第27話 ひとりでよかった
味方なんて必要ない。最初から独りだったじゃないか。もちろんこの教室ではだ。Zにはたくさんの同志がいる。軸がブレてしまった。俺はもう迷わない。
一条はクラス中に挨拶して回っているし、少し遅れて登校してきた天音は眠そうだ。昼夜逆転してまで宇宙評議会は敵ではないと訴える姿は不憫だと思うが、#宇宙評議会を見ても目を覚まさないんだから自業自得だ。
「おはよ。影野くん!」
「あ、ああ」
他のクラスメイトとはこんなに距離は近くないだろ。挨拶するだけで顔を近付けるな。さっさと立ち去れ。思考盗聴なら対策済みだぞ。昨日見た乱交動画の内容を思い出してやろうか?
「どうしたの? 顔、赤いよ」
「なんでもない……」
「あっれー? 照れてる? もしかしてわたしを意識しちゃってる?」
「違う。してない」
俺の頭の中は男五人で一人の女性を囲う映像でいっぱいだ。ものすごく激しくて獣みたいにまぐわう姿は本能剝き出しで、これが人間の本来あるべき姿なのかと感心した。
あまりにも過激な映像だったから思い出しただけでも興奮してしまう。一条の顔が近いからでは決してない。自分の命を狙う女に近寄られて赤面してたらとんだ変態だ。
「冗談冗談。わたしたち友達だもんね。ただの友達」
「うん? ……うん」
天音も一条もやたらと友達を強調する。本気で籠絡したいなら普通は恋人だろうが。任務のためでもイヤってか? まあ、その気持ちもわかる。俺が女なら自分には惚れない。
「そんなただの友達である影野くんのZにメッセージを送りました。絶対チェックしてね」
わざわざ念押ししなくても確認する……家でな。学校でスマホの電源を入れるのは危険だから。まさかそれが目的か? 電波攻撃を仕掛けるために俺にスマホを使わせたいからメッセージを送ったことを口頭で伝えた。
「ちょっとしたサプライズもあるよ。気になるよね? ね?」
「……まあ」
「わたしが見てると緊張するっていうならどっかいくよ。ふふ。ふふふ。影野くんのリアクションが楽しみだな~」
どっか行くと言いながらリアクションを観察するつもりのようだ。もう隠す気もないんだな。スパイだとバレたら堂々と攻めるわけか。なら俺も、堂々と反撃してやろうじゃないか。どんなサプライズにも一切動揺せず一条の出鼻をくじいてやる。
「別にいいよ」
遠くでコソコソ監視されるくらいなら至近距離でしっかりと観察させてやる。お前の策が破れるところを間近で見るチャンスだからな!
スマホの電源を入れてパスコードを入力する。たしかに一条のアカウントであるkirara0402からダイレクトメッセージが届いている旨の通知が表示された。
「なっ!」
何の変哲もないその通知をよく見るとアイコンにすごく馴染みがあった。自分のアカウントだから当然なのだが、そういう意味ではない。
日頃から同志とやり取りをするkagenouのアカウントに通知が届いていた。
一条に教えたのは間違いなくダミーのsatorunだし、こちらのアカウントでリプを送り合っていた。
satorunとkagenouには一切接点がないし。ポストの内容も同じものは一つもない。慎重にことを進めるために誤投稿には最新の注意を払っていた。一度もミスは犯していない。
「お! よかったよかった。やっぱり影野くんだったんだ」
「…………」
「活発にポストしてるからさ、絡むならこっちかなって」
不敵な笑みを浮かべて一条は他のクラスメイトのところへと向かった。天音が情報を漏らしたのか?
仲が悪そうに見えて実は繋がっていた。自分は失敗したから同業者に託した。考えてもキリがない。
本アカウントがバレてしまった。
紛れもない事実として受け止めるしかない。
「削除……ダメだ」
やましいものを隠してるのと同義だ。#宇宙評議会が相手にバレるのは織り込み済み。何人かは相互フォローなのでダイレクトメッセージで警告すればあっという間に伝達されてやつらに偽情報を掴ませる動きが始まるだろう。
「くくく……」
ピンチはチャンスとはよく言ったものだ。こちらのアカウントで連絡を寄越すならちょうどいい。俺も覚悟を決めて直接対決してやろうじゃないか。
放っておいてもお前が籠絡したクラスメイト達に消される命。最後まで抗って抗って勝利を収めてやる!
独りだからできる捨て身の攻撃に果たして耐えらえるかな?
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