8-2.Blue
東へ向けて走る車内から見えるのは見渡す限りの草原でしたが、途中見つけたのは視界の幅目一杯でもまだ足りない程に広がった大河です。膨大な水量と轟音と言っても差し支えの無いその川に沿って東進すること数日。あなたの目の前にはこれぞ海と言える砂浜に果ての見えない水平線の広がる絶景が広がっています。
『あ、こっちが海なんだ』
『グラウンド・ゼロのある島周辺にも黒い海があるようですが』
『あっちは水の成分が少ないみたいだし海じゃない、のかも?』
『黒い海で黒海でいいのでは? 砂の海もあったのでしょう?』
『それもそっか』
何かを話している二人をよそにあなたとマカミは砂浜で遊んでいます。波打ち際で波と戯れるマカミが海の水を飲まないように気を付けながらあなたは巧みに彼の興味をひきます。
塩水を飲ませるくらいなら砂の感触で楽しんでもらった方がいいと思いつつも、海を前に尻尾がメトロノームよりも激しく振れているマカミの気持ちもわからないではないあなたは、一度彼を抱き上げます。
あっちに俺の故郷があるんだぞ、なんて指をさしながら。
その日は海岸線でキャンプをすることにしたあなたと二人と一頭と一匹ですが、特にこれまでと変わるようなことはありません。二人が自分たちようの休憩スペースをポンと作り出し、あなたとマカミは車の中で休みます。ですのでその二つを中心の焚き火擬きに向き合うように展開しています。
そうして夜はその中心で三人と一頭と一匹で他愛ない話をして過ごすのが日課となっています。
ただしメシエは猫羊を飼うようになってからは猫羊の世話に集中するようになっていて、今も猫羊のてとてとを相手に猫吸いなのか羊吸いなのか分からない奇行に夢中になっています。
『リスナーさんは東の海に行きたいんだよね?』
サティから唐突な質問が飛んできます。確かに見てみたい気持ちはありますがあなたにとっては経験できないであろう世界旅行をしている途中なので、ツアコンでもあるサティの計画に異を唱えるほどでもありません。
あなたは質問に答えずに本来の次の予定を尋ねました。
『これまでのルートだと、星の瞳を迂回するために北ルートでグラウンド・ゼロに戻るか、西の大陸に飛ぶかだね』
北にまわりこんで雪に閉ざされる大地を戻るか、列島沿いに新大陸に進むという事だろうか。あなたは頭の中でそう解釈しつつ、そのどちらかでいいんじゃないかと伝えます。
『えっと、東に無人島がいくつかあるって言ったんだけど、もしかしたらあるかもしれないんだよね。水中遺跡』
『……えーあえーすいああいあえんあ』
顔に猫羊を敷いているロリ司令官は置いておきましょう。実際貴方には何を言っているか分かりませんので。
とはいえ水中を探索するには潜水艦が必須です。車両などのアドバイスは出来ましたがあなたは潜水艦のテクノロジーにはいまいち馴染みがありません。
ですので率直に水中を探索する方法があるのか問いました。
『あるよ? ただ運行上星の瞳の影響を受けると計器類が作動しなくなるし、そうなるとさっきリスナーさんが言った水中拠点を繋げていく方法が意外と良いんだよね』
『……ふむ。人類が生息可能な環境を整備することは可能なのですか?』
『工夫はいるだろうけど、出来るだけ原始的な方法であれば影響は薄い、と思う。どうあれ星の瞳の調査にも使える可能性があるから、水中拠点建設をすることになるかな』
なるほど。海外で橋や船で渡していた潮流の難解な場所の地下に鉄道用のトンネルを敷設するような考え方でしょうか。
確かにそれなら潮流の影響を無視して目的地まで向かうことが出来ますが、あなたがその作業をするわけではありません。あなたが提供できることと言えばせいぜいが娯楽くらいでしょう。もしくは彼女たちが配信者として数字を得るための映えを演出することです。
最近はマカミにかかりっきりになっていたのもあって、まともに彼女たちと向き合っていたとは言いづらい状況です。
あなたは自分に出来ることは可能な限り協力する、と伝えました。
『何でも?』
『ノー。可能な限りと言いました』
『じゃあそうだなあ、うーん』
サティは考え込んでしまいます。まずい、これは良くない流れです。あなたはすぐにそれを察知し、後ほど、それこそ東の海にあるという無人島についてからでもいいのではないかと伝えました。
『……そうだね。うん、じゃあ明日は無人島だね』
『わかりました。海を渡る方法はどうしますか』
『VTOLでいいんじゃないかな』
『大丈夫ですか? 飛行中に影響が出ては問題では』
『影響が出ないと思われるタイプのVTOLを使うから大丈夫だよ』
翌日、彼女たちが用意したのはVTOL、垂直離着陸機と呼ばれる見た目は丸いコンテナでした。
ヘリコプターのようなものを密かに期待していたあなたは面白い見た目にワクワクしながらも、期待したようなものでないことにほんの少しがっかりしてしまいました。
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