第8話 先手と後手、安牌と余剰牌(後編)
「基本的に相手の打点速度は、捨てた牌から推理することになる」
普通、序盤の切り順は『19字牌→徐々に中張牌』という順番になる。
しかし価値の逆転が起こっていたり、価値の高いターツの取捨選択が入っていればそれは警戒の対象になる。
前者は
■打点速度読みの視点
●遅い役(
- 萬子筒子索子のどれかを集めている
- 価値の逆転
→ 打点はあるが遅いケースがほとんど、副露したら警戒高める
●価値の高いターツが捨てられている
- 序盤の19字牌切りの順番が役牌から切っている
- 3〜7の色の違う中張牌が二枚以上切られている
- 赤5牌が切られている
- ターツ選択が入っている(嵌張ターツ落とし、対子落としなど)
→ 速度ありそう、牌姿が十分形である可能性が高くなる
……等
「実戦では、当てはまらないうちにリーチが飛んでくることも多いが、全部当てはまるやつは大体早い」
例えば
捨牌1:
白中北8⑥西二9 → 役牌早切りで、その後の⑥筒も速そう
捨牌2:
1西南白⑨東三⑥ → ようやく端牌整理終わって三萬⑥筒出てきた程度
捨牌3:
白二r⑤ → 赤⑤筒が早く切れており、かなり警戒
捨牌4:
南⑧⑨1二 →
「捨牌3はかなりおかしい。例えば
警戒度は捨牌3>捨牌1>捨牌4>捨牌2……ぐらいになりそうだ」
捨て牌をじっと見ながら、リンシヤは「……捨牌1の役牌先切りのほうが捨牌4や捨牌2より警戒度高いんですのね?」と訊ねてきた。
これは少し補足が必要かもしれない。
別に役牌先切りだからといって、必ずしも警戒度が高いわけではない。その後に⑥筒が出てきたので警戒度が高いわけで、捨牌4や捨牌2のやつの方から先にリーチが飛んでくるケースも十分ある。
が、役牌先切りするやつは大抵『鳴かれたくないから切る』という場合が殆どで、鳴かれたくない手は大抵リーチまで速いことが多い。
経験則的に捨牌1>捨牌4>捨牌2と言ったが、この辺は言語化が難しい。何度か実践を経て覚えてもらう他ないだろう。
「重要なのは、誰に対する安牌を持つかだな。例えば捨牌1と捨牌2の奴がいたら、俺なら捨牌1の奴の安牌を抱える」
安牌を抱えるといっても、何も字牌の西を抱えるとかいう話だけではない。
例えば、手元にある122と889のどちらか1枚切るかを悩んだときは、捨牌1と捨牌2を比較し、『捨牌1のやつからリーチが来たときに押し返しやすいようにしよう』と考えて1索を切る……みたいな感覚である。
「……仮に、捨牌2みたいなやつからリーチ来たらどうしますの?」
「押せ」
リンシヤからの更問に俺は即答した。
「捨牌2は三萬⑥筒切ってるから微妙だが……河が薄い相手の手牌にはターツ選択が入っていない。ターツ選択が入っていない奴の手は、愚形率が高くなったり、本手率が下がる傾向にある」
これは当たり前の話だが、『愚形リーのみでも先制だから渋々リーチ』『愚形リーのみは嫌だから愚形ターツ落としで聴牌取らず』の二つを比較すると、前者の方が河が薄く後者のほうが河が濃くなる傾向になる。ターツを落としているからである。
そして本手率も後者のほうが必然と高くなり、警戒すべきは後者のほうである。
通っている筋の本数を数えても、放銃率はまだ全然高くないので、押し返せる牌は結構多くなる。
実際、捨牌2を見ると、
捨牌2:
1西南白⑨東三⑥
……とまだ見えてる筋が4本/18本なので、両無筋の456牌を切っても放銃率10%以下である。一向聴からであればかなり押し返せる。
「オカルトジンクスNo.53『素直な放銃軽いケガ!』やな!」
「それは知らん」
あっけらかんとのたまうオカルト少女をばっさりと斬る。
棒テン即リーは愚形率割と高い(※何故ならターツ選択が入っていないから愚形リーチ率が相対的に上がる)という話と、軽い放銃かどうかは別の話だ。
一向聴押し引きについて再掲すると下記のとおりとなる。
■巡目別
・満貫の両面+両面
9巡目で放銃率18%、14巡目で放銃率10%
・5200の両面+両面
5巡目で15%、9巡目で放銃率13%、14巡目で放銃率8%
・5200の両面+両嵌
5巡目で10%、9巡目で放銃率8%、14巡目で放銃率6%
■巡目別
・満貫の両面+両面
5巡目で15%、9巡目で放銃率13%、14巡目で放銃率5%
・5200の両面+両面
5巡目で10%、9巡目で放銃率8%、14巡目で放銃率4%
・5200の両面+両嵌
5巡目で7%、9巡目で放銃率5%、14巡目で放銃率3%
これを見ても分かる通り、捨牌2の相手に対してはかなり押し返しが効くのだ。
「先手を取られても押し返すんだ。でもそれは決してぶくぶくにしろという意味じゃなくて、スリムに構えて無駄押しを減らしつつ、無駄オリも減らせということだ」
先手を取られそうな相手を事前に察知して、そいつに押し返しやすい手を組む。それが押し引きバランスである。
後手に回っている場合、大抵、ぶくぶくにするよりは危険牌先切りの方が押し返しが効きやすい。
先手には先手、後手には後手の戦い方があるのだ。
「? ロナルドはん、手出しツモ切りは教えへんのかいな?」
「……まだ早いんじゃないかな」
実は、打点速度読みの精度を高めるために、手出しツモ切りを見るというのがあるのだが――。
(俺だって毎回そんな、手出しツモ切り見てばかりじゃないし、今はそんなことより基礎固めが大事だからな……)
それは、リンシヤやピープスが次の段階に進んでから。
あまり一気に大量に詰め込んでも良くないものだ。
「……手出し、ツモ切り」
リンシヤが耳聡く聞きつけたようだが、俺は「さあさあ、牌譜検討に移るぞ」と注意をそらすことにした。
手出しツモ切りは諸刃の刃である。考えることが多いわりに収穫が少ない。こういうのは真っすぐ打つことを覚えてからでいいのだ。
今ひとつ納得のいってない様子のリンシヤを横目で見ながら、(そういう細かい疑問を探求しようとする力があるやつは、放っておいても伸びるさ)と、俺は半ば確信を抱いていた。
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