第6話 監視対象
―監視されてる。 #宇宙評議会 ―
俺、影野悟は自分の席に着いてまずZで報告した。宇宙評議会のスパイである可能性が非常に高い一条きららは確実に俺を監視している。全てのクラスメイトに挨拶を済ませたあと、女子の輪に入り談笑しながらも視線はこちらに向けられている。
いつも一人で戦っているからわかる。他人の視線に敏感なんだ。
―スパイに目を付けられているとな? #宇宙評議会 ―
―学校はスパイによるハニートラップが横行している。若い芽を摘むことで地球の戦力を削ぐとは卑怯だ。 #宇宙評議会 ―
―いくらスパイと言えど人目がある前で危害を加えることはないだろう。できるだけ第三者の目がある状況に身を置くんだ。 #宇宙評議会 ―
たった一言だけでこれだけのアドバイスをくれる同志達。第三者の目か……クラスメイトは全員一条に籠絡されている。クラス中が俺を一斉に攻撃してきたらひとたまりもない。
こんなにも学校生活に緊張感が走るなんて考えもしなかった。教師も一条の味方となればここに安全な場所はない。警察だって宇宙評議会の手に堕ちている。何かの拍子に解けるかもしれない洗脳ではなく、自らの魅力で籠絡しているからタチが悪い。
真実を世界に公表してもそれを受け入れるのは俺達みたいな賢い者だけ。愚か者はあの外見にまんまと騙され宇宙に侵略されている。
―どうしよう。気が気がじゃない。でも学校も休めない。 #宇宙評議会 ―
―安心しろ。やつらは表立った攻撃はしてこない。何かあれば我々に報告するんだ。世界に味方がいる。 #宇宙評議会 ―
―監視されているのを逆手に取るのは? 相手の情報を探るとか。いや危険過ぎるか。 #宇宙評議会 ―
―宇宙評議会の新情報ゲットとか激アツ。いくか来る反撃の日に向けて備えるのも悪くない。 #宇宙評議会 ―
―たしかに学生のスパイと接触できる機会は限られている。しかしあまりにもリスクが……。 #宇宙評議会 ―
一条の情報を得る……か。これは俺にしかできないミッションだ。真実を伝えてくれたZの同志達に報いるチャンスではある。だけど俺にできるのか?
基本スペックは一条の方が圧倒的に上だ。それは認めざるを得ない。
うわっ! 見てる見てる。一条が露骨に俺を見てる。スッと窓の外に視線を向ける。窓側の席だと自然にこういう動作ができるから助かった。
今日も今日とてスパイに籠絡されたバカな男子がニヤケ面で登校している。こうして見るとこの学校はスパイだらけに見える。男を誘惑するようにスカート丈を短くしたりブラウスのボタンを開けていたりと、遠目からでもわかるハニートラップだ。
そこまでして男を籠絡するのは宇宙評議会の労働力にするため。奴隷だ。地球の資源は限られているが人間は増やせる。非人道的な考え方だがそれを平然とやってのけるのが宇宙人。
未来の奴隷を哀れみながら視線をスマホに戻す。
―その女子がスパイであると確定したわけじゃない。99%だとスパイだが決定的な証拠がほしい。もし勘違いでこちらか仕掛けようものなら我々が裁かれてしまう。 #宇宙評議会 ―
―それは一理ある。警察がやつらの味方なら尚更。やはりしばらく泳がせて尻尾を掴むのが得策か。 #宇宙評議会 ―
スパイである可能性がとても高いだけで決定的な証拠はない。もし俺の勘違いだったらクラスメイトをスパイ扱いする変人だ。宇宙評議会のスパイでもないのにクラス全員、そして担任までも籠絡する魔性の女ということになる。それはそれで恐ろしい存在ではあるし要注意人物であることに変わりはないから警戒するに越したことはない。
「また見てる……」
素人の俺に気付かれるなんてもしかして一条はスパイじゃないのか? だとしたらなぜこっちをチラチラと何度も見るんだ。その理由がわからない。自分で言うのもなんだが一条みたいなキラキラした女子に好かれる要素は一つもない。
一方的に挨拶をしてきて適当に返事をしたことは何度もあるが、まともに話したのは昨日が初めて。覚えてないだけで実は過去に一条を助けたことがあるとしても、それならクラス替えのタイミングで声を掛けられるはず。
俺に興味を持つのはスパイだと勘付かれたからタイミングを見計らって消す以外の理由は考えられない。表立って仕掛けてくることはないという意見には賛成だが、常に身の危険があるというのは頭の片隅に置いておくべきだ。
教室の隅の席、出入り口から遠い場所というのも今となっては最悪の位置だ。最短で外に行くには窓から飛び降りるしかない。リアル戦闘に持ち込まれれば勝ち目も逃げ場もないから詰んでいる。
しかも成績は相手の方が上。学校の成績が良い=頭脳バトルも強いというわけではないが、俺自身に頭脳バトルの才能があるわけじゃない。ゲームならどうにかという感じだけど、こっちの得意分野で戦ってくれるほどスパイはお人好しじゃないだろう。
―すまない。スパイに勝つ方法がない。情報の入手は困難だ。 #宇宙評議会 ―
同志ならきっとわかってくれる。スパイである以前に相手はキラキラした女子高生。人間として負けているんだ。
―うろたえるな。勝つことが目的じゃない。自分の弱さを知るキミこそが最強なんだ。 #宇宙評議会 ―
―むしろダメなところいっぱい監視させたら向こうが呆れて対象から外れるかもw #宇宙評議会 ―
―それあり得ますね。クマに襲われた時の死んだふりみたいな。スパイの情報を掴むような優秀な地球人じゃありませんってアピールできれば安全は確保できるかも。 #宇宙評議会 ―
―しばらく監視される→スパイのしっぽを掴めるかもしれない→ダメ人間だから監視対象から外れる→今後、宇宙評議会へ対抗しやすくなる。 完璧な流れだ。 #宇宙評議会 ―
―その流れ良いですね! 参考になります! #宇宙評議会
ダメ人間というはちょっと引っ掛かるが端的に表現していてわかりやすい。すぐに監視対象から外れるのは無理でも、監視させることで俺の疑いが晴れれば今後動きやすくなる。
未来への希望が見えてつい頬がゆるむ。ガチャでレアキャラを引いてもニヤニヤしない俺がスマホを見ながら笑顔になっているのを目撃されたら一条に怪しまれてしまう。
そのことに気付いてすぐに緊張感を取り戻す。真実を知ったとはいえ何の訓練も受けていないただの地球人だ。この辺も一条きららというスパイに対抗するには自分はまだまだ未熟だと実感せざるを得ない。
教室全体を
斜めから監視していたスパイはいつの間にか正面から俺を捉えている。さっきの油断した笑みを完全に見られた。一条も嬉しそうに目を細めている。獲物を見つけたトラのように恍惚な表情でこちらに向かってきた。
ただ歩いているだけなのに華やかで他のクラスメイトとは一線を画す存在感。それなのに誰も一条の動向に注目していない。
美人は三日で飽きるということわざがある。三日で飽きるなら、それ以上の日数、それも毎日見続けたらどうなるか。日常になる。
俺以外のクラスメイトにとっては当たり前の美人。恋愛対象にはなるけど、一挙手一投足に見惚れる期間はすでに終了している。俺が真実を知って一条きららを警戒したゆえに招かれた事態だ。
Zへの投稿を見らたら終わる。本当は同志達の言葉が欲しいけど、今は我慢だ。自分一人でこの時間を切り抜けないといけない。朝のホームルームが始まるまであと五分。
ひとまず五分耐えれば昼休みまでは長時間の自由時間はない。一条のことをスパイだなんて疑ってない。宇宙人の奴隷にするほどの価値もない人間だ。
そう認識させるために、ひたすらダメ人間であると思わせてる。気負う必要はない。素の俺で大丈夫なんだから。
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