裏アカウントを持っている。それを特定し、この考えは間違っていると世界に晒すことができれば宇宙評議会にダメージを与えられる!
素直に教えるとは思えないが、まずは正攻法で聞いてみよう。意外とすんなり明かしてくれるかもしれない。
―実は一条さんにも裏アカウントはあるの? ―
これで教えてくるアカウントは裏アカウントに見せかけたダミーだ。アカウントは二つとは限らない。本人からダミーをあぶり出すことによって、独自に検索した本物の裏アカウントを攻撃する。
我ながら完璧な即興の作戦だ。一条にkagenouが見つかった時はあからさまに表情に出てしまったが、やられた分はしっかりやり返せている。
天音が味方にならずとも俺は一人で戦えるんだ!
さあ一条よ。用意してあるダミーを晒すがいい。ひとまずはそれで納得してやる。そして震え待て。本物の裏アカウントが攻撃される日を。
「……は?」
―影野くんのえっち/// ―
想定していたものと全然違う的外れな回答が返ってきた。裏アカウントってそういう意味じゃねーよ!
しかし、この書き方だとあるのか? 過激な自撮りを載せる裏アカウントが。もしや同志の元に届いたエロ動画って一条の……。
そこまで身を削って宇宙評議会に尽くす理由は一体なんなんだ?
Zでも知ることができない宇宙評議会の裏側を一条から聞き出したい。そんな気持ちが大きくなっていた。
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