第12話 対決! 辺張殺しのペンバー(その③)
(う、これも
リンシヤの牌姿:
一二四五八九38⑨⑨東西發
ドラは②筒。牌姿は悪い。
普通にピンフに育てていくのもあるが、シャンテン数が悪い。その数実に四向聴。本手になるよう育てていくのは後手を踏む恐れが大きい。
となると字牌を貯めた安全進行の方が押し返しやすく、万が一に、三萬七萬あたりを引いて来たとき攻め返せるぐらいの構えがいい。
悪いときでも平面の受け入れ効率最大に構えるべきではないのか――かつて、リンシヤはそのように考えていた。
しかしここから字牌を切っても3索8索を切っても、面前得点期待値は40点も変わらない(※460点〜420点)、と師の《龍使い》は説明していた。
鳴いて加速して2000点ぐらいに仕掛ける方が手牌の価値が高くなるし、これぐらい悪過ぎると逆にスリムに構えても和了逃しの損失がそれほど大きくない――ということらしい。
そのため、字牌をたくさん構えて数牌を鳴いていく
普通に進めてノミ手の愚形リーチになりそうな手は、字牌を貯めて鳴き寄せたほうが攻守安定するのだ。
(でも
逡巡。
リンシヤが選んだのは打3索。
基本は
しかし――。
(う、二枚目の三萬が上家から出てきてしまいましたわ……)
リンシヤの牌姿:
一二四五六八九九⑦⑨⑨西西
三萬は相当な急所である。
一枚目からでも鳴いていきたいぐらいの強烈な牌。しかしこれを鳴いたとて1000点の価値があるかは微妙である。
立て続けに萬子を引いて
それに、
リンシヤの選択は、チーせず。
悠長過ぎる麻雀だが仕方ない。
(……この麻雀、やってみて気付きましたけど、タンピン系の手が入らなかったら、もうその手を捌くのは相当きついですわね)
だが、ツモの方向はあらぬ向きにあった。
麻雀においては往々にして、運命のいたずらのようなツモが来るものである。今がまさにそれであった。
更に巡目が進み――九巡目、リンシヤの手はどんどん萬子に育っていた。
リンシヤの牌姿:
一二二四五五五六八九九西西
(えっ、えっ、これ、何待ちの何鳴きですの? えっ)
直感的に
西の対子を払って一気に
ただ、こんなに萬子が高いと誰もおいそれと出してくれはしなさそうである。⑦⑨⑨の強烈な手出し。リンシヤの河は非常に濃くなっていた。
次巡、ツモ六萬。
急所――。
一二二四五五五六八九九西西 ツモ六萬
(えっ、えっ、一萬切り? ですわよね? いや、弱いターツを強化したほうが強かったりしますかしら? 一二二の形は
考えれど答えは出ない。
直感は打一萬である。三萬が既に二枚も出ており、一萬を切ったときの裏目の三萬は薄くなっている。辺張罰符を回避する意味でも、打一萬のほうが優れている、気がする――。
続けてツモ三萬。まさかの引きである。
すでに二枚が河に切られて薄くなっていた急所。しかしこれは――。
二二四五五五六六八九九西西 ツモ三萬
(う、裏目ー! いえ、でも、これは二萬切りですわよね……?)
理牌して確かめる。
二三四五五五六六八九九西西 二
暗刻の五萬のせいで孤立二萬の機能が低下している、と見れなくもない。六六八九九西西の部分が少し進めばすぐに満貫級のリーチが打てる。
思いがけない手牌の育ち。懸命に表情を取り繕いながら打二萬。一萬、二萬と二枚萬子が溢れたことで他家の警戒度はますます上がる。
しかしこれは仕方がないのだ。
二三四五五五六六八九九西西 ツモ四萬
(えっ、えっ、えっ……?)
リンシヤの思考はここでこんがらがった。
理牌すると、
二三四四五五五六六八九九西西
ぱっと見で切りたいのは五萬・八萬・九萬。わかりやすい五萬切りは、「二三四四五五六六」の部分が一萬フリテンを含んでしまっている。
(えっ、えっ、これツモ切りですの!? いや、どうせ他家から萬子が出てこずロン出来なさそうならフリテン覚悟の打五萬……?)
逡巡。答えは出ない。
七萬ツモ頼みになる九萬切り、九萬・西の双ポン待ちになりそうな八萬切り、フリテン含みの五萬切り――リンシヤの結論は、打八萬。
(辺張は罰符、それを加味して八九萬の辺張形を嫌ってもさほど悪くないはず……。しかも八萬切りでも七萬受けは残ってますわ)
しかし次のツモがまさかの三萬。ラス1枚の引き込みである。
二三四四五五五六六九九西西 ツモ三萬
(〜〜ッ! 二萬フリテンのメンホン七対子!?)
リンシヤは歯噛みした。
分岐はあった。とはいえそれは中々追い切れるものではない。
ツモ三萬、打二萬のところで、七萬受けダイレクト聴牌の損を承知で、ツモ三萬・四萬の七対子の目を残す打八萬。
二二三四五五五六六八九九西西→打八萬
あるいは、それより前のツモ六萬、打一萬のところで打五萬固定(二向聴の面子手より七対子の一向聴の受け入れ最大化)。
一二二四五五五六六八九九西西→打五萬
どちらも手筋としてはすぐ思いつくものではない。
(……聴牌は取って、字牌と萬子を引いたら振り替え。とはいえもうこの手は……)
打五萬。
河には既に、一萬、二萬、八萬、そしてこの五萬が出ている。
もはやこの手は和了れない、とリンシヤは直感した。
(……跳満の逆転手、作れましたのに)
巡目が進んで七萬をツモった瞬間、リンシヤは苦笑した。
――結局、リンシヤはこの半荘で逆転することはなかった。
チャンスは何度も来ていたが、それを活かすことはできなかった。
この勝敗は、
彼女は自覚していた。これは、自分の手筋の悪さで自滅したのだと。
「……お嬢ちゃん、気にするこたぁねえよ。この俺ペンバー様と当たったんなら勝てなくて当然さ」
大男の声も、もはやリンシヤには聞こえていなかった。
(……最初、
リンシヤはこのとき、能力者相手との闘いであることを忘れて、純粋に悔しさをかみしめていた。
能力者相手だから勝てなくて当然――という考えは既に心のどこにもなかった。
十分
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