第二章 麻雀令嬢はカモになる(あるいは押し引き・配牌構想)

第1話 麻雀の極意は押し引きにあり(残り筋と放銃率)

「……おはようございまふ」

「ん、おはよう」


 俺とリンシヤの朝はとても遅い。リンシヤはまだ庶民の使う藁布団に慣れておらず、睡眠に失敗しがちであった。対する俺はただ単に怠惰なだけ。

 寝坊助二人の遅めの朝ご飯。宿屋の人には手間をかけてばかりであった。


 元より俺は根無し草。決まった家を持たず、あちらこちらの狩り場をふらふらと渡り歩く生活をしていた俺は、いつも宿屋暮らしだった。


 そこにリンシヤが加わった。

 弟子入りさせてほしい、住み込みで頑張りたい――等と彼女に言われたときは面食らったが、まあこれぐらい緩い感じのほうが俺もかえってありがたい。朝から朝食準備してもらったり身支度整えてもらったり、なんてされたらむしろそちらのほうが落ち着かない。

 基本、怠惰な俺は、ゆるい感じでやっていきたいのだ。


 厚切りベーコンと野菜炒めをライ麦パンで挟んだ食事――サンドイッチとホットドッグの中間みたいなものを二人して齧る。

 この世界の一般的な朝食である。


「なあリンシヤ」


 朝食をもそもそ齧りながら、俺は眠そうな目のリンシヤに尋ねた。


「相手からリーチがかかっていて、両無筋の456牌が放銃率10%、15%を超えるのは残り筋本数が何本以下になってからだ?」


 しばらく沈黙が続いてリンシヤが答えた。


「……残り13本で10%、残り10本で15%ですわ」

「じゃあ28牌、生牌ションパイ役牌は?」

「28牌は……残り9本で10%、残り6本で15%で……。生牌ションパイの役牌は残り7本で10%、残り5本で15%ですわ」


 正解、と俺は短く答えた。

 残り無筋の本数と放銃率は、すべての押し引きの根幹になる。


 ※解説:

 すじとは、両面リャンメン待ちのパターンを元に「この筋が通ったということはこれは両面リャンメンでは当たらないだろう!」と判断できるペアのことを言う。

 筋は1-4-7、2-5-8、3-6-9のように3つ離れた数字のペアで、合計18本存在する。

 使い方として、例えば、

『⑤筒が通ったということは、③④や⑥⑦の両面リャンメン待ちではない! ②筒や⑧筒は両面リャンメン待ちに刺さらないから押しやすい!』

 と予想できる。

 麻雀の待ちは大半が両面リャンメン待ちなので、両面リャンメンを否定できる牌が比較的安全度が高くなる。そのため筋が通った牌のほうが、無筋よりも安全度が高くなる。




 ■残り筋本数と放銃率

 ●放縦率5%

 - 生牌ションパイ役牌:10本

 ●放縦率10%

 - 456牌:13本

 - 28牌 :9本

 - 生牌ションパイ役牌:7本

 ●放縦率15%

 - 456牌:10本

 - 28牌 :6本

 - 生牌ションパイ役牌:5本

 ●放縦率20%

 - 456牌:7本

 - 28牌 :4本

 - 生牌ションパイ役牌:4本

 ●その他補正

 - ノーチャンス牌:放縦率ほぼ5%以下

 - 筋28牌   :放縦率6%以下、もろ引っかけで12%以下

 - 19牌    :28牌 - 1%程度

 - 37牌    :28牌 + 1%程度

 - ワンチャンス牌:-3%

 - 序盤の外側牌 :-5%

 - ドラ     :+2%

 - 暗刻筋    :+2%




 特に大事になるのが10%ラインと15%ライン。

 これが一向聴の押し引きに特にダイレクトに効いてくるのだ。


 満貫の両面+両面の一向聴イーシャンテンや5200の両面+両面の一向聴イーシャンテン、5200の両面+両嵌の一向聴イーシャンテン、それぞれ大体どの程度押せるかというと、




 ■巡目別 一向聴イーシャンテンの放銃率と押し引きボーダー(vs子)

 ・満貫の両面+両面一向聴イーシャンテン

  9巡目で放銃率18%、14巡目で放銃率10%

 ・5200の両面+両面一向聴イーシャンテン

  5巡目で15%、9巡目で放銃率13%、14巡目で放銃率8%

 ・5200の両面+両嵌一向聴イーシャンテン

  5巡目で10%、9巡目で放銃率8%、14巡目で放銃率6%


 ■巡目別 一向聴イーシャンテンの放銃率と押し引きボーダー(vs親)

 ・満貫の両面+両面一向聴イーシャンテン

  5巡目で15%、9巡目で放銃率13%、14巡目で放銃率5%

 ・5200の両面+両面一向聴イーシャンテン

  5巡目で10%、9巡目で放銃率8%、14巡目で放銃率4%

 ・5200の両面+両嵌一向聴イーシャンテン

  5巡目で7%、9巡目で放銃率5%、14巡目で放銃率3%




 ぐらいがボーダーラインとなってくる。


 こんなの実戦でいちいち数えてられるか! ……となるかもしれないが、俺はこんなのを実戦でいちいち数えている。

 これが出来ないなら、いっそ守備寄りに考えて、


『一向聴ならオリ、聴牌なら勝負』


 ……ぐらいに覚えてもいいかもしれない。

 一方で俺はこうも思う、シャンテン押しの中に麻雀の押し引きの極意があると。


 麻雀で勝っているやつは、先制リーチにただベタオリしてるだけではなく、シャンテン押しで追いついて勝負してるのだ。


 それはもちろん、無謀な押しをしているという意味ではない。

 シャンテン押しが得か損か、それを期待値的に得だからそのように打っている――というところが肝要なのである。


(今のリンシヤは、愚直に筋を数えて、牌の危険度を暗記するだけで十分に強くなる……)


 押し引きの根幹は期待値。

 期待値の算出には、今切る牌の危険度の計算が欠かせない。


 残り筋の本数を数えて、押す牌の危険度を算出して、そして押しかオリを判断する。それを機械的にやるだけでも、この世界でトップクラスに立てる。


(そりゃそうさ。この世界で、麻雀の統計データなんか持っているやつはいないからな。みんなして押し引きの基準が適当なんだよな)


 だから、大体の奴は勘かセンスで麻雀をやっている。

 それは統計学の観点で言えば、非合理的な選択。

 それを遠慮なく叩くのだ。


「なあリンシヤ。麻雀は、一向聴イーシャンテンがとても大事なんだ」


 俺は朝食を全部ぺろりと平らげて、改めてリンシヤに向き直った。


一向聴イーシャンテンで押すかオリるか。いい一向聴イーシャンテンと悪い一向聴イーシャンテン一向聴イーシャンテンで鳴くか鳴かないか。一向聴イーシャンテンに強くなれば、麻雀のほとんどに強くなるといって過言ではない」


 リンシヤは、まだうっすら眠そうな目で、分かったような分からないような口調で「……はい」というぼんやりした返事をしていた。多分、分かっていないだろう。だがそれでいい。


 今は暗記するだけで全然いいのだ。

 身に染みて実感するようになるのはうんと先でいいから、今はとにかく基準を丸覚えして『これって危険なんだ』『これは意外といけるんだ』という肌感覚を培っていくことが大事であった。




 ――――――

 引用:

「うに丸式 セオリーで勝つ麻雀」

「『統計学』のマージャン戦術」

「新 科学する麻雀」


 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 とうとう始まりました第二章です!


 不穏な章タイトルではありますが……まあ主人公がリンシヤを餌にして、悪い連中を引き寄せようとしてますからね(ほんとクソ野郎)


 無力な市民を守るため、悪人を成敗する――という感じではなく、『悪い奴は俺にとってはカモだから食い殺す』みたいな主人公で書いていきたいです。

 あとはリンシヤ。

 筆者は、悪い男にほだされる育ちのいい女の子が好きなので、多分この先苦労するでしょう()

 そんなリンシヤちゃんも、徐々に成長していくような描写ができたらいいなと思っています。



 現在、カクヨムコンに向けて執筆頑張ってます!

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