第3話 牌効率を鍛えるには平面何切る100問!
「牌効率……?」
「ああ、俺はそう呼んでる。牌効率は、手役を効率よく追いかけるための牌の取捨選択の考え方だな」
明くる日、俺はリンシヤに牌効率について説明した。
驚くべきことだが、この異世界ア・カドラでは、『牌効率』という概念が世間一般に浸透していない。
麻雀ですべてを決める世界だからこそ、もっと麻雀の研究が盛んなのかと思われたが、そうではないらしい。
(そりゃそうか、ここは麻雀で全てが決まる世界だ。麻雀で強くなる方法を見つけたら、外には出さずに自分だけの秘密にするもんな)
もちろん熱心に麻雀研究を行っている機関はいくつかある。だが研究結果は部外秘。
国王や大貴族をはじめとする裕福な権力者が、自らの一族の繁栄のために麻雀研究をさせたりすることは偶にあるらしいが、それでも市井にその情報が落ちてくることはないわけで。
麻雀がすべてを決める世界であるのに、麻雀理論の発展が著しく遅れているのは、そういった理由があるのだ。
「で、その牌効率というものを私に教えてくださるのかしら?」
「もちろん教えるよ。でも牌効率はそんな簡単に教えられるものじゃなくて結構時間がかかるから、覚悟しておくように」
でしょうね、とばかりにリンシヤは苦笑した。
曰く、「あの《龍使い》の麻雀戦術の根幹ですもの、きっととんでもなく難しいものなのでしょうね」となんだか大仰な言い方をしていたが、まあこの世界に当てはめるとそういうものなのだろう。
武道で例えると、門外不出の武芸。
囲碁や将棋で例えると、戦術論や定石集。
この世界において雀力を鍛えるコツというものは、差し詰めそういった奥義に近いものなのだ。
牌効率。
ただ効率よく打つだけの考え方なのだが。
(まあいいさ、奥義だろうが何だろうが全部教えるさ。あの日以来、俺はただ純粋に、この子を強くしてみたいって思っただけなんだ)
それが奥義であれ何であれ問題はない。世間一般に漏れてしまったところで、俺は痛くもかゆくもない。むしろ世間全体の麻雀のレベルが上がるのは良いことだとさえ思っている。
だから、リンシヤを鍛え上げて強くするのに、何ら抵抗はなかった。
牌効率を鍛えるにはどうすればいいか。
答えは簡単――俺は自作した何切る問題をリンシヤに教えることにした。
問題1:
三三四七八九⑤⑤⑥12334
→打⑥筒
頭固定して完全
打⑥筒>打四萬なのは安全度の差と両面の強さの比較。
問題2:
二三四①③④⑤⑦113789
→打①筒
よく見るとくっ付き
孤立牌①筒、⑦筒、3索の比較でくっ付きの弱い①筒を払いたい。
問題3:
二三四四六七七①②③4677
→打4索
完成した面子を抜き出して考えると、残された部分の四六七七萬と4677索の部分、特に四萬と4索の比較になる。
四萬の方をちょっと残したい理由としては、一萬ツモのときも雀頭ができるので、完全
(一二三四四六七七①②③677 → 打七萬か打7索)
問題4:
二三三③④⑤⑥⑧223789
→打三萬
最も受けが広いのは二萬切りか3索切り(5種16枚)。
しかし打三萬や打2索で頭候補を切って構えると、②~⑧の筒子引きで絶対に
愚形含みの③④⑤⑥⑧部分がツモ③⑥⑧筒で頭を作りやすいのと、裏目のツモ4索でも打⑧筒で二三③④⑤⑥2234789とより広い
打三萬>打2索なのは安全度の差。
※打⑧筒の
問題5:
二三七七七①①4467889
→打8索
4467889の部分をほぐす問題。ちょっと形に慣れてくると
4468+789
の複合形だと気付いて打4索と打8索の比較だと分かる。
7索を自分で一枚使っているのと、どうせ
3索を引いたときの両面変化も完全
(打4索だと3467889、打8索だと3446789)
問題6:
四五112346688①②③
→打6索
ぱっと見ほぐしたいのは6688の部分。打6索とすれば、5索ツモのときも聴牌になる(打8索は隣の9索をツモっても何もならない)
これは愚形絡みの6索のフォロー形が
(1)11688 (※1索ツモっても8索ツモっても聴牌)
(2)112346 (※1索ツモっても5索ツモっても聴牌)
の2種類あり、6索の縦受けをなくしてもフォロー受けですぐに面子化できるため。
※1索対子をほぐす
……………………。
…………。
「か、完全、
問題をざっと眺めて頭が疑問符でいっぱいになっている様子のリンシヤを見て、俺ははっとした。なるべく初心者~中級者向けの問題を選んだつもりだったが、どうも俺が思っている以上に難しめのものを選んでしまっているようであった。
(あ、そうか。初心者だから完全
実はこの
今は感覚的に、なんとなくの範囲で麻雀の正着打を学んでいくのがいい。
「なあ、リンシヤ。麻雀が上手くなるコツは模倣だ」
あまり良くないとは思いつつ、俺はリンシヤ嬢に言い聞かせるように語った。
「上手い人の打ち筋を後ろで見て、なんでそうなんだろうなと思いながら、少しずつ記憶を蓄積していくんだ。何切る問題は、上手い先人たちが残した打ち筋の定跡だと思って欲しい」
「……なるほど、分かりましたわ」
例えば、囲碁の定石や将棋の定跡は、何度も何度も指しているうちに身体が自然と覚えたりするものだ。麻雀の何切るも同じようなもの。詰碁や詰将棋、あるいは序盤の定石・定跡のように、特定の局面になったときの部分的な思考能力を高める一種の教本である。
部分的最適解ではなく、全体の状況を考慮して解答を求めるなら、当然、棋譜・牌譜が必要になる。だがそれは教本を疎かにする理由にはならない。
センスを磨くということは、つまりセンスのいい人の打ち筋を蓄積するということ。
そして何切るの問題は、センスを磨くための基礎になる。
打点を作るときの考え方の引き出し。
難しい
それらを愚直に積み上げた先に、安定した勝利があるのだ。
(チート能力を授からなかったからといって、腐ってほしくはないな。麻雀をまっすぐ打ってほしい。リンシヤには
初心者には少々歯ごたえのある何切る問題集を目の当たりにして固まっている彼女を見ながら、俺はひっそりとほほ笑んだ。
(俺みたいな――積み込みやすり替えのイカサマで、チート連中を返り討ちにするような異能殺しの裏雀士は、二人も要らないからな)
白状すると、この時の俺は、『どこぞの令嬢が大衆酒場で麻雀を打ってる』という噂を大して気にも留めていなかった。
カモを見つけたと思って舌なめずりしている連中が、まさか大衆酒場に乗り込んでくるなどとは思ってさえいなかった。
――――――
次回、初心者のリンシヤ嬢を狙うやつが現れて……!?
※主人公無双パートはその少し後です
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