第4話 焼きごては やめてほしい・・

もうすぐ夕方になってもおかしくないのかな?明るいけど・・


「次は宿屋を探そうと思うんだけど いいとこあるかな?」 俺が聞く。


そこが決まれば 異世界でもしばらくはやっていけそうだ。




「ねえ その前に明日からのガイドも雇わない?」 リコが言う。


なに唐突に? 明日の稼ぎ先の確保ということか・・


まぁ、明日もこの女の子がガイドしてくれるなら デートみたいでうれしい。


「いいよ、明日もお願いするよ。」 俺はすました顔をして言う。


「私は明日、屋台の手伝いの仕事があるの。」


は、話が違う。別の子の斡旋か?




「アデルは この街どころか お金の単位も 食べるものすら わからないでしょ


放ってはおけないわ。」とリコが言う。 あやしいような・・  


まあ ただ そういわれれば記憶喪失に近いかも・・


でもって 結局は別の孤児を紹介してくるのだろう 男だったら断ろう。


俺はリコに聞く。「別の子を紹介してくれるの?」


リコはしばらく 押し黙ってうなずく。




「ちょっと事情があるの 会ってみてもらえないかな?」


事情ってなんだ? カモにされてて巻き込まれるのは やだなぁ


リコがそこまでこずるい悪党のようには見えないが・・




連れてこられたのは 2本横の路地に入る人通りの少ない通りだった


道の中ほどに大きな店があった 奴隷商店


ど、奴隷?


「私の友達が3か月前につかまって奴隷にされてるの。」 リコが悲しげに言ってくる。


「なるほど 孤児だと奴隷にされちゃったりもするのか~ 」 俺が言うとリコは


「いいえ、普通だったら孤児でもいきなり奴隷にはされないわ


リンはもともと奴隷だったの。 逃げてきて 私たちと一緒にいたんだけれど 


二の腕の焼き印を 人のいるところで見られちゃって。


小さい子をおぶってるときに まくれて見られちゃったの。」




「まず、会ってみて、お願い!」 リコが手を合わせて頼んでくる。 


ここまで来たら見ないで断るわけにはいかないだろう


少し見てみたいし。 俺はリコを促し中に入る。




「こんにちは~。」


人のいない見世物小屋のようなおどろおどろしい雰囲気ですが・・


「おお! いらっしゃい!」


出てきたのは威勢のいい 禿げたおっちゃんだった。


痩せてて目は細く なぜか白のランニングシャツを着てる


魚屋みたいなのりで 近づいてくる。


奴隷をお探しで? ふと後ろのリコに気が付く。


「なんだ後ろにいるのはリコじゃないか?」 おじさんは当てが外れたように 


俺を見比べリコに聞く。 「リンのことを見に来たのか?」


「うん 会わせて。」




10個くらいの檻が並び 一番奥の檻に行くと暗い影の中に人の姿が見える


両腕は鎖で釣り上げられている


その少女は痩せていて黒髪 一重で切れ長の大きな瞳を持っていた。




「檻に入ってるのに何で鎖でつないでるのよ!」


リコが強い口調で文句を言うと おじさんが


「いゃあな 客が来ると唾を吐きかけるんだよ。たまらんよ。」


「普通はこんな所いたくないだろうから 愛想よくするんだが


お前を信じて 誰にも買われないように ずっとこんな感じよ 何とかしてくれ。」


最後は俺に言っていた。




「リン大丈夫!?」 リコが叫ぶ


「・・リコ・・っ・・」 かろうじてささやく声が聞こえる。 


リコが俺のほうを見る 目が俺に問いかけている


断りずらい 鎖につながれた少女を見ると かわいい・・


「この子をガイドにと・・・?」


リコが真剣にうなずく。




おじさんに 金額はいくらか聞くと リコが遮るように 金貨3枚よ! という


前世に換算して60万円 ガイド30日分か いいか、この流れに流されてみよう。


リコに金貨3枚を渡し 「いいよ、このガイドさん雇います。」 と言うと


「ありがとう!!」 リコが抱き着いてきた。


目には涙が浮かんでいる。


ぶはっ! 胸とか太ももがえらく 密着してる 苦しい・・




リコがおじさんに金貨3枚を渡すと


おじさんは少し残念そうに言う


「ほんとこの子ぐらいだったら 金貨8~10枚で売れるんだがな


誰にも懐かない≪なつかない≫んで 売れやしねえ 買ってくれるんなら 


まぁこっちも助かるよ。」


鎖を外され リンをリコが支える。


 


すまないが最後にこれをしなくちゃならないんだ おじさんがつぶやき・・


焼きごてを持ち上げて見せる。


二の腕に新たな持ち主の名前を入れるのだ。




「で!主人の名前はリコにするのか?」


リコがリンを見る そして俺を見つめる 俺はそっとうなづいた。


リコがおじさんに言う


「アデルでお願いします。」


「えっ、リコじゃないの?」 俺はあわててリコに問いかける。


「孤児が奴隷を持つなんて ありえないわ。 そんな奴隷がいたら


差別されて まともに表も出れなくなるかも。」


う~む なるほどそうか・・




「アデルか わかったちょっと待ってろ」 と言うとおじさんは


アデルと組んだ焼きごてをセットして 火にくべる。


リコは水をもらいリンに飲ませている。


鉄を焼いているので 非常に暑い。


おじさんのタンクトップの理由が分かったと 納得してしまう。


焼きごては 文字が赤くなるまで熱せられる。




そこまで熱くするのか? 思わず言ってしまうとおじさんは


「そうだよ!掠れたりするとやり直しになるからな。」 立ち上がると


「よし! このぐらい焼けてれば大丈夫だ!」 おじさんは


真っ赤な焼きごてを持ち上げる。


「そこのタオルを咥えさせとけ 歯が折れることもあるからな」


うぉっ 見てられない。




それでも言われた通り 俺は添え木に置いた手首のほうを押さえる。


反対の手はリンの肩が上がらないように押さえる。


リコはリンに覆いかぶさるように 全身を押さえている。


「よし今から 焼きごてを・・・」


最後まで言わずに いきなり押し付けた。


ジュッ。熱い焼きごてがピタリとあたり 肉の焼けこげる匂いがする。


タオルをかんだリンの口元から ギャアーとくぐもった声が漏れる。


「よし、完了!」 おじさんが汗を拭う。




リンの腕にはくっきりと アデルの文字が焼き付けられた


リコが水にぬらした布をリンの腕に巻く。


リンの顔が苦痛にゆがむ こんな時だが ハッとするほど美しい。


おじさんが 「普通の奴隷はほっとくが 出来れば1週間くらいは 


軟膏をたっぷり縫って 布を巻いとけ 痛みが引くまではな。」 と言う。




「ようやくリンを連れ戻せたな リコ。よかったな。」


と言うおじさんに リコがうなずく うん。


続けて 「アデルさんよ。奴隷の管理は自己責任だ 


逃げ出したり 中には主人を襲ってくるやつもいる


だから普通は作業が終わったら鎖につないだり 牢屋に入れたりするもんだ


リコの仲間かもしれないが その辺はちゃんと考えないと


あんたの命にかかわることもあるからな。」




なるほど リンを買い戻せたら 俺は用済みか・・ 大丈夫か俺。


わかりました ありがとうございます。


「そんなこと絶対しないわ」 リコが俺の目をみて 誓うように言う。




俺たちは奴隷商店から外に出た。


隷属≪れいぞく≫の首輪とか そんな都合のいいものは無いよな やっぱり


ただなぁ~ 転生してすぐに 若いかわいい女の子が 俺の奴隷になった。


異世界転生って すごいんだな。 奴隷って 何してもいいとか・・?


そんなことはないよな。 どうなんだろ・・




そろそろ日も暮れて・・・  来ないな?


1日の時間の長さが前世と違うのかな


まあ、睡眠は必要だ リンも衰弱してるし 後は宿を見つけて そこで休もう。


「リコ、宿屋で良いところは知らないか?」


リコがちょっと気まずそうに言う


「それがねぇ 奴隷を連れていると泊まれない宿屋が多いのよ


普通だと 奴隷は馬車の荷台とかで寝るのよ。」


なんだと 先に言いなさいよ。 




うろたえている俺に リコは


「大丈夫。 家を貸したいっていう人を知ってるから。


貸家だったら1か月単位で うるさいこと言われないから


リンが普通に戻れば 食事や生活のことも面倒見てくれるし・・」


う~ん 言い訳っぽい。 ここまで全部 織り込み済みじゃないのか?




リンは支えてやっと歩けるぐらいの状態だったので


俺がおぶっていくことにした。


リコが 大丈夫?と聞いてきたが おぶってみると軽い


ただやはり女の子 色々なところが密着して ちょっと焦る。




リンはうわ言のような声で 「すみません・・ご主人様・・」と言った。


ご主人様・・? 俺のことだろうか?


最初はリンの感触に集中してしまって 


リコの道順の説明もほとんど聞いていなかったのだが


やはり体力のないこの体 少しきつくなってきた。


恥ずかしいが リコに説明すると交代でおぶってくれることになった。


体力が回復したら また交代で 俺がおぶったりした。


そうこうして ゆっくり進んでいくと西の門にたどり着いた

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