5-3.やってしまったメシエさん
『……そしてこのように掘削機能を備えつつ、周辺の土砂が落ちてこないように速堅性のある流動金属と内部に気体層をつくることで衝撃や振動に強くし崩落状況に関わらず内部の空間を維持したままマシンを起動することが出来ます。さらには作成した内部にいる存在の安全にも寄与しつつ半永久的に動作し続けますのでこういった地中での活動に適しています。もちろん内部に補助パーツをつける余裕もあり深度によってかかる負荷に対応することが可能です。これは新しすぎますね』
メシエの高速詠唱が終わりました。シールドマシンの説明にしては長かったですが、わずかにドヤ顔に見える彼女の珍しい表情を収められたのであなたが彼女の忠実な部下風に演じていたことは無駄ではなかったのでしょう。
話は数分前までさかのぼります。結局地下通路から繋がる道はありませんでした。こんな遺跡があった、それで済めば再びあなたが運転する車での旅が始まったのでしょうが、そこは未来志向の二人。何やら測定器で行き止まりの先を調査していたようでここからならという場所を既に見繕っていたようです。
そして選んだ一つの行き止まりで彼女たちは掘削を提言しました。
なるほど。当然あなたに拒否権などありませんが彼女たちに尋ねました。
この地、特にこの上は土砂が崩れた形跡が見えるくらいに地盤に不安があるが、掘削して進んで大丈夫なのかというものです。答えたのはメシエでした。
大規模でなければ問題ない。せいぜいが人が一人か二人並んで通るの困らない程度だと言いました。とはいえ、掘っただけでは道が簡単に崩落する可能性もある。そうして徐に作り上げたのが直径2mほどのシールドマシンでした。
『貴様。ドリルが好きだと聞きましたが』
好きです。大胆な告白は女の子の特権ですがドリルを見せつけて男の子に好きだと言わせるほどの恋愛強者のメシエに踊らされたあなたは彼女に畏怖の念を抱きます。
しかし、あなたは知っています。ドリルが嫌いな男の子はいませんが、シールドマシンというものが如何に鈍足であるか。
あなたの知るシールドマシンはこの何倍もの大きさでトンネルを掘り道をつくる素晴らしいマシンですがその回転がとてもゆっくりで進む速度も非常に遅いものです。少なくとも自分の歩みより遅いというのは致命的です。更に一番の問題はシールドマシンが常に壁面に向いてゆっくりと回転しているので掘っている感が薄いという事でしょうか。面を掘るという特質上ドリルの角度も平べったく感じるというのが、しいて言えばマイナス点。
『これで掘っていくの?』
『ええ。御覧なさい。この全断面トンネル掘進機の威力を!』
シールドマシンの別名を力強く叫びながらメシエが手を翳します。
周囲はいつの間にあなたが手配したライトによるスタンドライトのような角度でライトアップがなされておりシールドマシンを闇の中に浮かび上がらせていました。
そしてメシエの合図とともにゆっくりと動き出し、それが徐々に加速していきます。
あなたも最初はおおーと暢気に声を上げていましたが、シールドマシンは加速を止めません。少なくともあなたの知るシールドマシンはドリルが一回転するのに数秒はかかっていたはずですがメシエが作り出したシールドマシンはごりごりと掘り進み金属で舗装された通路をつくりながら進んでゆきます。
時折ごっとかガリガリと何かを削る音が聞こえますがシールドマシンは驚くべき速さで進んでいきます。少なくとも歩くよりは早く前に進んでいたのです。
これにはあなたも驚きますが、なによりあなたの中で一つのルールが更新されたことにあなた自身が驚いています。
即ちシールドマシンはトンネルをつくる機械にあらず、これは紛れもなくドリルであると。
『進路の調整はどうするの?』
『こちらで設定済みです』
すたすたと進んでいく二人を追いかけて行きます。周囲は鈍い光を跳ね返す金属なのかそうじゃないのかわからない素材で囲まれており、あなたは足の裏に感じる反発に僅かなブレを感じます。これがこの金属の中にある層だと感じますがわかるくらいに反応しても大丈夫なのだろうか。
まあいいやと思考を投げ出したあなたは動作するシールドマシンに向かって歩みを進めるためにこちらに背を向けている二人の画を切り抜いておきます。まるでこれから重要な作戦に挑む直前のような二人の後ろ姿に彼女たちの推しはきっと歓声を上げることでしょう。なんかカッコいい会話も続けていることだし。
あなたはふと思いついた言葉を投げかけます。
これでどのくらい掘るんだ?
『しばらくとだけ。そう遠くないうちに発見があるでしょう。期待していなさい』
どこかニヒルな笑みを浮かべたメシエのできる女感が半端ない言葉にあなたはカメラを向けたまま静止してしまいました。
こんなイケメン上司いたらそりゃ夢女子なんて言葉が出来るわけだ。可愛らしい見た目とサイズ感に反してしっかりとした
どちらかといえば彼女の強火推しのほうが怖いのではないだろうか。そんなことを考えながらあなたはとことこと進む二人に続いてトンネルを進むのでした。
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