第2話 モンスター流出事件

 商店街につくと、そこには大きな門が出現していた。

 一般に『ゲート』と言われる、ダンジョンへの入口だ。そこへ入るとダンジョン内部へてレポートするらしい。


「なんか、これ大きくないか?いや、サイズは変わらないはずなんだけど...」


 俺はこのゲートに少し違和感を感じる。

 非正規イリーガル故にダンジョンに関しては自分でこれでもか、というくらい調査をしているし、実際にダンジョンに関して不運に見舞われたこともない。そんな俺の経験が、勘が、これは危険だ、と言っている。


「なにー?また兄貴の勘さ、ってやつ?なんにも変なところはないと思うけど?」

「なんか変なんだよなぁ。いつも以上に大きなオーラがするっていうか、うん。」

「ふーん。どーせ兄貴が入れるようになるのはある程度片づいてからでしょ。それまでに正規の人たちが安全確認してくれるって。己の命を以って。」

 たしかにそうである。妹の言葉に俺は頷く。

「まあ、もうすこし見てから帰るよ。先に家戻っておいて。」

「はいはーい。ちゃんと戻ってきてね?」

 早く行け、と言わんばかりに手をふる。


 おせっかい機能いもうとを無効にしてゲートを詳しく見てみる。(と言っても遠くから眺めるだけだが。)


 ギルドの制服や作業着を着た職員たちが忙しなく動き回っている。早く入れろ、と規制を突破して入ろうとしてくる大男たちを、俺よりも身長が低いような若い女性が、何事もなかったかのようにぶっ飛ばしている様子を見ているのは、なかなかに楽しいものだ。


 その時、ゲートが一瞬光った。何かがテレポートしたときの光に似ているような気がした。

 コンマ数秒後、視界が白くなった。


 腹に響くような低音が鳴り続ける。

 叫び声が聞こえる。

 ジャラジャラと重い防具が擦れ合うような音がする。

 複数の足音が聞こえる。


 やっと視界が戻ったとき、そこは血の海と化していた。


 暗い緑色をした胸板の厚い人形のモンスターが、黒く光る細長い棒の先をゲートの外側に向けて構えている。段々とゲートを囲むようにモンスターたちは広がっていく。

 こんなに統率の取れた動きをするモンスターは今まで見たこともなければ、聞いたこともない。

「軍隊みたいだ...」

 思わず口から言葉が漏れていた。

 テキパキした動きであっという間にゲート周辺を己のものにしたモンスターたち。ただ暴れまわり街を破壊するのでもなく、そこが拠点だ、とでも言うようにそこに留まり、あたりを見回している。


 逃げることも、状況を把握することも、姿を隠すことでさえできずに、俺はただそこで唖然としていた。


 モンスターたちが何か声を上げている。

 何を言っているかは分からないが、普通のモンスターのうめき声ではないように感じた。なにか意味のある言葉なのだろう、そう思えた。


そのとき、再度ゲートが光った。

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