第2話 何切る勉強会の仲間が増えるなど
「……おはようございます、ロナルドの兄貴」
「兄貴になった覚えはねえよ、ピープス」
遅い朝食を採って身体を井戸水で拭いた後、俺とリンシヤは改めてピープスと出会った。
かつてリンシヤを嵌めようとしてきた小悪党。
そしてその後、俺が倒した能力者。
因縁浅からぬ相手ではあるが、こいつにはまだまだ用があるのだ。
「すんません、これからは心を入れ替えて兄貴のお役に立ちたいと思ってるんで……」
「なら早く残りの借金を返すことだな。まだ金貨6枚残ってるぞ」
「……っすね」
苦い顔をしたピープスは、しかし俺の言葉に何を言い返すでもなく卓についた。
噛みついてくるかと思ったが、そこまで考えなしという訳でもないようだ。
「……兄貴には、絶好の狩場をいくつか紹介します。後は俺の
「……ちゃんと金貨6枚分の価値はあるんだろうな? これも雀卓に向かって
「……うす」
雀士は、勝負に負けたら賭けたものを譲渡する義務がある。それが果たせない場合は代価を差し出す必要がある。今回ピープスは、自分で設定した賭けの金額を俺に支払えなかった。
だからこうやって代わりのものを差し出して、俺に許しを請う必要があったのだ。
(まあ金貨11枚って、普通に考えたら二、三年分の世帯年収ぐらいだもんな……)
まだ年若いピープスには相当キツい負担だろう。
一応、《透かし見》のピープスとか言って二つ名を名乗っているようだったが、それで裏世界に大々的に名を売っているかというとそうでもなさそうである。現に俺がその名前を知らなかった。名の知れた代打ちなら俺の耳にも届いているはずであるが、《透かし見》なんて名前は聞いたことがない。
そんなピープスに、これだけの金貨の支払い能力があるのかは疑問であった。
正直なところ、絶好の狩場も、情報網とやらも、あまり期待はできないだろう。
「で、ピープスもどうだ?」
「? ……何がっすか」
卓の目の前に俺は牌を並べた。
今からリンシヤの勉強会のつもりだったがちょうどいい。他に打ち手がいるほうが彼女もあれこれ勉強しやすいだろう。
怪訝な顔をしたピープスに、俺は牌を指さして答えた。
「麻雀の勉強だよ」
◇◇◇
何度か練習をして分かった。
例えるなら、リンシヤは初心者、ピープスは中級者ぐらいだろうか。読みや手作りは流石にピープスのほうがこなれている。
とはいえ、リンシヤは素直な打ち筋だし、変な癖もないので、もしかしたら彼女のほうが伸びは早いかもしれない。
「……いいんすか、俺なんかが麻雀教えてもらって」
「? 構わないさ。リンシヤの練習相手になってやってほしいからな」
居心地悪そうな様子のピープスだったが、当然であろう。初心者同然のリンシヤを汚い手で嵌めようとして、その後俺にこてんぱんにやられているのだ。
やつからすると、あの日のことを水に流して麻雀の手ほどきをしてもらえるなんて、想定外に違いない。というより普通はこんなことしない。普通、自分たちをカモにしようとした悪党どもに塩を送るような真似なんかするはずがない。
だがまあ、それは考えようというもの。
俺にとっても、こういう小悪党を手なづけて子飼いにしておくのはそう悪い話ではないのだ。
露払いにも使えるし、人手にも使えるし、坑道のカナリアのようにも使える。
麻雀勝負で誓約した以上、向こうは俺を絶対に裏切れない。そういう人間は上手くこき使うに限る――。
「じゃあ今から、二人に何切るの問題を解いていってもらおうか。必ず自分自身で打牌理由を言語化するように」
未だに居心地悪そうにしているピープスと、「はい!」と元気な返事のリンシヤ。
教える人間が一人でも二人でも大した差はない。どうせ手間は同じである。
自分で自作した何切るを解いてもらうのは作り手の俺も楽しみなので、二人にはとことん何切るに付き合ってもらうつもりであった。
何切る問題1
二四六七①③⑥⑧114578
ドラ:2索
→打二萬
二四①③⑥⑧の
何切る問題2
一一五七九①②②⑥⑧34北北
ドラ:3索
→打⑧筒
面子手にしても遅そうで、三対子の手。七対子目を残して
何切る問題3:
五567789②②④⑥⑥⑥⑦
ドラ:⑦筒
→打五萬
打④筒が一番広い『くっ付き
- 五萬残し:四六萬、⑦⑧筒
- ④筒残し:③⑤⑦⑧筒
であり嬉しい受け入れの枚数にあまり大差なく、五萬にくっ付くとドラ⑦筒が出て行く。
くっ付き
(1)良形
(2)ドラが出ていかない
という理由から打五萬を推奨とする。
◇◇◇
「へえ……? うちのオカルトジンクスにちょっかいかけよった
夜。月の下に映える笑顔。
訛りのきつい言葉遣いと、橙色の印象的な髪型。
「どうせ王都に立ち寄る用事があるんやし、ちょっとご機嫌伺いさせてもらわなあかんなあ?」
代打ちの数は星の数だけ存在する。
その一握りの一角に、《龍使い》のロンの名前は存在する。代打ち稼業に服しているものの中で、その名を知らないものはいなかった。
だがしかし――それに匹敵する代打ちがいないわけではない。
特に――《ジンクス》のアヤと言えば、《龍使い》の好敵手とまで目される相手であった。
「弱ぁなってたら許さへんで、《龍使い》」
――――――
参考:
「牌賊!オカルティ」
オカルトシステムめちゃめちゃ大好きなんですよね()
《ジンクス》のアヤは、《龍使い》の好敵手として出していきたいです。
現在、カクヨムコンに向けて執筆頑張ってます!
面白いと感じましたら、小説フォロー・★評価をポチッとしていただけたら幸いです。
これからもよろしくお願いいたします。
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