第3話 手変わり判断の基準(ダマ継続とシャンテン戻し)

 大衆酒場で牌を操る少女が一人。

 まだまだ慣れが足りないのか、点数計算や、リーチ後に通った筋本数のカウントに少しもたついているものの、ずいぶんしっかりと麻雀をするようになっていた。


(ドラは2索でちょっと使えない。くっつき一向聴で、くっつきの片方が中ぶくれですわね)


 リンシヤの牌姿:

 二三三四七七456③④⑤⑧


(ざっと計算したいときは、嬉しいツモが何種類か数えるのが早いですわね。中ぶくれは一二四五萬の4種類、そしてもう一つの孤立牌は⑦筒の1種類、合わせて5種類……)


 両面+両面の一向聴で、嬉しいツモが4種類であることを考えると、今の一向聴は両面+両面の一向聴よりもいい形の一向聴だと言えそうであった。


 ――次順、ツモ⑥筒。


 リンシヤの牌姿:

 二三三四七七456③④⑤⑥⑧


(……? 聴牌取らずかしら? 打⑧筒なら、中ぶくれで一二四五萬の4種類、ノベタンで②④⑤筒の3種類、合計7種類も嬉しいツモがありますわね……)


 麻雀は合計34種類の牌がある。

 なので、嬉しいツモが4種類なら約13%、7種類なら約20%でそれを受けられる。

 ピンフをつけて両面でリーチをするのが打点的にも和了枚数的にも魅力的である今、聴牌取らずの打⑧筒はかなり有力候補だと思われた。


(……でも今、8巡目ですわね。好形聴牌への変化確率が20%だとして、平均5巡かかるとしたら、13巡目聴牌テンパイってどうなんですの?)


 打三萬で黙聴もある。


 その場合は『二三四七七456③④⑤⑥⑧』の牌姿ぱいしとなる。

 ②④⑤筒の3種類の変化を見つつ、⑦筒はロンする構え。

 これなら一巡毎に和了抽選を約3%ずつ受けられるので、5巡のうちにツモ15% + αで他家からのロンの恩恵も得られる。

 好形変化したらリーチ。

 これは和了あがり逃しもなく、バランスが一番良さそうにも思われる。何より、全ての赤5を吸収できるのがいい。


(……確か、良形変化を見て向聴シャンテン戻しする限界は大体7~8巡目だと伺いましたわ……。聴牌テンパイの道も逃さず、出和了あがりも利くこの形が一番ベターですわね)




 ■巡目と手代わり基準

 序盤(4巡目):打点二倍が6種、良形変化が9種。

 中盤(7巡目):それぞれ7種、11種。

 中盤(10巡目):それぞれ9種、11種。

 終盤(13巡目):手変わりを待たず聴牌テンパイ維持 or 即リーチ。




 今回は、くっ付くと平和がつくものの、「三萬くっ付きでは約半分の確率で断么九タンヤオが消える」「出和了あがりが効く(※出和了あがりは手代わり4種相当に近似できる)」ので、三萬切りが普通より強くなっている。


 二三三四七七456③④⑤⑥:

 - 打点二倍:四七萬(二五萬の半分)・④⑤筒(②筒の三分の一)

 - 良形変化:一二四五七萬・②④⑤筒

 二三四七七456③④⑤⑥⑧:

 - 打点二倍:七萬・④⑤筒(②筒の三分の一)

 - 良形変化:七萬・②④⑤筒+⑦筒4種


 とかなりいい勝負である。

 いい勝負なら好きな方を選ぶのがいいが、リンシヤはここで打三萬の黙聴とした。


(自分の手にドラがないということは、他の人にドラが固まっている可能性がありますわね。この手は躱し手ですわ。和了あがりのチャンスを逃したくありませんわ……。それにこの手は――)


「チー」


 出てきた赤⑤筒をチー。

 リーチ断么九タンヤオの愚形2翻よりは、たまに出てくる断么九タンヤオ赤1の両面リャンメン2翻。

 良形変化を待って立直でぶつけるのが一番打点派っぽいが、リンシヤの師匠ロナルドはこんな感じの打ち回しをよくする。

 だから真似してみた。

 師匠の真似は、嫌いじゃない。


(相手のチャンス手をつぶすのも、自分のチャンスを育てるのと同じぐらい大事なことですわね……)


 リンシヤの粘りの甲斐あってか、この局はリンシヤが500-1000のツモで終わった。

 何てことない和了あがりではあったが、リンシヤは昔のころよりも麻雀が上手くなったような実感を抱いていた。






 ◇◇◇






 7巡目 ドラ:⑧筒

 四五七九②③④⑤22678 ツモ六


「……なるほどなぁ? 今のウチに丁度ぴったりの手材料やね」


 鈍りのきつい少女が、獰猛な笑みを浮かべた。

 立直に行くべきか、より良形を求めて向聴シャンテン戻しに取るか。少女の選択は打九萬――向聴シャンテン戻しである。


(八萬は上家が既に捨てとる。オカルトジンクス、No.24『間に合わなかった聴牌テンパイ形はとるな!』やで)


 7巡目と言えば、そろそろ他家から立直が飛んでもおかしくない巡目である。だが彼女は先制立直を選ばなかった。


 この手は色んなツモで、断么九タンヤオ平和ピンフがつく。

 ■四五六七②③④⑤22678

 - 三五六萬・④筒で平和ピンフ断么九タンヤオ

 - 八萬・③⑥筒で平和ピンフと高目断么九タンヤオ

 - ①筒で平和ピンフ

 - 二四七萬・②⑤⑦筒・2索で断么九タンヤオ


(こんな手をリーのみで潰すなんてもったいなさすぎやで。せめて立直ツモ断么九タンヤオぐらいには仕上げなきゃ、運が逃げていくで)


 上家から打たれた赤五萬も涼しい顔でスルー。

 これもジンクスで鳴かない。鳴いたら三六萬待ちの両面リャンメン聴牌テンパイであることは重々承知の上である。


(堪忍やで。その赤五萬はご祝儀つくからなおのこと鳴きたいんやけどな。オカルトジンクス、No.12『門前仕上げの次局、自ら動くなかれ!』や。ウチは前局あがってもうたからそれは鳴けないんやで……)


 二巡後、ツモは赤⑤筒。

 この2索と⑤筒の双碰シャンポン形はあまり強くない形である。⑤筒切って聴牌テンパイ取らずが引き続き有力候補となる――。


(ちゃうねんな。オカルトジンクス、No.65『空切りは勢いを消す』や。⑤筒を赤⑤筒と入れ替えたら、空切りになってしまうんやー。これはきついで)


 打七萬でダマテンに取って断么九タンヤオ赤1。

 四五六②③④⑤赤⑤22678

 これでもまだ③④⑥筒引きの変化と、3索引きの変化が残っている。

 しかし、ここまでジンクスが続けば好調なツモが寄ってくるというもの――。


(せやろせやろー! このツモが史上最強なんやでー!)


 11巡目。

 四五六②③④⑤赤⑤22678 ツモ④筒

 まごうことなき本手の聴牌テンパイ


「オカルトジンクス、No.23――」


 出された供託。静かに置かれた宣言牌の②筒。

 濃厚な聴牌テンパイ気配を隠すことさえもせず、また高目④筒待ちの7700黙聴ダマテンに取ることさえもせず。


 ジンクス使いの彼女は、丁寧に「リーチや」と宣言を入れた。


「No.23、『決め手の最終形はもれなく立直!』や!!」


 次巡、一発でツモられた牌は、③筒。

 四五六③④④⑤赤⑤22678 ツモ③筒

 メンタンピン系の綺麗な手。


「リーチ、一発、ツモ、平和ピンフ断么九タンヤオ、一盃口、赤1、裏が――⑤筒の2丁で倍満やね。4000-8000貰おうやないか」


 リンシヤたちが打っている大衆酒場とはちょっと離れたところにて。

 奇妙なジンクス使いの旋風が雀卓を荒らしていた。


 その打ち筋は奇怪。

 合理的でありながらも一部不合理。

 誰にも読めない、そして誰も真似できない鮮やかな打ち方。


 経験知の魔術師オカルト使い

 勝利に愛された少女。《龍使い》の好敵手にして天敵。

 大陸に広く轟く、その名は――《ジンクス》のアヤ。






 ――――――

 ■巡目と手代わり基準

 参考:「科学する麻雀」


 ジンクスのアヤは完全に、「牌賊!オカルティ」のオマージュですね。

 片山まさゆき作の麻雀漫画なんですけど、本当に面白いので皆様是非とも読んでください!

 もっと世間に広まってほしい名作です。


 ちなみに赤⑤筒ツモの時点で立直はありだと思います。①③④⑥筒引きでより良形に変化しますが、九巡目なので迷いどころです。


 2024/02/10:修正しました!コメントありがとうございます!

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