第5話 初バトル!異能力者との闘い(中編)
東一局目、東発親のピープスが早速異能力を発動して王牌の裏ドラ確認から始まったこの局目。
リンシヤ嬢の配牌は『まあ悪くない』というものであった。
(今回カギとなるのは、相手が供託を払ってまでわざわざ裏ドラを確認してきたということ。それはつまり、相手の手が早くて、かつ小~中打点程度という予想が立てられる)
俺の読みが正しければ、ピープスの手はそれなりに早いはずである。
何故ならリーチを打てない手ならば裏ドラを確認する意味がないのだ。供託を支払うというリスクがある以上、リーチはできるはずなのだ。
鳴ける手か鳴けない手かは分からない。鳴ける手でも裏ドラ次第では『それが裏に乗るのなら面前で行こう』と鳴かないでリーチを目指す可能性があるからだ。
それよりも可能性として高いのは、打点が2000点~3900点程度の中打点程度ということが考えられる。
そもそもドラがいっぱい固まった手ならば、裏ドラを気にしなくても、とにかくまっすぐ行けばいいだけの話であり、鳴き寄りに構えることが多くなる。
逆に1000点の手ならば裏を乗せてもせいぜい2000点。
打点向上効果を考えたときは、リーチドラ1、リーチ
こういった情報から総合すると、ピープスの手は『速くて中打点程度』という予想が立てられるのだ。
(速さ勝負に持ち込むか、この勝負は
東一局0本場 西家 1巡目 ドラ: 北
二四①③④⑤⑧11356發北
早速捌き方に悩む配牌が来る。
真っ直ぐ行くなら發切り、だが役牌ポンしてドラ単騎もある。1面子出来てて残りのターツもそう悪くない形なので、さすがに普通の面子手を見たいところだが――。
リンシヤは打①筒。
(……うん、まあ悪くない。俺は打發か打⑧筒※だけどね)
※微差で①筒より⑧筒の方が弱い
①③④⑤:②筒で
③④⑤⑧:⑦筒で
→
このように①③④⑤や5679のような
この打①筒も悪くない。
むしろ浮いている3索を切る可能性があったので冷や冷やしたが、この場合3索は11の対子にくっ付いても56の
東一局0本場 西家 3巡目 ドラ: 北
二四③④⑤⑧11356發北 ツモ六
リンシヤは打發。これは俺も同じである。リャンカンが出来て面子候補に弱い場所があまりない。⑧筒はくっつき期待でもう少しだけ残しておきたい。
發にこだわると⑧筒を打ちたくなるが、⑧筒を残せば嬉しいツモが⑥⑦⑧の三種類、發を残せば嬉しいツモが發のみ、と段違いである。
(あとは、ドラの切り時だけが難しいな……ドラ単騎リーチでもいいし、重なれば嬉しいし)
こういうとき、基本的には、全麻雀牌の136枚のうち残り枚数が何枚山にいそうかで考える。
配牌で52枚、3巡目でもう60枚近くが消費されており、ドラの北は平均1.6枚(自分含め)誰かの手に渡っており、残り山に2.4枚程度……という想定ができる。
残り2.4枚の北を引く確率は3%程度。その3%にどこまで手を狭める価値があるか。
(黙聴に取りにくいオタ風牌だし、変則的な河のやつもいない。こういうドラは、聴牌率が高くなる7巡目までは普通に引っ張れる……)
しかし、七巡目に親のピープスから早めのリーチが入った。
「……へっ、リーチだぜお嬢ちゃん」
9白②五⑤西 リーチ七
七萬切りリーチ。親からの先制リーチは嫌なものがある。これをツモられたら早速ピープスに走られることになってしまう。
だがこれは分かりやすい部類のリーチでもある。
(六九萬以外は勝負しやすい河だな※)
※解説:五萬切ってるのに七萬最後まで引っ張ってるのが変で、七萬関連待ちの可能性を高めている。
あれからリンシヤの手牌はドラを重ねて
四五六③④⑤11356北北
の平和ドラドラの
――次巡目、ツモは待望の4索。
四五六③④⑤11356北北 ツモ4
(6索切ってリーチだろう※)
※解説:3索切ってリーチではなく6索なのは、3索は
俺は6索切りで追いかける場面だが、リンシヤはしばし逡巡して⑤筒を切った。
要はオリたのだ。
(うーん……まあいいか。まだ比較的浅い巡目で降りきるのも難しいと思うが……)
まあ及第点とも言える。勝てないと思ったらオリ。シンプルでいいと思う。親相手なので、変な粘り腰を出すよりそれぐらいきっぱりメリハリつけたほうが成績も安定しやすいものだ。
オリるなら、次は五萬、1索対子落とし、ぐらいだろうか。相手の早めの9索切りを読むなら、相手の手牌に6索ぐらいはありそうなので6索切りもある※。
※解説:69と持ってたら孤立牌の9索はほとんど要らない子なので字牌より先に切られがちである。
数巡後、親のピープスがツモ。
予想通り六九萬待ちの聴牌形であった。
相手の河:
9白②五⑤西 リーチ七 ⑥1
相手の牌姿:
456⑤⑥⑦二二七八南南南
「リーチ、ツモ、裏1で2000オールだ」
出端はピープスの和了。特筆すべきことはない。
強いて言えば、結果論だがあの1索は討ち取れた1索である。悔いの残る一局であろう。
これでリンシヤの勝ちは苦しくなった。
(まあ、真っすぐ行って負ける経験も大事だ……)
「ロン、1300は1600!」
「ツモ、500・1000!」
「ロン、2600!」
そのまま局は進み、南場へと入る。点数状況は苦しいまま。
ピープス:33600
モブ① :19600
モブ② :25200
リンシヤ:21600
リンシヤの親番は流れてしまい、もはやピープスとは跳満の差がついている。
跳満ツモ条件か、6400直撃条件。
リンシヤの手牌は、さほど良くなかった。
南四局0本場 北家 1巡目 ドラ: 9
三①③③⑨3599南北發中
(……チャンタ系か染め手か? 役役ドラドラが一番お手軽だが、二枚切れの北は切りたい)
せっかくのドラドラ手だが牌姿が悪すぎる。南北發中全部重なりが嬉しく、最悪でも役ドラドラで3900で浮きに回れるのが偉い。
なので役牌は二枚切れになるまでは残したい。
リンシヤの選択もここは北。これは偉い、と俺は思った。
南四局0本場 北家 4巡目 ドラ: 9
三①③③⑦⑨⑨3599發中 ツモ二
今度はうって変わって両面が出来て牌姿が引き締まる。
ドラドラあるのでリーチ手順の發中切りが偉い。だがリンシヤはここで5索に手をかけた。
(ほう、5索か……これは鳴き手順というか、手役手順だな)
5索はかなりありそうである。七対子を見ながら鳴きも見る、役牌も追いかける、という利点がある。
うまぶりっぽい手順だが、ツモ12索がかなり嬉しいのでこれは“有り”だろう。
南四局0本場 北家 7巡目 ドラ: 9
二三①③③⑦⑨⑨399發中
放たれる9索。
咄嗟に俺は(ポンだ)と思った。リンシヤもポン。こういう仕掛けはうまいと思う。
本人が気付いているのかどうかはわからないが。
その後のリンシヤの打③筒は少し評価が分かれる。対々和の目を残すなら打3索だと思う。123の三色狙いは崩れやすい他、既に5索切ってるので發中重なっても
南四局0本場 北家 11巡目 ドラ: 9
二三①③⑦⑨⑨3發中 999 ツモ⑧
字牌を重ねないまま、頭のなくなるツモ⑧筒。もうこれは形式聴牌で十分な状況である。
3索が通るなら3索だが、發中切りでもいい。
リンシヤは強気に3索を切った。三色を見切ったのは偉い。⑦⑧⑨と999で二個面子が出来てる以上、三色にはならないからだ。
南四局0本場 北家 14巡目 ドラ: 9
二三①③⑦⑧⑨⑨發中 999 ツモ②
(……見えてきた、チャンタドラ3の逆転手)
發は2枚切れ、中は1枚切れ、⑨筒は1枚切れ。ここは發を切って、純チャン目も残すのがいい。
リンシヤも同じで、手に發をかけた。
だがしかし――。
「ロン、七対子、赤1。3200だな」
ピープスが。
その發を待っていた。
ピープスの手牌:
八八④④⑤r⑤2266東東發
「チャンタ風のドラ仕掛け相手に字牌なんておいそれと切れねえよな? 残り役牌を読んだら、こいつで待ってたら、余らせたお前が切ってくれると踏んだのさ」
へらへらと笑うピープスだったが、その二巡前の生牌の中切りがおかしい。その理屈なら、中切れず中待ちにするはずなのだ。それをピープスが切った。何かが歪んでいる。
そもそも手出しツモ切りをよく見ると、他のやつが出した發でロンしてないことになる。山越しでリンシヤを狙ったのだ。
つまりこの發は――狙われた發。
恐らく中も、他のやつが中バックか何かで黙聴を入れてるだろう。
ピープス:33600→36800
モブ① :19600
モブ② :25200
リンシヤ:21600→18400
「なあお嬢ちゃん、これで△41だぜ? 銀貨二百枚、きちんと用意できるんだろうな?」
(……そりゃそうか。ウマオカの順位点があるから、三位の△18よりこっちのほうが美味しいのか)
リンシヤは押し黙っていた。もう少しで手の届きそうだったトップ。それが一転してラスに転落である。相当身に応えただろう。
勝負を終えて、ピープスの取り巻きは「大したことなかったな」とケラケラと笑っていた。
(大したことないなんてそんなことなかったぞ、リンシヤ。立派な半荘だったさ)
特に最後の手作りは見事であった。
リンシヤの頬は、悔しさからなのか、僅かに紅潮していた。
だが彼女は、それを態度には出さなかった。負けを認めて噛み締めているのだ。
だがしかし――。
「はは、俺たちのモノをしゃぶってくれるんなら、銀貨五枚は負けてやるよ」
その戯言は、流石に度を越している。
腹立たしいこと極まりない。
品のない冗談でげらげらと笑っている連中を相手に、俺は思わず口を出した。
「しゃぶれるほどデカくないくせによく言うぜ。ほら、リンシヤ、帰るぞ」
「……あ?」
うつむいたままのリンシヤを立たせつつ、俺はあえて挑発的な言葉を選んだ。相手の空気が剣呑になったのを肌で感じ取る。
だがそれが狙い。
俺はさらに言葉をつづけた。
「《少しめ》のピープス君だっけ? いや、《少なめ》のピープス君か? しょぼそうな名前だなと思っただけさ」
「……おい、座れや」
声が一層低くなる。取り巻きの連中も急に態度をがらりと変える。
だが俺はそんなことなどどこ吹く風とばかりに、銀貨二百枚≒金貨二枚を準備し始める。払うものを払って終わりにしよう――という演技だ。
「じゃあ、予告通り帰るよ。一回り大きな人間になれよ、《少し目》くん」
「てめえ喧嘩売っといて、しっぽ撒いて逃げるつもりかよ。あ?」
少し教育が必要だな、とか。
社会を舐めてるなら教えてやるぞ、とか。
そんな物騒な言葉がちらほらと聞こえる。
だがそんなのはどうでもいい。この世界では暴力を禁止されてるのだから、こいつらが何をどうすることはできないのだ。
「おい兄ちゃん、座れっつたろ。雀士に
「……またあのせこいやり方でレートを変えるんだろ? ならごめんだね。俺はね、せいぜい千点で銀貨10枚がギリギリなんだ。それも一回きりだけだ」
「それで構わねえから、卓に着け」
ピープスの表情は、まさに憎悪の一言に尽きた。
どす黒くなった表情からは、殺意が漂っている。
「この《透かし見》のピープスを舐めたら、どんな目に遭うか教えてやらなきゃなんねえ。二つ名背負ってる代打ちに喧嘩売るってことは……分かってんだろうな?」
「どうなるのか教えてくれよ。俺のものでもしゃぶってくれるのか?」
「……殺す」
乱暴に混ぜられ始めた牌たち。
そしておそらく――《透かし見》は今度こそ、本気で俺を狙ってくるであろう。
相手は知る由もないだろうが。
言ってしまえばこれは《龍使い》と《透かし見》の勝負。
二つ名持ち同士の真剣勝負が、今まさに始まろうとしていた。
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