第25話 反応アリ

「ん……」


 枕元の時計を確認すると時刻はまだ五時前。普段なら絶対起きない時間に目がさ覚めたのは何かの予兆な気がしてなんとなくスマホを開くとZの通知が表示された。


 一条に教えた偽アカウントではなく、同志たちと語り合う本アカウントの方だ。


「まさか!」


 寝ぼけた顔ではロックが解除できずパスコードを入力した。@kagenouへのリプライが一件。おそらく初めて見るアカウントから届いていた。


 ―@kagenoouはじめまして。リプライだとみなさんから見えてしまうので、よければ相互フォローになってダイレクトメッセージを送りたいです。 ―


いわゆる宇宙人と呼ばれるグレイ型の顎が細い銀色の顔をアイコンしたmoenyanというアカウントはとても丁寧な文を書く人だった。

 天音も発音はちょっと怪しいが揚げ足を取れるくらい日本語には精通している。文字でのやり取りならいくらかスムーズに会話が成り立つのかもしれない。


 その方が俺にとっても助かるので、このアカウントが天音のものなら朗報だ。


 早速フォローしてダイレクトメッセージを送れる状態にした。こちらから送るべきか、それとも相手の出方を待つべきか。天音はこの時間に起きているのかもわからない。


 イメージとしては寝ていそうだが、ちゃんと寝ているのなら学校でいつも眠そうなのはおかしい。深夜から朝にかけて活動するヴァンパイア型の可能性が浮上した。


「勝手に目が覚めたのもなにかの縁かもしれないし」


 思い切ってメッセージを送ることにした。


 ―はじめまして。フォローありがとうございます。 ―


 当たり障りのない無難な内容。お互いにフォローし合って内密なメッセージを送れるようになりましたよという挨拶だ。こちらからは情報を出さない。昨日のポストに対して天音はどう感じたのか、それが重要だ。


「さすがに寝てるか」


 朝五時は深夜を通り越して早朝だ。夜更かしのラインを超えている。この時間に起きているのは部活の朝練がある人くらいで、天音は絶対にこのタイプに当てはまらない。

 

 今から二度寝してちゃんと起きられるか心配ではあるが時間を持て余しているのも事実。布団の中でぬくぬく過ごそうとしたその時、スマホの通知音が鳴った。


 本アカウントにメッセージが届いたお知らせだ。相手はmoenyan、天音らしき人物からで一気に眠気が覚める。


 ―早速のお返事ありがとうございます。あの、もしかしてですけど影野くんですか? お昼にケーキって。 ―


 こいつの正体は天音だ。ボーっとしてるのに個人情報を出す時はダイレクトメッセージを使うなんてちゃんと配慮もできるじゃないか。Zの使い方に慣れているし情報管理もしっかりしている。ちょっとだけ評価が上がった。


 ―すみません。念のためそちらのお名前を教えていただけませんか? ―


 99%天音だとしても油断はしない。ここですぐに影野と認めたら相手の情報を引き出せないからだ。まずは自分から名乗れ。


 ―私です。天音です。 ―


 ―よかった。天音さんだ。 ―


 ―友達を疑うなんてひどい! ―


 俺のことを友達だと言い張る天音という人物はこの世に一人しかいない。間違いなく同じクラスの天音だ。ケーキの件で俺を影野だと特定している時点でほぼ間違いなかったがこれで確定できた。


 ―早起き? それとも夜更かし? ―


 ―夜更かしかな。もう朝だけど。 ―


 ―だからいつも寝てるんだ。 ―


 ―時差ボケ的なやつ ―


 ―海外と? もうずっと日本で暮らしてるでしょ。 ―


 テンポよく返信が来ていたのにパタリと止まってしまった。いつも居眠りしてることを気にしてたのか? 悪いことをしたような自業自得のようななんとも言えない気持ちになる。


 しかもあまり中身がないやり取りなので天音が敵か味方かの判定もできない。このままじゃ俺も授業中に居眠りコースだ。


 ―あのケーキの件だけどさ、ちゃんと奢りじゃなくて天音さんに貰ったお金から払ってるから。ぴったり千円使い切った。 ―


 ―わかってる。本当は今日のお昼にケーキをリクエストするつもりだったのに先越された。 ―


 ―本当に? 負け惜しみじゃなくて? ―


 そこまで計算していたのだとしたらすごい。食堂のメニュー料金を把握して俺の行動をコントロールしようと試みていたのだから。


 ―影野くんのこともっと知りたかった。宇宙人をどう思ってるかとか。 ―


 核心に迫る話題だ。天音は#宇宙評議会を見て俺にメッセージを送った。同志である可能性はとても高い。しかも、友達になろうとしていた。信じていい。敵だらけだと思っていたクラスに一人でも味方がいるのは心強い。


 思い切って本音を文字にした。


 ―宇宙評議会は敵だと思ってる。でも、良い宇宙人がいるのなら友好的な関係を築きたい。俺は戦いたいわけじゃない。 ―


 宇宙人が人類を奴隷にしようとするのが悪いんだ。文明や科学は宇宙側が進歩していたとしても、俺達が下になる理由にはならない。技術を共有しお互いに発展できる関係がベストだと思っている。


 ―宇宙評議会は悪い宇宙人じゃないよ。 ―


「は?」


 この短いメッセージを見ただけで口から怒りが溢れ出した。天音は宇宙評議会側の人間、スパイだった?


 信用を台無しにされたこと、スパイが#宇宙評議会の存在を知っていること、俺の決断を信じて応援してくれた同志たちの想いを踏みにじってしまったこと、様々な後悔がごちゃまぜになって押し寄せる。


 ―あいつらは人類を奴隷にするために恋愛感情を利用する悪者だよ。天音さんも同じなの? ―


 ―違う。人間と仲良くなりたいだけ。 ―


「なんでだよ……」


 俺達を奴隷にすることが仲良くするってことなのか? 文化の違いというのなら納得するしかない。つまり、敵ってことだ。

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