鬼が島

あしはらあだこ

第1話

 ギャァァアアハハハ!!!

 イヤァソンナニ酷いナンテ!キイタコトネエヤ!!!

 スバラシイネェ。


 鬼が島では、毎日残酷な話を肴に酒を飲む。

 赤い奴、青い奴。

 角一本、角二本。

 虎模様のはき物一枚に、上裸。

 ひとたび笑えば、鋭い牙がむき出しになり、その大声は島中が揺れるほどだった。


 農民たちは、毎夜震え、生きた心地がしなかった。

 それに加えて、桃太郎が来ない!!!

 なんの手違いか?

 わしらは見捨てられたのか?

 これからどうするだ・・・


 そんな時、一人のうら若き乙女が、言った。

「私が、おもてなしをして、様子を見てきましょう」

「いんや、そりゃ危険すぎる」

「行くなら、男衆に行かせるべきでねえか」

 皆が、口々に言う。すると乙女は

「それでは、私と一緒に行ってもらいましょう。もてなしの料理に少し仕掛けがしてありますので・・・」

「へえ、そうけえ。でも、でえじょうぶなのか?」

「そのあとのことも、すべて私にお任せを」

「ん~、そんなに言うなら、異存はねえけど・・・きい付けろや」

「はい。必ず収めて見せます」

 はて?この乙女はいったい・・・?


 鬼が島に着いた乙女たち。

 一人の若者が、乙女の手にしているものを見やる。

「これですか?」乙女が感づいて答える。

「決して手を付けてはなりませぬ。食せば、死にます」

「え?お前、一服盛ろうっていうのか!?」

「いいえ。鬼どもには、単なる腹痛程度にしかならぬでしょう」

「え?そっからどうしようってんだ?」

「そのあとのことは、おばばさまはじめ、おなごたちに協力を頼んであります」

「はあ」

「まあ、いいんじゃねえの。任せろって言ってんだし」

「そりゃそうだけど・・・」最前から、この美しい乙女に惹かれている若者は、心配でたまらないのだ。


 ひ弱そうに見える乙女が、腹の底から大声で

「おまえらの大将に、話がある」

 とのたまった時には、皆が、(おなごはいざとなるとこえぇ)と思った。

 何やら、鬼の耳元で乙女がささやくと、鬼どもは乙女たちを、歓迎し始めた。

 <いったい何を耳打ちしたのですか?>とたずねても<知らぬほうが良い>と相手にもしてくれない。

 そうこうしているうちに、宴会がはじまった。

 乙女の忠告通り、酒以外には、手を付けずにおいた。

「オイ!オメエ!コノモチハ ナンダ?」

「はい。それは、桃の種で作った桃仁もちでございます」

「モモノタネ?ソンナモノガ ウマイノカ?」

「ぜひ、一つお試しを」

 乙女は、愛想よくお酌をしながら答える。

 しばらくすると、ある赤鬼が、腹を抱えて、苦しみだした。

「オイ!!!オメエ ナニシヤガッタ」

 鬼どもが、乙女に詰め寄る。

「まあ、大変!すぐに、村のおばばさまを呼んできます。薬を煎じさせたら一番のものです」

「ヨシ、スグニ ツレテコイ カエッテコナカッタラ コイツラノ イノチハ ナイトオモエ!!!」


 直ぐに、おばばさまと村のおなごたちが、やってくると、おばばの指示で、何やら薬草のようなものを煎じ始める。

「さあ、できたぞ!ほれ、飲め!」

 おばばがぞんざいに、鬼に煎じたものを飲ませる。

「ホントニ キクンダロウナ!!! ナオラナカッタラ ドウナルカ・・・」

「はい。わたくしを引き裂いてもようござんす」乙女が答える。

 鬼が、煎じたものを飲む。

 すぐには効いてこない。

「オイ!!!キカネエゾ!!!」

「そりゃ、すぐには効かんぞえ。四半時はまたねえと」おばばが言う。

 鬼はなおも言いかけたが、赤鬼がそれを止めた。

「サッキヨリハイイ ダイジョウブ」

 若者は、乙女に聞いてみた。

 <鬼が、飲んだのは、なんだったのですか>

 <よもぎを煎じたものです>

 <よもぎで腹がなおるのか>

 <相手は、鬼ですので、少々強めに煎じたものをのませました>


 すっかり、よくなった鬼は、大層よろこんで、願いを聞いてやってもいいという。

「それでは、さるを助けていただきます」

「ハ?さるダト?」

「はい、瀕死の重傷でございます」

「サッキ オレガノンダモノジャ ダメナノカ」

「もうひとつ、必要なものがございます」

「ソレハ ナンダ」

「一緒に、さるのもとへ行ってくだされば、お話しします」

 と言ったかと思うと、突然強烈な光に包まれ、いつの間にか、見知らぬ家の前にいた。


                                つづく







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