第七話 突入 2



 聖都の前に広がる森で、しばらく待機となった。


『ベアトリーチェ、今から向かうわ』


 エマヌエラから通信が入ったので、アリツィヤは出発を決める。


 アリツィヤはキャシアスをはじめとする仲間と別れを告げた。


「それじゃあ、先に行ってるわ」


「ああ。気をつけて」


 声をかけてくれたのはキャシアスだけだったが、


(協力するっていっても――みんなにとって天使は殺戮機械。天使である私を肯定的に見ることは難しい。仕方ないわ)


 アリツィヤは自分に言い聞かせて羽ばたいた。




 アリツィヤは飛んで、聖都の中心にある城に向かった。


 城の門の前に下りると、天使たちが近づいてくる。


「ベアトリーチェ、帰還しました」


「……ずいぶん早いな。ついさっき、拠点攻撃に出たばかりだぞ」


 青年の天使がいぶかるが、アリツィヤは動揺を見せないように笑ってみせる。


「急いで脱出したので」


「そうか……。入って、みんなに報告するように。念のため、武器は没収する」


「武器は持ってないわ」


「あらためる」


 天使ふたりがかりに身体検査をされたあと、ようやくなかに入れた。




 アリツィヤが聖王に会いたいと申し出ると、天使は疑わずに謁見の間まで案内してくれた。


 廊下を歩いているときに、やにわに騒がしくなる。


「おい、城壁が爆破されたらじいぞ!」


「迎撃に行きましょう!」


 爆破班がしかけたらしい。


 アリツィヤは拳を握って、先導する天使についていった。


 謁見の間で、聖王は玉座に腰かけていた。


 アリツィヤは先導していた天使の腰元から銃を引き抜き、彼を背中から撃った。


「なっ! 聖王様、避難してください!」


 彼の周りにいた警備役の天使五人が、飛びかかってくる。


 アリツィヤは冷静に、銃の照準を合わせた。


 天使の急所は、二つ。


 脳がある頭部。それと心臓ないし動力装置が眠る左胸。


 コリンから聞いたことを思い出す。


 ひとりめの頭を撃ち抜き、ふたりめの左胸を撃ち抜いたところで、肉薄された。


 アリツィヤは左手で彼の手首をつかみ、後ろに投げる。


 手を放した瞬間に彼の銃を奪って左手で構えた。


 右手の銃を後ろ手に撃って、投げ飛ばした天使にとどめを刺す。


 そこから先は訓練どおり、動いた。


 照準を合わせて撃つ。照準を合わせて撃つ。照準を合わせて――撃つ。


 両手の銃が火を噴き、天使を殺していった。


 横に転がり、天使たちによる銃弾をよけ、立ち上がってまた繰り返す。――照準を合わせて撃つ。


 天使は全滅した。


 アリツィヤは自分がひどく冷静なので驚く。


 だが、聖王は更に動揺していなかった。


(勝算があるというの?)


 アリツィヤは両手に銃を構えたまま、聖王に歩み寄る。


「……よくも、私の記憶を奪ったわね」


「そうか。記憶を取り戻したか」


「天使を呼ばないの?」


「既に呼んでいるが、君が私を撃ち抜くほうが先だろうな」


「そうね」


 問答している暇はない。


 アリツィヤは両手の銃で、聖王を狙った。


 彼は最期を悟ったのか避けずに、頭部と胸部と腹部に何発も銃弾を受ける。


 がくりと聖王は頭を垂れ、腹の傷口が開いてコードが見える。


(やっぱり機械だったのね……。何割かしら)


 そんなことを思ったとき、背中に衝撃が走った。


 撃たれたのだ、と気づいて振り向く。


 銃を構え直す暇もなく、四方八方から弾丸を撃ち込まれる。


「……この、裏切り者……」


 泣き声混じりで叫んだのは、エマヌエラだった。


 もっと撃たれると思ったのになぜか攻撃が止まり、アリツィヤは眉をひそめる。


 いきなり目の前で爆発が起こり、炎が広がる。耳に響く轟音。


 爆風で後ろに飛ばされ、なにが起こったかさっぱりわからないまま、アリツィヤの意識は深い闇に沈んでいった。

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