第4話 《ジンクス》のアヤと《龍使い》のロン

『ウチとあんたに挑戦状が届いてるんやけど、ウチもあんたに挑戦したいからもののついでに届けたるわ! 首洗って待っときや!』


 そんな嬉しくない手紙が届いたのはつい最近のこと。

 なんでも、俺の天敵といって過言じゃないあの女・・・がわざわざ王都にやってくるというのだから困る。

 その名も《ジンクス》のアヤ。


(あのじゃじゃ馬娘かぁ……、ドラ待ち四暗刻単騎で俺からW役満親被りツモしやがったのが懐かしいな……)


 豪快な大笑いで『なはははー! 堪忍やで、ロナルドはん! オカルトジンクス、No.91『四暗刻単騎スッタンはいっそドラで待て!』やで!』とか抜かしたときには小突いてやろうかと思ったが、俺も俺であれは熱くなっていた。


 七対子なのか染め手なのか分かりにくい河で、字牌がとにかく高い状況で、そんな中で目に見えて単騎コロコロがあったので、字牌警戒でオリざるを得なかったのだ。


 それがまさかのW役満ツモ。16000-32000の豪快なツモ和了りで1位を掻っ攫っていった。この四暗刻単騎が伝説となり、《龍使い》の好敵手、として都度都度あの女が持ち上げられるようになった。

 着順平均で勝ち越してるのは俺だが、向こうはああやってたまに華々しく勝っているので、勝っている印象が強いのは向こうの方である。


(とはいえあいつ、ちょくちょく打ち筋が変だけど、普通に強いからな……)


 俺と打ち合える数少ない打ち手の一人。

 能力麻雀が主流のこの世界で、能力に頼らないタイプ・・・・・・・・・・の珍しい打ち手である。

 もしかしたら彼女の打ち方は、能力を持たないリンシヤにとってもいい刺激になるかもしれない。


「でもなんで、そんな方に師匠宛の挑戦状が届いていますの? 普通に師匠宛にお手紙を送ればいいだけなのに……」

「よくあることなんだ、どうやら俺は悪戯妖精にちょっと愛されすぎてるみたいでね」


 話すと長くなるが、例えば俺は教会から手紙が届かないことになっている。

 過去に教会に破門されてしまったからだ。

 だから教会からの手紙は知人から転送されてくる。おそらく今回もそのパターンの手紙がいくつか混じっているだろう。


 他にも、悪戯妖精たちが勝手に俺宛の手紙を他人に送りつけたりすることがある。どうやら俺は彼らに『悪戯仲間』と認識されているらしい。

 確かに俺は、ちょくちょく麻雀中に『悪戯・・』をすることがあるが――。


 悪戯妖精、という言葉を聞いて、リンシヤはちょっとだけ目を丸くして「へ、へえ……」とぎこちない笑みを浮かべていたが、もしや何かあったのだろうか。


 一方でピープスは、もっと違うことに驚いていたようであった。


「《ジンクス》のアヤ……だと? ア・カドラ大陸の『十三不塔シーサンプータ』の一人じゃねえか……」

「それ、別に加入してても何にもないからな。誰かが言い出しただけの特に何もない十三人ってだけだぞ」


 俺も『十三不塔シーサンプータ』の一人扱いされているから分かる。

 たまに物好きの貴族とかに『ああ! あの十三不塔シーサンプータの! どうぞどうぞ今日は泊まっていきなされ!』と接待してもらえるぐらいで、日常生活に大した影響はない。名誉ってだけである。


「でも、そうか。アヤが来るのか……」


 俺はちょっとだけ内心で、リンシヤとピープスを鉢合わせていいかどうか悩んだ。俺が弟子を取っているなんて聞いたら、きっとあれこれ言ってくるに違いないからだ。

 あの《龍使い》がどうして弟子を取っているんだ、なんて大騒ぎするに違いない。

 嵐の予感がする、と俺は思った。多分当たらずとも遠からずであろう。






 ◇◇◇






 一二三六八2334556西西

 →打八萬

 4索の1枚使い+二度受けでもなお嵌張外しが優位。




 2334三四五五⑦⑧⑧北北北

 →打⑦筒

 中ぶくれ+亜両面+両面対子の形。

 中ぶくれは頭を作りにくい形なので、両面対子とは相性が悪く、雀頭固定を選ぶケースが多くなる。

 くっつき一向聴として見ると、3索と五萬と⑦筒の比較で、頭のそばの牌はくっつきが弱くなるのでやはり⑦筒切りとなる。




 3445567788四四⑦⑧

 →打7索 or 打8索

 345を抜き出せば、45678の三面張があるのに気付くはず。

 逆に678を抜き出しても残った形は三面張にはならない。

 二度受けになっている45と78のどちらを残すかの比較で迷ったと思われるが、三面張が残るのは外側の78切り。

 ちなみに、両面の聴牌確定でほぼピンフがつくのでわざわざ七対子は見ない。




 ドラ:五萬

 五七八八九九234555⑥⑦

 →打九萬

 八萬と九萬の受け入れ枚数は同じだが、違いは断么九タンヤオが付くかどうか。






 ――何切る問題を解きながら、リンシヤは自分がいかに『麻雀を雰囲気で打っていたか』を痛感していた。


 よく師匠のロナルドは『一打一打の理由を説明できるようにしておけ、それが説明できるようになれば何を切っても正解だ』と口を酸っぱくして言っているが、やはり一打一打のセンスというべきか、要所要所の考え方の引き出しというものは出てくるものである。


 無論、場況や点数状況、相手の手の進行具合によって打牌は変わってくる。それでも、基礎となる考えがないと物差しがないも同然になってしまう。


(もしかして師匠も、何切る問題を作りながら、ああでもないこうでもないと麻雀を勉強しているのかしら?)


 今度、一緒に何切る問題を作りたいと言ったら喜んでくれるだろうか――。


 残り筋本数と放銃率の暗記。

 一向聴の押し引きの暗記。

 何切る問題。

 実戦練習。


 最初こそまるで麻雀がなってないリンシヤだったが、それでもこれだけのことをやっていれば成長するものである。


 押し引き判断はまだまだよくわからないし、読みも全然なっていないが、和了率あがりりつは少しずつ上がってきたかもしれない――。

 ここのところ麻雀にのめり込みつつあるリンシヤは、師匠である《龍使い》と自分自身の距離に思いを馳せた。


 今本気であの《龍使い》と戦ったら、自分はどの程度通用するだろうか。


(勝てる未来は全く見えませんけども、いい勝負が出来る可能性はありまして?)



 ――――――

 ここまでお読みいただきありがとうございます。


 何切る問題とか麻雀戦術論とか、かなり麻雀大好きな人に向けたマニアックな内容の小説ですが……筆者が言うのも恐縮ですが、歯ごたえのある中身になっていると思います。


 想定レベルでは、じゃんたまの雀豪レベル(※筆者の現在のレベル)になります。だいたい上位10%程度。私がやりがちなミスだったり、私が勉強になったことを詰め込んでいるので、同じレベルで躓いてらっしゃる方がいたら、一つの参考になるのではないでしょうか。……という希望を持っています。

 雀聖あるいは魂天を目指されている方がいらっしゃいましたら、是非とも本作品をその一助にしていただけましたら幸いです。


 現在、カクヨムコンに向けて執筆頑張ってます!

 面白いと感じましたら、小説フォロー・★評価をポチッとしていただけたら幸いです。

 これからもよろしくお願いいたします。


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