第26話 論戦
#宇宙評議会を見た上でなぜ宇宙評議会は悪くないと言えるんだ。俺はこのハッシュタグのポストを初めて目にした時に衝撃を受けたものだ。あのキラキラした女子高生は敵だったのかと。全てに納得した。
人間は誰しも好き嫌いがある。それなのに全員に分け隔てなく接して人気を集めるなんて常軌を逸した行動だ。人類の恋愛感情を利用した悪質な侵略方法は宇宙人らしいと思った。しかも宇宙人が直接手を下すのではなく、顔が良い地球人を利用するからタチが悪い。
相手が同じ人間だからこそ油断するし、心を許してしまう。この手段が卑怯じゃなければどんな手もセーフだ。
―天音は宇宙評議会のスパイなんだろ。よかったな。俺という反乱分子を特定できて。秘密裏に消すんだろ。 ―
―消さないよ。それにスパイじゃない。 ―
―なら、なんで宇宙評議会は悪くないって言うんだ。どう考えても地球を侵略する悪者だろ。 ―
―それは誤解。宇宙評議会は地球との和平を望んでいる。 ―
―証拠はあるのか? ―
俺が同志にされたのと同じ方法を早速実践してみた。すぐに証拠を出せば逆に怪しい。事前に準備していた可能性が高い。ここで悩むくらいがちょうどいいんだ。
―誰も宇宙人の奴隷になってない。それが証拠。本気で侵略しようと思えば三日ともたない。 ―
「なるほどね」
それが天音の答えか。和平を望む証拠を出せと言われたら、自分達の武力が圧倒的に優れている。それを使わないのが何よりの証拠。傲慢なやつらだ。
事前に用意されたテンプレ回答で納得する俺じゃない。同志から得た学びだ。
―同じクラスにスパイがいるだろ。それはどう説明するつもりだ。 ―
あえて名前を伏せてもう一人のスパイについて言及する。白を切っても無駄だ。一条はスパイであると確定している。仲間を売るのか、自分の保身に走るのか、仲間割れは目前だ。
―キララちゃんは、ちょっと怪しいと思う。でも私とは無関係。影野くんと同じで宇宙評議会を敵だと思ってるんじゃないの? ―
「はぁ?」
思わず感情が声になってしまった。なんで一条がこちら側なんだ。あれだけクラスメイトを籠絡している女がスパイじゃないなら、ただの酔狂で全員と仲良くしている。意味もなくモールス信号を送っているのだとしたらその方が不気味だ。
―宇宙評議会は一枚岩じゃないのか? 天音だけは地球人と仲良くしたくて、他は侵略したいとか。 ―
―みんな地球人と仲良くしたいと思ってる。地球の自然は素晴らしいし、独自に発展した文化もおもしろい。 ―
なるほど。だから地球人を奴隷にして自然や文化を発展させ、楽しい部分だけを搾取するわけだな。早めに宇宙評議会に寝返った天音や一条は上に立てる、と。
そんなうまい話があるはずない。スパイだって最後にはボロ雑巾のように捨てられるのがオチだ。
―天音さんは宇宙人に会ったことあるの? ―
#宇宙評議会によるとスパイも直接は宇宙人に会っていないらしい。脳に直接話し掛けられてスパイとして目覚めるんだとか。
―会ったことはない。 ―
―じゃあなんで地球人と仲良くしたいなんてわかるの? ―
―それは……言えない。 ―
―言えないんだ。仲良くしたいのに。 ―
―そうじゃなくて。まだ言えないだけ。影野くんが宇宙評議会を敵だと思ってるうちは、まだ。 ―
―じゃあ一生言えないね。宇宙評議会は人類の敵。クラスに宇宙評議会のスパイがいることを知っている。俺以外はみんな籠絡されてる。 ―
現に侵略活動を始めている相手の話を聞いて何になるんだ。先に攻めてきたのは宇宙評議会のやつらだ。天音はスパイではないのかもしれないが、すでに手に堕ちていると考えていいだろう。
残念だ。同志になれると思っていたのに。
―天音さんはこのやり取りを報告するの? ―
返事が来ないので一方的にこちらか追加のメッセージを送る。宇宙評議会を敵視しているのはバレてしまったが、俺に隠された能力があることは知られていない。ハッシュタグの存在を宇宙評議会が知ったのは痛手だが、逆にこちらか情報操作もできるということ。
電波攻撃はアルミホイルで防ぐことができるし、思考盗聴の対策だって完璧だ。想像を絶するような過激な動画を何本も保存してある。刺激的な記憶を読み取ってせいぜい赤面するがいい。
メッセージの既読マークは付くものの返信はなかなか来ない。時刻は六時前。本来の起きる時間だ。スマホが目覚ましのアラームを鳴らした瞬間に音を止めて、支度を始める。
天音がどこに住んでいるか知らないが、徒歩通学でもない限りはそろそろ準備しないと遅刻するだろう。授業中はいつも寝てるが遅刻したことはないし、髪だっていつもサラサラのサイドテールだ。
度が過ぎた夜更かしなのに身なりだけは整えて男子の心を弄ぶ。スパイではないのは幸いだが敵であることに変わりない。うっかり心を許してしまうところだった。同志たちにも報告しておかないとな。
―昨日言った同志候補は、すでに宇宙評議会の手に堕ちていた。スパイではないが敵であることに変わりはない。危なかった。 #宇宙評議会 ―
さすがにこの時間帯ではいつもみたいな素早い反応はなかった。でもいいんだ。敵との戦いに勝利した。返信が来ないということは、俺が勝ったということ。一度言ってみたかった台詞をつぶやいて部屋を出た。
「はい、論破」
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