第9話 初めてのミッション

東口の門は俺が最初に通った門なので 覚えているが


3人で転移できる手ごろな場所は 覚えていない。


最初に合ったゴーシュさんと歩いていた道すがらを思い出す。


思い出した場所に 転移で移動しよう。


2人が俺に抱き着くと 転移! 東門へ向かう道に転移した。


「東門からの方向が違うわね でもここなら 湖への道に転移で進んでいけるわね。」


リコは俺の考えをわかっていたようで地図を広げる。


地図で現在地を俺に教え 地形と合わせて 次の転移方向を指さす。


有能なナビゲーターだな。



リコに指す方角に平らな草地が見えたので 見える範囲で


最大限の距離を転移する。 次に見える進行方向の転移位置を決めると


すぐに転移する。 2人は1回ごとに抱き着いてくるが 俺は何も言わない


抱き着かなくても転移できるが 絶対言わない。


森や林に阻まれ 転移の着地場所が見えない場合は 


進行方向からそれていても 小高い丘など高台に転移して着地地点を探す 


一回の転移で 数km移動しているので あっという間に


タンガリー湖のほとりが見えてきた! 転移!



「わぁ もう着いちゃいましたね!」 リンが驚いて言う。


湖のほとりを見渡し ジュラバ草を探す 。


見当たらないので 200mくらい転移する 極力歩かない・・


歩きたくないわけでなく 転移が面白いのだ。


何度か繰り返していると、湿地帯のように水辺まで草が生えているところがある。


あそこら辺は?リコが指さしたあたりに移動すると ありました!


依頼書通りのジュラバ草が 3~4束生えている。



広い範囲を見渡すと 20mくらい離れたところに密生している。


あった!! 早速、鎌2本を出し リコはナイフで大丈夫と言って


まず足元の3束を刈り取る さすがに20mは徒歩で移動し


みんなで狩り始める とりあえず一人17束刈り取ろう


刈ってみると意外と刈りずらい リコとリンは戸惑い無く サクサク刈っている


俺だけ後れを取っている・・



リンが俺に 「あっちのほうにゴブリンがいます。」 と伝えた。


そちらを見ると米粒ぐらいの何かが動いている。


「リンはすごく目がいいのよ。」 リコが言う


そう言えば 山の山頂に転移させた岩が見えたって言ってたっけ


ゴブリンについて考えていると 不意に疑念が浮かんだ。


ゴブリンやオークが 矢を射ってくることは無いのかな? 2人に聞く。


遠方から狙われていたら 転移も間に合わない。


なぜ、この脅威に思いが至らなかったんだろう いまさらながら焦る・・



リコが冷静に説明する。


「大丈夫よ 矢は消耗品だから。」 ゴブリンやオークの知能では


矢の本体や 先端の矢じりは作れない。弓の調整もできないので。


ゴブリンやオークでは 扱えないとのことだ。 よかった。


「リコはいろいろ詳しいな。」 と聞くと


孤児の男の子はみな 冒険者にあこがれるので いままでに


いろいろな話を 聞かされたらしい。



孤児は まともな賃金で働けないので 差別のない冒険者が好まれる。


11~15歳くらいの子で魔物狩りに行く子も多いらしい。


ただ 狩りをして 怪我をしても 骨折しても 治療が受けられない。


それがもとで動けなくなったり 死んでしまう子もいるらしい。


「とにかく悲惨なのよ 孤児は。」 リコが嘆く。


色々わかった。



「とりあえずあのゴブリンを 近くまで引き寄せてみるよ。」 と伝える


俺はゴブリンを見たことがないのだ。


「リン 何匹くらいいるかわかる?」 と聞くと  「3匹です。」


30mくらい離れた場所に 3匹を転移させた。


3匹は 訳が分からず動揺している。


近くで見ると顔が怖い 顔のしわが深く目がぎらついている


口がでかく 中途半端にとがった歯が不揃いで 嫌悪感がすごい。



すぐに武器を取り上げ 見える範囲の 最大限遠方の山のふもとに転移させる。


残った武器は 剣・木で作った手斧・こん棒が 1本づつ 剣だけ家の納屋に転移させた。


さて 残りのジュラバ草を刈り取ろうかと 作業に戻る。


草を刈っていると 湖の半ばで魚が跳ねた。 つい転移してしまうと


俺の脇で 魚がビチビチ大きく跳ねる  跳ねているときは50cmくらいかと思ったが


近くで見ると 120cmくらいある。



尾ではたかれると 痛そうなので 慌てて離れる。


リンが 「わぁ 赤龍魚ですね 食べるとおいしいですよ。」 と言う


ちょっと考え 湖から少し離れたところに 2.5m立法の穴を作る


転移で 土を切り取ったのだ 同じ要領で 湖の水を2.5m四方でイメージして


転移させてみる。 ザバッと水があふれる 「何でもできるもんですね。」


赤龍魚をいけすに入れる。


リコがあきれたような顔をして 「べんりね~~」 と言う


後で持って帰ろう。



草刈りの作業に戻る もう少しで50束揃うかなと 腰をたたいていると


後ろの茂みから ガサガサ、ベキ!ボキ!と枝の折れる音がした


見るとオークが 全力で走ってくる 明らかに俺たちを狙っている。


結構 足が速い! 2足歩行の豚なのだが背丈は 2m近い。



先に武器の斧を 転移で取り上げると いきなり無手になり戸惑っているが


気を取り直し コブシを握り締め全力疾走してくる。


絶対勝てないので あらかじめ想定しておいた岩場の上空 30mくらいに


転移させる ビルの10階くらいの高さだ。


転移したオークは空中を2~3歩走り 場所に気が付いたのか


バタバタしている そのまま地上に墜落した。



即死である 多分、 ピクリとも動かない。


オークを倒した! ん~なんだかな~


「オークを倒した・・」  リコにそっと言ってみる。


「そうね。」 平板な声で返事をする。 なんか達成感がまるで無い。



血抜きをしたほうがいいので リコの指示で首の付け根とわきの下の動脈を切る。


新品の短剣だが 力加減がわからないので 薄く切って なぞるように深く切った


があまり血が出ないので えぐるようにもう一度切ると 血が流れだした。



しばらくほおっておき 残りの薬草を採取する。


50本以上は取れたので リックにしまって終了だ。


薬草採取のクエストクリア!


リンがお弁当を作ってくれていたので オークを生簀の脇に移動させ


直接見えないが 魔物が来たら わかる場所に座り 


お弁当を広げた。 パンに肉と野菜を挟んだサンドイッチだ。 


すごくおいしい。



リコが 「朝もスープを食べたのに お昼も食事ができるなんて幸せ。」と言った。


リンもうなずき 「幸せですね。」 とにっこり微笑む。


お昼ご飯を食べながら湖を眺める。 確かに幸せだ。


キラキラした湖面を眺めていると魚が跳ねた。 生簀に移動した。


パンを食べたら リンがリンゴを剥いてくれた。


さすが選んだナイフだ 剥きやすそうだ。


満腹になり食休みを取り 1回家の戻ろうと2人に伝える。




3人とオークの死体で 家まで転移した。


家の周辺の敷地を見渡し 端のほうにさっきと同じ大きさの生簀を掘る。


湖の生簀をイメージして 水と魚ごと四角く切り取り 転移させる。


おおっ!遠方のものをこちらに転移させることも問題ないようだ。




後は採取した薬草とオークをギルドに収めれば終了だ。


3人でもう一度ギルドに向う準備をする。


街中では転移で運べないので オークを荷車に乗せる。


オークが大きいので寝かせられず 座ったような姿勢になる。


ゴブリンから奪った剣とオークの斧も荷台に乗せる。



オークの斧は持ち手まで金属で 少し輝いている。


オークが体重120~140kgくらいで 武器2つで10kgぐらいか


街の中は自分たちで 押して運ぶしかないので 3人で押してみる。


リコとリンが前の持ち手を引っ張り 俺が後ろを押す。


楽ではないが 運べないことはない。 よしギルドに行こう!



まだ、お昼過ぎで 人も出歩いているが 西門の前なら大丈夫だろう。


念のため 西門の20mくらい横に転移する。


見渡すと遠くに農作業の人がいるが まじかに人はいない。


門番も昼間はいない。 多分、街道と逆側なので近所の農家の出入り


ぐらいしかないのだろう。



3人で荷車を押してギルドを目指す。


通り過ぎる人が キャァと言った。 オークに驚いたのだろう。


オークを見ると切り傷もあまりなく 血抜きの後も土埃がついてあまり目立たない


座っている姿勢のため 荷車の揺れに合わせて揺れている。


うつらうつらと 眠っているようだ。



人通りの多いところもあり みんなが見ている。 子供たちも寄ってくる。


すれ違い人の何人かが キャァと悲鳴を上げるため 俺は 死んでますと


言い訳する。 オークはゆらゆら揺れている。


見世物になっていることに気が付き リンとリコは足を速める


ギルドに着くと中から見えない位置に荷車を止め 一旦休む。 


3人とも汗だくだ。 



ブルーシートみたいな大きな布が必要だ。帰りに買っていこう。


ギルドに入り 受付のお姉さんに 薬草と依頼書を渡すと


お姉さんが驚く。「早いですね 朝の依頼ですよね? まだ昼過ぎですよ!」


「はい、途中で倒したオークがいまして 買取をお願いします。」



入り口のほうを指さすと お姉さんは俺たち3人を見て


眉をひそめ 入り口に向う。


荷台の周りに人が集まり オークはこちらを向き 疲れたように座っている。


「建物の裏手に搬入口があります。 そちらから入れてください。」


と裏手で 誘導してくれるお姉さんに 荷台の剣と斧の買取もお願いする。



「解体に40分くらいかかります。お待ちになりますか?」


とお姉さんが言う。 後日来てもいいらしい。


荷車を押すのに 全力だった俺たちは 休んで待つことにした。


俺たちはぐったりして 開いている席に腰を下ろす。


傍を通った ウェイトレスさんに お茶を3つ頼む 冷たい飲み物はない


冷蔵庫が無いため 冷たい飲み物が無いのだ。



待っていると 隣の席のおじいさんが話しかけてきた。


「今朝は楽しかったぞ リゲルドを懲らしめてくれたな。」と言う。


朝、絡まれた 冒険者グループの事だ。 おじいさんは続けて


「奴らBランク冒険者で 強いのだが中身はただの無法者だ いい気味だ。」


と言うので 俺は


「ははは、今朝のことですか。まいりました。」 と照れてごまかす。




受付から呼び声がかかり カウンターに向う


アデルさんの買取金額は 銀貨4枚 銅貨19枚になります。


明細が渡される


薬草採取  銅貨5枚


オーク 銀貨2枚 銅貨4枚


手斧  銀貨2枚 


剣  銅貨10枚


合計 銀貨 4枚 銅貨 19枚


現金を受け取る。前世に換算すると 99000円か。 




「ちなみに 手を広げてこのぐらいの赤龍魚って買い取れますか?」


カウンターで聞いてみる。


「はい 多分 銅貨10~12枚くらいになりますね。」 と言う。


10000円くらいか? 


異世界にしては 夢が無いな。


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