7-2.ひふひふ
水面が風に吹かれキラキラと光を乱反射する湖。さほど大きくはありませんがこの周囲にいる動物たちの憩いの場となっているようで湖畔には大小様々な動物たちがいます。
大きな4つ足の鹿のような狼のようの生き物や、ぴょんぴょんと垂直飛びを繰り返すウサギのようなネズミのような動物、湖の水を飲んでいたのか口元を湿らせ顔をこちらに向けている猫のような生き物もいます。猫にしてはフォルムが福福しい気もしますが。いえ、猫ならそれもいいのかもしれません。
あなたは湖のほとりに近づいて周囲を見渡すサティに尋ねました。ここに何の目的があったのかと。
『生態調査かな。分かりやすく野生動物が自然繁殖してるのがこの辺りくらいでね』
『……なるほど。これまでの調査記録にもありますね。……ええと』
珍しくメシエが言い淀んでいます。喉に魚の骨が刺さったかのような、ジャーキーが歯と歯の間に挟まったかのように言い淀む様子が気になったあなたはメシエに先を促します。
『何と言えばいいのでしょう。この周囲の地形、気象、地質によって動物たちの生態が変質した可能性がある、との事ですが』
『ここは気付いた時に見に来ないと、集まっている動物たちが様変わりしていることがあってね。もうほぼ原種はいないんじゃないかな』
例えばアレ、と指さしたのは鹿のような角を持つ狼のような動物。狼から角が生えてることを疑問に思えばいいのか、草を食んでいることに気を休めればいいのか、それとも背後の樹木と比べてもやたら大きく見えることを疑問に思えばいいのかあなたには判断がつきません。
半ば茫然としながらも取れ高に繋がるものであれば自然とカメラを向けてしまうあなたはサティとメシエ、その奥に動物が映るような位置取りをとります。
『角狼だけど特徴的なのは融和性かな。狼のもつ社会性から環境が変化したことで食性が変化して性質が落ち着いたみたい。そこから果実をとるために体高やサイズそのものが変化して角まで生えた、と思う』
『経過観察の報告が欠落しているようですが』
『毎回調査していたわけではないので』
苦笑いを浮かべて頭を掻くサティといつの間にやら着替えたメシエがやれやれと首を振るワンシーン。関係性がとても分かりやす構図です。今回のサムネイル候補を記録したあなたはサティの話に耳を傾けます。
『あっちは蹴り兎。見ての通り草食性だけど有り余る脚力で周囲の環境を破壊することがある困った子だね。ただ木の実や高所の食べ物を落としてくれるからか他の動物たちと敵対していたりってことは見たこと無いなあ』
『自身の脚力を制御できないのですか?』
『小心者みたいで物音にびっくりしてぴょーんと』
遠くでぴょんぴょんしている蹴り兎とやらは何を表現しているのだろう。
『ああ、あれは挨拶みたいなものかな。喜んだりしているときもああやってぴょんぴょん飛んでるよ』
『感情表現が全て足に直結しているのですね』
サティがぴょんぴょんと言ったときにピクリと表情が動いたがオノマトペに反応したのか。あなたの中でサティの精神年齢の引き下げが行われたところで話は次に移ります。
『あれは……なんだろう?』
『わからないのですか?』
『えーと……これかなあ?』
『……いえ、あのフォルムから察するにこちらの方では……』
どうやら新種のようで二人は討論を開始してしまったようです。あなたはと言えば二人の間からこちらを見るデブ猫のような生き物としっかり目が合っているような気がしてカメラにズームを要求します。今は返しのが無いので映り
しかしあなたのそんな不躾な視線が気に障ったのかにゅっと伸ばした手足をとことこと動かし畔をこちらに向かってきます。
あなたの声にならない反応に気付いたサティとメシエも謎猫に気付いたようで、その足取りを静かに見守っています。
謎猫はとうとうしゃがみ込んだあなたの前にやって来て鳴き声を上げました。
ナとメの間のような文字にし辛い声でこちらに向かってその渋い低音を響かせます。あまりにも渋い声質にあなたは思わずびくりと体を強張らせます。
『声低っ』
思わずあなたたち三人の声がシンクロし、逆にその謎猫が驚いたのか、もこもこのその体毛がぶわりと膨らみ手足をにゅっと伸ばした反動で飛び上がってしまいました。
ナとメの間のような鳴き声を小刻みに鳴らしながら今度はしゅっと丸まってしまいました。その姿は香箱座りをしてその隙間に鼻先を突っ込む猫のようでもあります。
『猫山羊? 猫羊?』
『体毛から考えると猫羊でしょうが……』
すぐさま討論を再開させる二人にあなたは申し訳なくなってしまいます。
丸まってしまった無害な毛玉による土下座のポーズにあなたは心の中で謝罪しました。
いえ、誰が悪いとかいうのは無いとは思うのですが。
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