足場
8-1.Air
東に向かうにつれて空は徐々に青く、そしてどこかあなたの知る空気感に近くなっていきます。
さらにはあなたの運転する車両は草原の中に出来た獣道を中心にエンジン音をかき鳴らして進んでいます。ときおりこちらを見る動物たちもこちらを遠目に見たり見なかったりするくらいで危険は少ないようです。決してあなたの周りにいるサティやメシエが持っている対獣兵装ではないと思いたいですが、彼女たちも駆除用の兵装ではないと言っていますので大丈夫でしょう。
それはさながら車両ごと動物たちが放し飼いされている敷地内をドライブするかのような行いであるのは言うまでもないでしょう。
あなたもそういった場所へはいったことが無いのでほんの少し楽しんでいるようです。そしてそれを察してあなたにじゃれつくマカミもどこか楽し気で、それを見ているサティも楽し気です。メシエは猫羊をモフっています。
空が青いとはあなたにとっては当然のことですがこの世界でのことを考えると異質なものです。
元々この東部は水がありあなたの知る自然があり動物たちもいるということはサティに聞いていましたが、その動物自体は少し変わっていると言わざるをえません。
『草原にいるのは比較的温厚な草食動物が多いかな。ただ山が近いと極致にいる肉食の動物が下りてきて狩りをするみたいなんだけど、それに対抗するのがあの子たちだね』
そう言ってサティが指さしたのはこんもりと盛り上がる岩のような動物。サイかと思って尋ねたあなたにサティは返します。
『アレは花牛だね。花の香りがする牛で体表がすごく固いんだよね。肉食獣はあの牛を狙わないから、捕食されそうな小動物とかはあの花牛の近くで共生してるの。小動物は牛の身づくろいなんかを手伝ってあげてて、自分の近くにいる小動物を狙う肉食獣から守ってあげてるってかんじかな』
肉食獣に対抗する牛。まああの間抜け面がサバンナでやっていけるとは思わないが力に対抗することが出来る術を手に入れているのだろう。
あなたはそんなことを思いますが、闘牛という競技を知らないことが原因でしょう。特にあなたの生まれた国では牛同士を戦わせる神事であることに対して海外の闘牛はまあ大変です。人に痛めつけられる牛もそうですが、人一人程度軽く吹き飛ばしてしまうほどの力強さを秘めた動物が牛なのです。しかもその牛に比べても明らかに大きさが数回り以上大きいのですから。
今も小動物に集られている牛と、そんな集まりに突っ込もうとしているマカミを抑えるあなたの間でちょっとした騒ぎが起こっているのです。
牛には近寄らないようにというサティの言葉に素直に従ってゆるゆると車を走らせます。
『てとてとのようなもふもふはいないのですね』
『てとてとの毛皮で敵から身を守れるならいるのかもしれないんだけどね』
『む、あの鳥は……なんでしょう、もふもふではないと思うのですが』
『リスナーさーん?』
ぱたぱたとか、ばさばさは?
『なるほど。あのサイズ感だとぱたぱたでは無いような……しかしバサバサというには力強さが……』
オノマトペ狂のメシエは放っておくことにします。
あなたはある鳥に目を付けました。どこか見たことのあるような鳥に見えなくもないというか。そんなことを聞いていたサティがあなたに応えます。
『鳥は基本的に南北の移動しかしないはずだよ?』
ああ、なるほど渡り鳥なんだな。
『渡り鳥?』
ああ、時期によって過ごしやすい地に遠征する鳥だ。
『なるほど、それなら確かに渡り鳥かも』
南北しかないのか?
『うん? えっと北東とかちょっとのズレはあるかもしれないけど』
東は?
『東? えっと東はどうだろう。……うん無人島みたいな場所が何カ所かあるくらいかな』
あなたは考えます。この先があなたの知る海であるなら極東の島国、ファーイースト、蓬莱島、日高見国と言われるあなたの出身地があるはずですが、どうもそういう訳ではないようです。
地底には?
『地底って海の中ってこと? 何かあるかもしれないけど、星の瞳に近いから潮流の関係上近づくのが難しいんだよね』
『水の中に何かあるのですか?』
どうだろ。何かあるかもしれないし、もう何もないかもしれない。
あなたの反応を見たサティはうんうん考えつつ、じゃあこんな方法はどうだと提案しました。
『水中にいるから流されるのであって、陸にアンカーを打ちながら進めば近づける、かも?』
『それは大丈夫なのですか? いろんな意味で』
『強度計算は大丈夫、エネルギーも効率悪いけど大丈夫だと思う。でも流石に星の瞳の影響は正確に計算できないから安全の保障が出来ない、かな』
安全の保障は出来ないと言いながらサティとメシエが見るのはあなたです。
かしこいあなたはそれだけで察します。きっと水中探査用の水着装備があるが俺がいるとそれを運用するのに不都合が生じるのだろう、と。
女性陣が揃ってあなたを見る理由なんてそのくらいでしょう。これまで星裁近くを走り回っていたサティが安全の保障が出来ないという事は無くね、とあなたは考えているようです。
そんなあなたは妙案を思いつきます。それは水中拠点建築の提案でした。
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