第11話 孤独な戦い 

 一条きららと天音然は宇宙評議会のスパイ。二人の仲はあまり良くないようだがスパイであることに変わりはない。お互いに潰し合ってくれればいいが、そううまくはいかないだろう。


 警戒すべき人間が二人になった。クラスメイトは一条に籠絡されている。この教室においては孤独な戦いというわけだ。


「くくく……」


 ピンチに陥って笑いがこみ上げる。武者震い的なやつだ。教室では孤独でもZにはたくさんの同志がいる。数だけならクラスメイトよりも多いし何より年齢層が厚い。一条や天音がどんなハニートラップを仕掛けてこようともその対策方法は同志が教えてくれる。


―クラスのスパイは仲が悪いようだ。共倒れを狙いたいが、それは難しいかもしれない。タイプが違い過ぎる。 #宇宙評議会 ―


 一条は俺にだけ時間を割くことはできない。いくらクラス全員を籠絡しているとはいえ、集団で攻撃すれば問題になる。あくまでも表面上は地球のルールに従うのがやつらのスタンスだ。


 チラチラと視線は感じるものの話しかけてくる気配はない。クラスの人気者になったゆえの弊害だろう。


 一方で天音は寝起きで頭が働いていないのかぼーっと外を見つめていた。顔立ちが幼いのにどこかミステリアスな雰囲気を醸し出していて、意外な一面に心を撃ち抜かれそうになる。


 宇宙評議会のスパイでなければ心の中でそっと推していたことだろう。


 ―どちらか片方と仲良くなればもう片方が嫉妬して……という展開はあり得そう? #宇宙評議会 ―


―それはかなり危険では? あいつらは思考を読める。もしバレたら消されてしまうぞ。 #宇宙評議会 ―


 ―アルミホイルを巻けば大丈夫だ。思考は電波。電波を遮断すれば問題ない。 #

宇宙評議会 ―


 ―しかしその装備ではスパイ対策だとバレてしまって意味をなさないのでは? 不特定多数の思考盗聴には有効だが、相手の懐に入る場合には危険すぎる。 #宇宙評議会 ―

 

 ―たしかに早計だった。すまない。有望な若者を危険に晒すところだった。 #宇宙評議会 ―


 スマホに意識を集中し過ぎないように気を付けながら画面を見る。一条も天音も特に動きはない。クラスでは孤独でも多くの同志がいる。それを実感できるから不思議と恐怖心を感じなかった。


 ―やれるだけのことはやってみる。アルミホイルは被れないがもしもの時に備えて準備しているものはある。あまり意識し過ぎると思考を読まれる可能性があるから具体的な言葉にはしないがな。 #宇宙評議会 ―


 ―素晴らしい! クラスに二人もスパイがいるのにその丹力。やはり宇宙評議会に対抗できる力だ。 #宇宙評議会 ―


 ―すでにここも監視されているという情報もある。仲間にすら手の内を晒さないのは賢い選択だ。 #宇宙評議会 ―


 ―我々があえてこのハッシュタグを使うのも情報のかく乱が目的だしな。 #宇宙評議会 ―


 ―おいおい。それをここに書いたら意味がないだろ。 #宇宙評議会 ―


 ―という作戦かもしれないぞ? 仲間内でも疑念が生まれる。しかし、その思考を盗み取った宇宙評議会のやつらはどうなる? 混乱するだろうなぁ。 #宇宙評議会 ―


 ―敵を欺くにはまず味方から。科学力では劣っているかもしれないが知恵を工夫で地球を守る。これが人類だ! #宇宙評議会 ―


 ―最近発行された個人情報カードも実は宇宙評議会の息がかかっているらしい。宇宙評議会の技術は恐ろしいものだ。しかし人類の叡智も負けてはいない。電子レンジを使えばやつらのICチップを破壊するのは容易だ。 #宇宙評議会 ―


 保険証にもなる個人情報カードを電子レンジで加熱した画像が一緒に投稿されていた。下手に病院にかかると注射や薬で体内にナノマシンを埋め込まれて宇宙評議会の奴隷になるらしい。


 真実に気付いた俺達はもう保険証を使うことはない。そういう強い意志を感じた。二人のスパイを相手にして自分が戦いの最先端にいる気になっていたけどそうじゃない。同志達はもっと先を行っている。


 この勢いに置いていかれないためにも俺は俺のできることをしなくては!


 気合いを入れると同時に授業開始のチャイムが鳴った。クラスメイトが自分の席へと戻っていき教科書を広げる。宇宙評議会の奴隷にされつつあるのも知らずにのんきなものだ。


 どんなに勉強を頑張ってもやつらに搾取されては意味がない。勉強よりも大切なものがある。成績が悪いダメ男でも自尊心を保っていられるのは大いなる目的があるからだ。


 それを悟られないように真面目に授業を受けているフリをする。顔を上げて前を見ると視界に一条の笑顔が映った。


 反射的に視線を逸らしたのは思考盗聴を避けるだけであって、照れくさかったわけじゃない。絶対に引っ掛からないが、もし催眠術の類を習得していたら籠絡される可能性がある。


 ほんのわずかな負け筋すらも対策して丁寧に丁寧に立ち向かう。Zの同志が勧めてくれたアルミホイルを教室で装備できないからこその立ち回りだ。俺は一条を意識していないし、やつが見せる好意は全て偽りだとわかっている。


 絶対に騙されない!

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