第2話

 カニの家の中。カニたち一同、なすすべもないまま、寝かせている、さるを見守るしかなかった。

 突然、カニの家の前が、まばゆい光に包まれたかと思うと、そこには、若き乙女と、男たち数人、そして赤鬼がいた。

 家から出てくる、カニとその仲間たち。

 えぇ!!!お、鬼!!!こんな大変な事態の時に、鬼がやってきた!?

「落ち着きなさい」と乙女。

「あんたがたは、なんなんだ」と臼が言う。

「さるを助けに来たのです」

「ど、どうしてさるのことをしっているんだ?」

「わしは、女神の使いで参った、豊受大神とようけのおおかみ

「へ?なんだかよくわからないけど、助けてくれるんだな?」

「もちろんだ。なにせ、このせかいを元に戻さなくては」

「サッキカラ ナニヲ ワケノワカラナイコトヲ イッテルンダ」

「この、赤鬼は、なぜここに・・・」

「さるの治療に必要なのだ」

「えぇぇぇ!!!」

「オレタチニ ドウシロト イウウンダ」

「おまえの血を分けてくれ」

「ナンダトオ!!!」

「願いを聞いてくれるのではなかったのか?」

「ウ、ウゥゥゥ」

「ワ、ワカッタ」

 そこへ、カニが止めに入る。

「待ってください。鬼の血なんかどうやって、治療につかうのですか?もしかしたら、このおさるさんも、鬼のようになってしまうのでは?」

「わしも、神のひと柱だ。おまえらの想像には及ばないだろう」

 すると、大神おおかみは空に向かって祈り始めた。

 にわかに空は掻き曇り、雷鳴がとどろき、大粒の雨が降ってきた。

 大神以外は家へ入っていく。赤鬼は大木の下へ。

 ひとしきり、大雨が降り続いたとおもうと、ピタリと止んで、一条のまばゆい光が降ってくる。一同、目が開けていられなかった。

 しばらくして、皆が、恐る恐る目を開けてみると、そこには、女神が立っていた。

「女神、こちらです」

 大神が、家へ案内する。


 カニの家に入る女神と大神。続いて、カニたちもはいる。赤鬼は入れない大きさなので、戸口から覗いている。

 女神が、赤鬼の胸に手をおき、中から何かを引っ張るかのようなしぐさをする。

 赤鬼の胸から、細い赤い糸のようなものが出てくる。

 それを、女神の手で丸めるように包み、さるの胸にあてる。

 すると、その赤くて丸いものが、さるの体の中へ入っていく。

 さるは、息をするのもやっとだったのが、呼吸も楽になり、顔色もよくなって

いった。


 乙女、もとい大神だと知った若者は、落胆のいろが隠せない。

 <まあ、そもそも、不釣り合いだ>とほかの男どもが陰でいう。

 大神に近づく、若者。そして

「大神は、なにものですか?」と尋ねる事しかできなかった。

 大神は「説明してやってもよいが、お前たちはそれを、忘れるようになっている。よいのか?」

「かまわない」


 大神が説明するところによると、

 そもそも桃の中に桃太郎が入り損ねたのが問題だった。

 桃を見つけた、ばあさんが、桃の実を食べてしまい、後には、種だけが残った。

 その種を、女神が昇天させてやろうとしていたところに、大神があらわれ、粉砕された種を持ち帰り、桃仁とうにんもちを作った。

 桃の種は、桃仁と呼ばれ、正しく使う分には、薬になるのだが、じつは、桃仁には毒があり、食べすぎには注意が必要なのだ。

 そして、多喰らいであろう、鬼にたんと食べさせて、腹痛をおこさせ、おばばに治療させた。


「そこまでは、分かったが、鬼の血が、どうして・・・」

 鬼の血は、非常に強壮で、普通に使うには難がある。

 そこで、桃仁とよもぎを合わせることで、さるに影響がないようにした。

  ※よもぎに桃仁の毒を解毒する作用はありません。(作者注)

「さあ、もうよかろう」

「あ、あの。最後にひとつ。あちらの、さるを治した不思議なお方は・・・」

「ふ。説明するまでもない。元始女性は太陽であった」

「は?はあ・・・」


 突如、立ってはいられないほどの風が吹き、一瞬にして、女神と大神は消えていた。

 カニたちも、男衆も、赤鬼も、記憶にない状態で、そこにいた。


 カニたちは、回復したさるを丁寧に扱い、悪さをしたサルにみんなでお説教をした。

 悪いサルは、これからは、皆と仲良くすることを誓い、許しを得た。

 赤鬼は、力があるので、お困りごとの時に、役立った。

 英雄になるはずだったさるは、ここで、腰をすえるのも悪くないかな、と思って

いる。


                   つづく・・・かどうかはわからない

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鬼が島 あしはらあだこ @ashiharaadako

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