第7話 我々は冒険者です。

リンに聞くと あとは小麦粉・油・調味料・食器などが必要とのこと


重たくなりそうなので 先に商人ギルドに行く。


受付に行くと 3カ所あり 1つの窓口に 昨日のおばさんがいた


お礼を言おうと そちらの受付に行くと 「昨日はご無事でしたかアデルさん?」


と問いかけてくれる。


「はい、大丈夫でした ありがとうございました。」と答えると


「まあ、追っていこうとする者がいたら私が止めていましたけれども・・・」


ちぇっ、全力で走りましたが そうでしたか 警告でしたか。


注意喚起していただき ありがとうとお礼を言う。


「私の名前は シャーリーです 今後ともよろしくお願いします。」


シャーリーさんは自己紹介した。


今日はお金を預けたいんですがと伝え 周囲から見えないように


大金貨2枚をカウンターに置いた


慎重な俺に よくできましたといわんばかりにうなずき


大した驚きもなく 預かり書を作り 渡してくれた。




手早く終わり出ようとしたところで 冒険者ギルドの依頼の掲示板が目に入った 


あぁ 異世界転生といったらこれだよな~。


眺めてみると 護衛の依頼が多く あとは農地周辺や採掘現場周辺の魔物や害獣の駆除。


小さく3枚だけ 薬草採取の依頼書があった 報酬は銅貨5枚だ。


う~ん悩む 転移能力を見せて建築現場や採掘現場などで働けば


普通以上に稼げるのかもしれないが 出勤したくない。


王様や領主に雇われても 出勤したくない。


聞いてみるか? また受付のシャーリーさんのところに行き


「冒険者の依頼を受けるには 冒険者登録が必要でしょうか?」 聞いてみる。


「はい、登録がなければ報酬は受け取れません。」と言う。


俺が冒険者になろうとするのを危惧するようにシャーリーさんが言う。


「よろしければ手短にご説明いたしますが・・」


「お願いします。」 俺は頼む。


では、こちらの席にどうぞと カウンター前のテーブル席を指さす。




リンと俺が席に着くと


「アデルさん 失礼ですが護衛するよりはされる側にお見受けしましたので


念のため ご説明させていただきます。」 


リンが笑いそうになり 堪えているのがわかる。


そりゃあまあ 全速力で走って帰っていった商人ですから


「まず、冒険者の登録料は商人と同じく 銀貨1枚です。


登録しますとランクの制限がない限り どの依頼も受けられます。」 と説明する。


「ランクがあるんですね?」 俺が尋ねると シャーリーさんは


「はい。主に護衛依頼の時に 依頼主が選ぶ目安になります。


報酬もランクにより 相場がかわります。


あとパーティ登録は無料です。 パーティメンバーをご登録ください。


人数制限などもございませんが 無登録の冒険者は入れられません。


護衛の依頼の指名は 基本的にはパーティ宛てにされます。」


なるほど 大体予想通りかな ラノベの知識ですけど・・




「薬草採取の途中で魔物を倒した場合は 魔物を買い取ってもらえますか?」


俺が聞くと シャーリーさんのこめかみがピクッとなったが


「魔物を狩った場合は 商人ギルドで肉と毛皮を買い取ります。


ただしゴブリンやオオナメクジや蜘蛛類の魔物は 買取できません


肉や素材がありませんので。」 複雑そうな顔をして言う。


魔石の換金とかも無さそうだ 魔石などはないのだろう


「やっぱりゴブリンがいるんですね~」俺が聞くと


「もっとも一般的な魔物です。というかどこの国にもいるのではないでしょうか?」


きっちり返答された。


「ははは そうですよね~」 俺がごまかすと シャーリーさんは


「特にポラーネ領のようなダンジョンのある領地では 多くいます。」と説明する。


「えぇっ! ダンジョンがあるんですか?」 ダンジョンてあるの?


シャーリーさんは眉をひそめた。


「この領地にダンジョンがあることは非常に有名な話ですが・・」


シャーリーさんは 続けて




「アデルさんがどこのご出身か想像がつきませんが


一応、ダンジョンの説明をいたしますと、


世界では 現在35カ所のダンジョンが確認されています。


魔物のほとんどはダンジョンから出現します。


ですので ダンジョンに近づくほど 魔物が多くなります。


魔族領土に近いほど ダンジョンが密集しており


魔族領土内には かなりの数のダンジョンがあるのではないかと言われています。」


はぁっ、魔族の領土があるんだ。 その辺 先にリンに聞いておけばよかった・・


説明は続く。


「伝承ではすべてのダンジョンは 33階層になっているそうです


伝承以外で人間が確認したのは 21階層までですが


下の階層ほど 特殊な魔獣がいて普通の冒険者や兵士では太刀打ちできません。


また、地上からの距離も遠くなるため 食料や水の確保が大変になります。」


なるほど、途中の階層から続きはできないんだ 当たり前か。




「魔族を倒したときに宝物が出たり ダンジョンの中に宝箱などが


あったりはしませんか?」 思わず聞いてしまう。


シャーリーさんは 「ゴブリンやオークは武器を使用します。


中には人間を襲って拾った高価な武器や 魔族領で作られた武器などが


手に入ります。身に着けている装飾品なども 魔族領製品は高値で買い取られます。


ダンジョンの中の魔物の居住部分でも 宝飾品や食料・種・薬品など


魔族領でしか手に入らない希少品もございます。」


なるほど それがドロップアイテムか


効率が悪いような気もする・・・


「薬草採取でしたら ゴブリン・イノシシ系・熊類・蛇類・たまにオオトカゲ


また、一番危険な パウンドウルフなど狼に遭遇するかもしれません。


それに備えた装備が必要になります。 魔物も野生動物もいます。


魔物に遭遇した時に戦うなり逃げるなり 対応できなければ 命を落とします。


ここに来られた時に旅の経験はされたと思いますが


この辺りはダンジョン地域ですので 魔物の割合が高いので


他よりは危険な地域になります。」


一通り説明したシャーリーさんは俺を見てうなずく。


俺は恐る恐る 「あの・・ 登録してもいいですか?」と尋ねると


「魔物の持ち込みや宝飾品の買取は 商人の登録証でも 取引できますが・・ 


登録されますか?」 シャーリーさんは 引き止めたいんだろう。


でも せっかくの異世界だし ここは冒険者になりたい!


そして横に座るリンを見る


リンも登録していい? 聞くと


「はい!お弁当を作って 持っていきます。」 リンもその気だったらしい。




シャーリーさんに 2人で登録しますというと 承知しましたと


記入用紙とペンを取りに行った


リンも 「魔物がいたら ご主人様が飛ばしてしまいますので 楽しみです!」


十分、理解していた。


2人で登録してもらい シャーリーさんが確認する。


リンは職業欄に奴隷と書いていたので メイドや使用人に訂正しますか?と聞かれたが


リンが いえ、奴隷です。と答えた。 まぁいいか




2人の登録を終えて ギルドを出ると リンが嬉しそうに


「楽しみですね。」と言っていた


その後 遠慮するリンに料理が色々覚えられるからと 押し切り


2人で 昼食を食べる。


その他の必要なものを買いそろえるべく立ち上がろうとすると リンが


「小麦粉と油を少量ずつ買いたいのですが ご主人様にも


少し持っていただいてもよろしいでしょうか?」


さっき洋服屋を出るときも 自分の分の服を俺が持っていると


私が持ちますと 譲らなかったから 召使としての葛藤があるのだろう


「大丈夫 俺にも持たせて。荷車なんかがあれば楽なのかな?」


大家のバローズさんの家の横にも  置いてあったな


リンに説明して 先に荷車を探すべく 街を歩く。


小麦の販売所に 思っていたような荷車が置いてあったので聞いてみると


街の北側で 馬車などと一緒に売っていると教えてくれた。




日の長いこの世界なので ゆっくり歩いて向かうと


ありました。北側のこのエリアは 職人街と呼ばれ


材木が立ち並び 大工道具屋 農具屋 その他 ザルや甕や


木桶などが店先に並び ホームセンターのようだ。


教えられた一角に 荷車が売っていて そのうちの小さめのものを買った


銀貨2枚だった  4万円くらいか安いのかな?


ちょっとほかのお店も見てみよう




農具屋で薬草採取に使う鎌を2本買い 


包丁や調理道具 いろいろ買い込み ありました武器屋が


覗いてみると 多種多様な武器が並んでいる。


何をお探しで? 店主のガタイのいいおじさんが聞いてくる


「剣か短剣を見たいんですが。」と 聞いてみる


おじさんは俺の体格を見ながら 鞘に入った小さめの剣を渡してきた。


これを抜いてみな。 鞘ごと渡された剣は結構 ずっしりしている


長時間持っているのは疲れるかな?


試しに 腰の横にもって刀身を抜いてみる。


「ん~ あんた刀を使ったことは無いだろう?」 指摘された。


「これだけでわかっちゃうんですか?」 


「あぁ 普通に剣を使うやつは鞘に沿って前に引き抜く 


あんたはただ引っ張って抜いてたからな 丸わかりだ。」 おじさんはちょっと笑う


俺はあたふたと 商人でして護身用のために探しています。


じゃあ短剣がいいな と刃渡り30cm弱の短剣を見せる


「これは皮の鞘に入れて 腰にベルトで吊るして装備するタイプだ。」


あぁ、これがいいかも  同じサイズの短剣を見ると 材料や宝飾により


銀貨2枚から 金貨8枚まで幅がある 4万円から160万円か


無難に 2番目に安い 飾りのない扱いやすそうなものを選ぶ。




リンには少し重いかな?と思っていると


「女の子も持つのかい? だったらナイフだな」 と サバイバルナイフくらいの


ナイフを3種類見せてくれた 大体値段も同じくらいだ


リンが刃先を見たり 少し振ってみる それは包丁の手つきですね。


「これ いいですか?」 そもそも買っていいのか心配している


俺はうなずき  おじさんに これも下さい。と伝える。


その後 大きなリュックを2つ選んだ。




店内を見渡すと ブーツが目に入った。 革製のマウンテンブーツだ 


やはりあったほうがいいだろう 履いてサイズの合うものを選ぶ。


リンに合うものは無いなと思っていたら おじさんが奥からごそごそと


袋を出してきた。


子供用のマウンテンブーツだ サイズは良さそうだ。


新品に見えるが ちょっと古い感じも・・・


履いてみてくれと リンの前に並べる 椅子に座って


紐まで結んでみると ちょうどいい


おっ!履けるな おじさんはうなずくと この靴はただでいいぞ




もう20年もこの店にあるんだ 靴屋が持ってきたが


子供用の探索靴なんか 売れないんだよ 貴族の子供ぐらいしか履かないしな


しかも男の子には少し幅が狭い。


半年にいっぺんは 油を塗って皮をほぐし 手入れをしてたんだけど


やっとはいてくれる子が現れたってわけよ


おじさんは子供の入学式を見るような 嬉しそうな顔をしていた。


最低限の装備をそろえ お金を払い 店を出た。


リンはうれしいのか 新しい靴を履き ベルトとナイフまで付けたまんまだ


俺も短剣を装備している。




ふぅ かなり時間を喰ってしまった。


荷車を押そうと 靴を置いたとき


リンが不意に抱き着いてきた  


「私 こんなに物を買ってもらったこと初めてです。 すごい嬉しくて!」


少し肩が震えている。 ん?泣いてる?


「でも、昨日まで牢屋にいたんです 鎖をされて 死んじゃうのかと思ってました。」


リンは続けて 「今日は 反対にいままでで 一番うれしくて・・」


「だから 良くわからなくて・・・」


うん、牢から出れてよかったな? 肩をポンポンと叩く


「人が見てるからそろそろ行こうか?」 と俺が言うと


はい!リンが目をぬぐい返事をする まだ少し泣いている。


泣きながら荷車を引いてると 俺がすごく悪い奴に見えるから


もう少し落ち着いてから行こうか。

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