第一章

第1話 モンスター流出事件 直前

ダンジョン


それはこの世の経済の基幹だ。

冒険者はダンジョンからアイテムを持ち帰ることで金を得るし、アイテムの売買でショップは儲かる。

冒険者は圧倒的な経済力を持ちやすい。その分リスクも大きいが、それ以上の魅力がある。それ故、正規の冒険者になるためには厳しい試験が課せられる。この試験に合格しない限り、ダンジョンへ行くことはできないし、冒険者の特権を使うことももちろんできない。


さて、試験に落ちた者、そもそも受験資格がない者はどう生活するのか。冒険者以外の職に就くのが一般であるが、必ずしもそうであるわけではない。


そう、彼のように。


「おっちゃん、買い取りよろしく。」

カウンターからフードの先だけが見えるような身長の男、いやガキがその背丈の三倍はあろうかという獣をカウンターに乗せる。

「相変わらずきれいだよなあ、見た目は。」

「見た目だけじゃない。中もちゃんときれいだよ?たぶん。」

おっちゃん、と言われた大男は獣を軽々と持ち上げ腹にナイフを入れる。

「だめだな、ぐちゃぐちゃだ。いつも以上に。じゃあ、5万cdでどうだ?」

「えー、おっちゃん、もっと高くならない?」

「いやー、厳しいな。これでも頑張ってる方なんだぞ。お前みたいな非正規イリーガルから高く買えるほど財力ないんでな。」

「しゃーないなあ。」

「ちゃんと全身キレイに持ってきたら倍額で買ってやるよ。また次もよろしく、ナディア。」

差し出された手に数枚の紙を乗せ、大男は呟く。

「まったく、なんで内側が壊れるんだか、奇妙な奴め。」

ナディアと言われた少年が走り去っていく姿を見ながら大男は次の客を迎える用意をする。


「いやー、中までできれいにって言われてもなぁ」

ふと、屋根に人の影が落ちる。

「またなんか言われたの?」

「そうそう。でもまあ、買い取りはしてくれたから、まあいいけど。」

心のなかでため息を吐きながら声の主の方を見る。

「相変わらず魔法使ってるの?いい加減体術とか剣技とか覚えてよ。兄貴ならすぐできるようになるって。」

相変わらず憎たらしい笑顔だ。

「魔法なんて、いつ犯罪者扱いされて牢獄で一生を終えろ、って言われるかわかんないんだから。妹は心配しているんですよ?」

「はいはい。」

まあ、彼女も言ってることはあながち間違いではない。この世界での魔法とは、忌まわしきもの。魔族の手先と認定されて捕まってもおかしくはないのである。たとえ使えても、使わないのが一般的。まして、使えると公言することなど、死刑にしてくださいと言っているようなものなのだ。

「んで?なにかあった?」

「あ、そうそう。さっき商店街の方にダンジョンのゲートできてたよ。行く?」

「行く。すぐ行く。」

そうして俺らは屋根の上を駆け出した。

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