第5話 出頭

翌日

参謀本部一般窓口にて


「えっと、アマノさん?に呼ばれて来たんだよね?」


 窓口のお姉さんの戸惑った声が聞こえる。俺は登録のない来訪者であった。


「はい。支援隊?の衛生科?って言ってました。」

「うーん。来訪者登録されてないんだけどなあ。本当に今日来いって言われてたの?」

「なるべく早いうちに出頭しろ。って言ってました。」

「んー。ちょっと確認してくるからそこで待っててくれる?」


 彼女が後のベンチを指差す。俺は無言で頷きカウンターを離れる。(もっとも、この身長では彼女に見えていないことは明白だったが。)

 まったく、あのロリ声の女、手間取らせるんじゃねぇよ。せっかくなるべく早くという言葉に従って朝一で来てやってるっていうのに……

 少し離れたから見えるようになったカウンターの内側では先程の受付嬢が電話をかけ、登録表を確認し、上司の元へ行き、また電話をかけ……と、忙しなく動いていた。

「えっ、そちらにもいませんか?」

「さっき出ていった!?」

など電話に向かって、目を丸くしたり、しょんぼりとした顔をして喋っている。これは、長くなる。そう確信した。


 かれこれ30分ほど経っただろうか。カウンターに一人の客が来た。

 あの受付嬢はまだ電話に向かって表情を変え続けており、その客の存在に気づいていない。


「すまない。手続きをしたいのだが」


そのロリ声に受付嬢と俺はハッとした。


「すいません、本日はどういったご要件でしょうか。」

「今日から期限は一週間で面会登録をしたい。一人、例の事故の件で呼び出していてな。」

「承知いたしました。まず、あなたの所属と階級、お名前をお願いします。」

「北方方面軍支援連隊衛生科のアマノ一曹だ。」

「はい。アマ……アマノ!」


 騒がしかったフロアに一瞬の静寂が訪れる。


「し、失礼しました。アマノ一曹ですねっ。あの、えっと、あなたに呼ばれた、って人が来てましてですね、あの、なにかお心当たり……じゃなくて、えっと、そんな人が来てます。はい。ご確認お願いしてもよろしいでしゅ……よろしいでしょうか!?」


 思わぬ来訪者にようやく面倒なタスクが一つ終わる喜びからだろうか、噛んでしまったことへの恥じらいだろうか。それとも軍人を呼び捨てにした気まずさからだろうか。頬を真っ赤に染めながら受付嬢は俺に人差し指を向け頭を下げている。

 アマノと目が合う。


「ああ、彼だよ。面会登録してないが、いいよな。少し面談室貸してくれないか?」

「は、はいっ。こちら鍵になります。確認のサインをこちらにお願いします!」

「ありがとう。それじゃあ」


 アマノがこちらに向かってくる。

 その後では受付嬢が上司と思しき男に呼び出されて目に水を溜めている。


「すまない。登録しようと思ったんだが……思ったよりも早く来ていたな。」

「いえいえ。」

「それじゃあ、今日は昨日のことについて詳しく聞きたいからな。別に尋問しようって言うんじゃないんだ。気楽にな。」


 左手に持つ鍵で戸を開け、俺を中へ手招きする。


 いかにも、な取調室であった。ここで気楽に、などできないな、と思った。

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