7-3.もふもふ



 風光明媚な湖の傍で焚き火をコンテナハウスのようなテントと車両で挟み込んでキャンプをしています。木々に囲まれた場所ではありますが丁度星空を見上げるのに苦労しない程度には開かれた場所です。


『甘い? 酸っぱい?』

『いえ、それよりもこの大きさは……』


 キャンプであれば焚き火。キャンプであればテント。キャンプであればキャンプ飯。

 あなたは今キャンプを楽しんでいます。彼女たちを囲む野生動物たちに目を瞑れば。




 サティの提案でここをキャンプ地としたあなたは一先ず焚き火を組んだ後、周囲の果樹から果実を採取しようと果樹に近づきます。遠目に見て随分と熟しているなと思いましたが、距離を詰めた結果その果実の大きさに思わず唸ってしまいました。

 見た目は林檎。サイズはスイカ。味は蜜柑と完全にキメラ果物となっていました。

 これは面白いとあなたはコーヒーソーダに挑む気持ちでそのほかの野生の果物を採取していきます。途中からあなたに合流したサティと蹴り兎に毒見をお願いしながら調べた結果がこちらです。

 黄色い苺の形をしたレモン。青いリンゴは味の薄いスイカ。赤いメロンは皮ごと食べることが出来る柿。

 カラフルでありながらどの果物も十分なほどの量と大きさがあり、なるほど野生動物もここを拠点とするのが理解できるとあなたは納得します。


 次にあなたは湖畔に近寄り魚がいないかを調べます。


『何を探しているの?』


 サティの質問に湖面を覗き込んだまま魚と答えます。

 実はあなたは水辺でキャンプをしたことがありません。あくまでイメージとして知っているだけです。

 釣った魚を串に刺し、塩を振って焚き火で焦げ目の付く魚と炎を眺めながら豪快に齧り付きたい。そんな願いをあなたは持っていたのです。


『うーん……』


 しかしあなたのその願いにサティは表情を曇らせます。

 あ、これあかんやつと直感したあなたですが、蹴り兎がその長い尻尾を水中につけ可愛らしくお尻を振ります。何をするのかと思って見ているとびくりと動きを止めてすごい勢いでジャンプしました。

 撒き散らされる水しぶきにこのいたずら兎め、モフってやろうかとあなたが蹴り兎を振り返ればびったんびったんと揺れる尻尾。いや、その尻尾で見事に釣り上げた魚とどこか自慢げな蹴り兎がいました。


 ちらりとサティを振り返ります。


『多分、食べるのはその子じゃないんじゃないかな? その子じゃ毒を中和できないはずだけど』


 あなたが目指していた魚は毒魚だったようです。しかしその毒魚を消化できる動物がいると聞いて興味が湧きます。

 するとおもむろに近づいてきた謎毛玉がパクリと咥えてどこかに行ってしまいました。蹴り兎も獲物をとられて怒るわけでもなくぴょんぴょんと飛び跳ね謎毛玉を見送っています。

 お前かよと突っ込むあなたでしたがこの湖ではこれが普通なのでしょう。食料を争う事もなく喧嘩もなく平和な場所です。

 結局あなたは果物だけを持ち帰ります。毒魚も食料に出来そうな動物もおらず、たまにはヘルシーな食生活でもいいだろうと納得することにしたようです。


 そうしてキャンプ地に戻ればモフモフに包囲網を敷かれモフモフ地獄を味わいながらもどこか花が待っていそうな雰囲気のメシエがいました。

 その表情は相も変わらず無表情でしたが謎毛玉を撫でるその手は優しくゆったりとしたものでした。


『もふもふ』


 しかしすでに手の施しようがないほどにモフモフ地獄の最中にいるようです。見た目が相まってどうしようもなくもふもふにわからされた少女になっています。

 あなたはそれを見ないふりをして焚き火の近くに座り込み果実で腹を満たすことにしました。


 焚き火にあたりうとうとしているといつの間にか周囲に気配が増えていることに気が付きます。まああなたに気配を感じ取ることはできないので視界に映ったその物体が誤魔化すことが出来ないくらいに大きくその存在を主張していただけなのですが。

 サティが角狼と言っていた動物がそのサティの背後で伏せています。腹にサティを抱えるようにして足を投げ出していて、サティはその角狼の腹に寄り掛かってモニターを展開していました。

 あなたが目を覚ましたのを感じ取った角狼とサティがこちらへ顔を向けますが、角狼の顎はあなたを一口で飲み込めてしまうほどの大きさです。表情を引きつらせながらできるだけ角狼と視線を合わせないようにサティへ目配せします。


『あ、起きた』

『今日は早いですね』


 うたた寝していただけで本格的に寝入ったわけではないと何故か言い訳します。

 角狼をクッション代わりにしているサティも謎毛玉に覆われているメシエもこの星空の下で動物たちと戯れることを選んだようです。

 あなたは彼女たちの配信活動を応援するスタッフでもあります。拾ってきていた黄色い苺を咥えてカメラの位置調整に勤しむことにした。


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