第7話 welcome?

 参謀本部を出ると、どっと疲れが押し寄せてきた。


「にしても、長かったなぁ……」


 西の方の空がだんだんと赤くなっている。

 昼は例によってカツ丼だったが、夜はどうしようか。久しぶりに美味しいものでも食べて帰ろうか。

 そんな事を考えていると突然、肩をたたかれた。驚いて振り返る。

 何も気配を感じなかった。相当なやり手なのだろうか。


「誰だ。」


 そこにたたずむ人間を睨む。

 その人は俺の知らない言葉を発し、身振り手振りで何かを伝えようとしている。他国の人間だろうか。それも相当な辺境地だろう。この国で言葉が通じないのは相当困るだろうに、大丈夫だろうか。


「なんて言ってるかわからんけど、とりあえずついてこい。」


 深々と硬そうな帽子をかぶるそいつに声をかけ、手招きする。付いてくるよう伝わってると良いが。

 そうして俺は前を向き、いや、さらに180度回転し、歩き始めた。一旦こいつを連れて家に帰ろう。妹がなんとかするはずだ。もちろん、こいつが付いて来たら、だが。


 数歩歩いて後ろを少し確認する。しっかりと付いてきているようだ。まあ、付いてこないほうが楽ではあったんだけど。


 数分歩き、家に着く。


「ただいまー。お客さんいるから。」

「おかえりー。珍しいね、お客なんて。」


 帰りを告げると、妹が玄関に顔を出す。ニコっと笑い突然の来訪者にいらっしゃい、と声をかける。

 その笑顔のままこっちを向き小さな声でささやく。


「だれ?彼女?そんなわけ無いか。で、だれ?面倒なことしてるんだったら怒るよ?」


 すいません、多分面倒なことです。


「いや、あの、街で声をかけられて、というか、困ってそうだったから。言葉も通じないし。あの……」


 軽く先程の状況を説明し、後を任せる。というか丸投げする。覚えてろよ、って声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。気のせいに違いない。


「もしもし?言葉わかるかな?」


 妹がこいつに話しかける。そう、話しかけるのである。


『wakarimasu』

「よかったー。じゃあ、いくつか質問させてね。」


 相変わらずそいつはなんて言ってるかは分からないが、会話は成立しているようだ。さすが妹である。彼女も魔法が使え、それは『コミュニケーション』である。翻訳機能がデフォルトでついているようだ。万能すぎる。


 暫くの間聞いていたが、妹が意味の分からない言語と会話しているのは、見ている側からするとなんだかおかしな感じだ。恐らくちゃんと質問には答えているんだろうな。


「ありがとう!それじゃあ、ゆっくりしていきなよ。」

『ieie,kochirakoso.』


「さーて、兄貴。詳しく説明してもらおうか。」


 笑顔を崩さないまま、こちらの方を向き、トーンも変えず言い出す妹に、コクコクと頷くことしかできない。

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